配慮
ヴァイルが昼食を作り終え弁当としてそれぞれの鞄に入れた後、お互いに学校に向かう準備を始める。
あまり一人にしてほしくないとティエルは思っているようなので着替え以外に髪の毛の寝癖を直したり顔を洗うときは同じ部屋にいる。
それから着替えることになるとヴァイルは一時的に外には出るが扉の近くにいてティエルが着替えるのを待っている。
時たま本当に近くにいるのかどうかをティエルが訪ねてくるのでヴァイルは答えて自分が近くにいることを知らせている。
ティエルの着替えが終わるとヴァイルが着替えを始める。
前日は同じ部屋にいる状態で着替えたがさすがに何度もそういうことをする気にはなれないのでちゃんとティエルには違う部屋にいてもらう。
ヴァイルの着替えはそこまで時間がかからないためティエルがそこまで不安視することは無い。
互いに着替えが終わるとヴァイルはティエルに今日の予定を確認する。
授業のサイクルが書かれている用紙をティエルは覚えているようだからだ。
ヴァイルの元にはそういう要旨は届いておらず昨日ヨルにサイクルが書かれている用紙を求めたことがあるがティエルと会話する切っ掛けにしろと言われ渡されなかった。
またヴァイルにとって学校、と呼ばれるものに来るのは初めてで明日から二日間休みが設けられているということも知らなかった。
何も知らされていないことを不服に思いながらも今現在は何とかなっているので強く言う事がヴァイルにはできなかった。
ちなみに休みに入る一日前の授業は午前中は全部魔法学で午後からは植物学と歴史学の座学を行うみたいだ。
教室に着き、時間になると全員でグラウンドに出て魔法の練習が始まる。
生徒たちはこぞって魔法を使い始めるがヴァイルとティエルは生徒たちから離れた場所で練習を始める。
行われるのは昨日と同じようなことでまず最初にヴァイルがティエルの作った水球の中に手を入れる。
昨日と同じで特に何も感じなかったためヴァイルの手をティエルは取る。
ヴァイルは何も感じないがティエルの首輪は光を放ち苦しみ始めてしまう。
光は昨日よりも光量が大きく、ティエルはただ顔色が悪いだけではなく苦しそうな呻き声すら上げてしまう。
「う゛……う゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」
いきなりで反応が遅れたヴァイルだったがすぐに止めにかかる。
「ティエルさん」
ヴァイルは昨日と同じようにティエルの肩を叩く。
「…………」
過剰な反応をすることなくゆっくりと無言のまま手を離したティエルの首物にある首輪は光を失っていく。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません。大丈夫、です」
行絶え絶えと言った様子で答えるティエルは顔色が悪い。
奴隷の首輪が光っているということはその首輪に何らかの魔法が発動していることになるのだろうがそもそも自分の首輪に対して魔法が使えるのかどうかもヴァイルにはわからないしもし使えたとしても一体どんな理由で魔法を使っているのか、どのような魔法を使っているのかわからない。
だからと言って何をしているのかを聞きだすのではなく自分から話してくれることを望んでいるので聞くこともできない。
「ティエルさん、貴方の体調が悪くなるようでしたら今の方法をやめましょう。しばらく魔法で生み出した水に触れ、魔力の存在を感じられるようにするという方法のみを取りませんか?」
そのためヴァイルはその方法自体をやめることを提案した。
「で、です、が……」
ティエルは歯切れの悪い返事を返す。
「少し体調が悪くなる程度でしたら個人で調整できるかと思いますが今回の様子を見ているとそうではなさそうなので手伝ってもらっている立場から言うのは失礼なのかもしれませんが今後はその方法を禁止しましょう」
納得しそうにないティエルの意思をヴァイルは一刀両断した。
その方法で少しでも何か感じられたのなら別だが今は何も感じていないしそもそも今の方法で魔法が使えるようになるのかすらわからない状態で無理をさせるわけにはいかないから。
「……すみません……」
「謝らないでください。この会話の中であなたが謝罪しなければいけない要素はどこにも存在していません」
ヴァイルはここでも淡々と話す。その話し方は感情が乏しくてきとうに言っていると勘違いされることもあれば真剣に、そして真面目に言っているのだ、と取られることもある。
ティエルの場合、真剣で真面目に言っているのだととらえたようだ。
「……もう、無理はしないようにします」
「その方がいいです」
理解を示したティエルとヴァイルはその日の午前中の授業をベンチに座ってほかの人が魔法を使っているところを眺めるだけで終わった。




