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レイヤードリチュアル  作者: 榊 謳歌
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7

 一。七組の魔術師に一つずつ、秋の七草が『真名』として割り振られる(第二セット開始時には『真名』の引きなおしがある)。


 二。『一セット』が『四ピリオド』ある儀式を、『二セット』で合計『八ピリオド』行い、第一セット、第二セットの合計で得点の高い三組が勝者、得点の少ない四組が敗者となる。


 三。魔術師たちは、ピリオドごとに『維持』をして魔力を得るか、ババを引いて『離脱』をするかを選択する。


 四。加点の方法は、一得点ずつを地道に重ねる通常加点の『維持』と、先々のピリオドまでの得点を倍にして受け取ることのできる、特殊加点の『予約』の二種類がある。


 五。最後の一人になるまで『離脱』をしなかった魔術師は『破裂』というペナルティに触れ、そのセットで獲得した全ての得点を失う。


 六。ピリオド終了時に一度だけ、どの『真名』の魔術師がどの選択をしたのか『調査』で知ることができる。その魔術師がそのピリオドで『予約』をしていた場合は、どのピリオドまで先取りしていたのかまでをも含めて知ることができる。


 七。他の魔術師に自分の『真名』を特定されてしまうと、そのセットで稼いだ魔力の全てがマイナスになり、強制『離脱』となる。ただし、その特定に失敗した場合は外した方の魔術師が『真名』を晒して魔力が反転、その上で強制『離脱』となる。


 八。『真名』の特定は、一セットに一度だけ行うことができる(『離脱』をした魔術師に対しても有効)。


「まあ、ルールをまとめればこんな感じか」


 ボクは、この儀式のルールを箇条書きにしたノートを氷魚に見せた。


「うう、ええと…」


 氷魚はルールの一つ一つを指折り数えながら、しかめっ面でノートと睨めっこをしていた。


「儀式の構成自体はシンプルだから、すぐに憶えられるはずだ」


 そこで、ボクは氷魚から視線を外して、コテージの窓から見える外の景色に目を向けた。そこは、この魔窟と折り合いをつけることを拒否したように、平穏だった。ボクたちが今いる場所は、ボクとゴメ子に宛がわれたコテージだ。あのボロ洋館の裏手にはけっこうな敷地があり、そこには、小さいけれど真新しいコテージが存在していた。しかも、ボクたち七組分が分け隔てなく。


「この儀式で注意する点は三つです…他の魔術師よりも得点を重ねること。他の魔術師より長く居残りをしないこと。他の魔術師たちに自分の『真名』を知られないこと、です」


 それは、玲から氷魚に向けられた淡白な助言だった…ただ、玲は氷魚からはソッポを向いていたけれど。


「う、うん…あり、がと」


 氷魚の礼も、ギクシャクとしていた。

 …無理もないか。半年後に玲が政略結婚をさせられる、などと聞かされれば。


「取り敢えず…これからどう戦うか、だ」


 この気まずさを薄めるため、ボクは儀式を戦い抜く算段を立てることにした。

 そう、戦い抜くことに、決まった…だとすれば、負けるわけにはいかない。

 …この儀式に賭けられたのは、ゴメ子の魂だ。


「最終的に勝ち残れるのは三組ということですし、この儀式でワタシたち三人が再会したことは僥倖(ぎょうこう)ですね」


 氷魚と違い、玲は状況の把握ができていたようだ。その姿に頼もしさを感じる一方で、ボクは小さな戸惑いも覚えていた。昔の玲は、もっと泣き虫だったからだ。


「確かに、三人で組めるメリットは大きい」


 それに追従する形で、ボクも相槌を打つ。


「そう、なの…?」


 氷魚の口調は尻すぼみだ。


「ボクたちが三人で組むってことは、他の魔術師の動向を探れる『調査』が、一ピリオドで三回も行えるってことだ」

「そうなれば『離脱』をすべきタイミングを掴むこともできますし、ワタシたちが最後の一人となる『破裂』というペナルティに触れることもありません」


 玲は、ボクの拙い説明の補足をしてくれた。


「なる、ほど…」


 氷魚は納得したように頷いていたが、横目でちらちらと玲の様子を窺っていた。玲もその様子には気付いているようだったけれど、特に何も言わなかった。


「それでは、最初はどのピリオドまでの『予約』を行うのですか?」


 玲が、得点二倍の『予約』前提で話を振ってくる。


「第三ピリオドまで行くと踏み込みすぎかもしれないから…やっぱり、第二ピリオドくらいか」


 第三ピリオドまでの『予約』なら一挙に六点分の魔力が手に入ることになるが、ラスト手前の第三ピリオドでは、ボクたち以外の全員が『離脱』という日和見の選択をしている可能性も捨てきれない。


「手堅い判断ですね」

「他の魔術師たちは、ボクたちみたいに仲良しこよしじゃない。そう簡単に思い切った踏み込みもできないはずだ」


 なので、そもそも『予約』の使用すら躊躇う可能性もある。


「…私たち三人とも、勝てるんだよね?」


 弱々しい口調だが、氷魚も会話に参加した。


「…勝たせて、みせるよ」


 控え目な声ではあったけれど、口約束をしてみせた。

 すると、ボクの薄っぺらい約束に、氷魚は口元を小さく綻ばせる。

 逆に、双子の妹である玲は、口元を引き締めていた。


「…………」


 確かに、ボクたち三人がスクラムを組むことはメリットだ。けど、底意地の悪い言い方をすれば、それ(かせ)はでもあった。

 この儀式で勝ち残れるのは、三組だ。

 それは、換言すれば、生き残れるのは三組だけともいえる。最終的に、ボクたちの中のダレカを蹴落とさなければならなくなる…という選択肢が、出て来ない保障はない。


「…………」


 その時、ボクは決断できるか?

 氷魚や玲を、裏切ることができるか?

 そこで非情になれなければ、ボクはゴメ子を喪失することに、なる。

 …その時、ボクのセカイは、誇張でもなんでもなく、壊れる。

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