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レイヤードリチュアル  作者: 榊 謳歌


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 現在、『真名』が判明し、魔力値が確定している魔術師はこの三人だ。


アンナ・アルバラード 藤袴  マイナス八点   特定・強制『離脱』

ヨハン・バルト    葛   マイナス四点   特定・強制『離脱』

佐藤五月雨      尾花  プラスマイナス零 未特定・ 『離脱』


 そして、ボクたち三人組の現状は、このようになっている。


宮本悟      撫子  プラス四点    未特定・未『離脱』

宝持氷魚     女郎花 プラス四点    未特定・未『離脱』

宝持玲      萩   プラス四点    未特定・未『離脱』


 となると、残る最後の七草である桔梗の魔術師は、確認するまでもない。


「さあ、泣きっ面に蜂を拝ませてもらうよ」


 アンナさんの次は、ボクの独奏だ。


『…どういう意味だ、小僧』


 ヨハン・バルトは、年不相応に年季の入った睨みをきかせてくる。


「今度は、ボクが『真名』の特定をさせてもらうってことだよ」

『おお、ここにきて忙しなく局面が動いておりますね。ですが、大丈夫ですか?『真名』の特定を違えてしまった場合は、宮本さまが『真名』を晒して魔力がマイナスになってしまいますが』


 フィニートは場を盛り上げつつも、要所要所でルールのおさらいを入れてくる。


「心配には及ばないよ。なにせ、標的はあの伊達男だ…だから、これはただの漁夫の利だよ」


 ボクは、白スーツの伊達男…テオ・クネリスを指差した。


「それじゃあ、さっそく行こうか…あの伊達男の『真名』は、桔梗だ」


 当然、この結果は見るまでもない。ヨハン・バルトとテオ・クネリスは二人で組んでいて、あの二人の『真名』は桔梗か葛のどちらかだった。そして、ヨハン・バルトの『真名』が葛であることはアンナさんに看破された。なら、残るテオ・クネリスの『真名』は必然的に桔梗ということになる。


 そして、ホールに設えられた電光のモニターには、『テオ・クネリス 桔梗 四点』の文字が浮かぶ。


『お見事ですね。宮本様は、宣言通りにテオ様の『真名』を特定してしまわれました』


 木彫り面のフィニートに褒められると、背中がむず痒くなる。


「…………」


 けれど、これで三人の魔術師が『真名』を特定され、魔力を反転させられたことになる。


テオ・クネリス    マイナス四点。

ヨハン・バルト    マイナス四点。

アンナ・アルバラード マイナス八点。


 さらに付け加えるなら、佐藤五月雨という科学者は、最初から儀式を放棄している。


佐藤五月雨      零点。


 対して、ボク、氷魚、玲の三人は無傷だ。無傷のまま、次の第三ピリオドで三人同時に『離脱』をして、四ポイントの魔力を確定させる。だから、ボクたちの誰かが最後の一人になって『破裂』を受けることもない。そうなると、ボクたち三人と他の連中との魔力差は…。


 零ポイントの佐藤五月雨で、四点差。

 マイナス四ポイントのヨハン・バルトとテオ・クネリスで、八点差。

 マイナス八ポイントのアンナ・アルバラードに至っては、十二点差となる。


 この儀式において、一つのセットで得られる最大の魔力は八ポイントだ。となると、ヨハン・バルトたちとボクたちとでは絶望的な点差があることになるし、佐藤五月雨は最初からこの儀式を放棄している。


 そして、この儀式で勝ち残れる魔術師は、この七人のうちの三人だ。なら、ボクたち三人の勝利は、もはや不動といっていい。


「…………」


 ボクは、ゴメ子に視線を向けた。

 この儀式で勝ち名乗りを受ければ、ゴメ子には本物の魂が宿る。

 …ゴメ子が、本物に。

 …ゴメ子が、人間に。

 ボクと同じに、なる。

 もう、突然やってくる終わりに、ゴメ子は怯えなくても済む。


『…………』


 ゴメ子は、テオ・クネリスを眺めていた…いや、その脇にいたカノジョか。

 あの伊達男も、自身の魂を削り、あのガラティアという彼女に命を吹き込んだ。それがどれほど困難な奇跡なのか、ボクには分かる…そして、その魂を失うことの、痛みも。


「くくっ…」


 笑っ、た…あの伊達男は、笑っていた?


『おやおや、あまりの不甲斐なさに自我を失われてしまいましたか?』


 木彫り面のフィニートは、不躾な言葉を躊躇いもなく投げかける。


「なに、私も『真名』とやらの特定をしてみようと思ってね」

『おやおや…それは豪気ですね、喜ばしいことです』


 喜んでいたのは、フィニートだけだ。ボクたちは、不測の事態に固唾を呑む。


「…けど、誰の『真名』を特定するつもりだ?」


 黒衣の科学者である佐藤五月雨が、疑問を投げかけた。

 ヨハン・バルトとアンナ・アルバラードの二人は既に『真名』を特定され、魔力を反転させられている。そして、佐藤五月雨は最初から魔力の獲得をしていないので標的にはならない…となると、標的は自然と絞られる。


「おや、気付いたようだね」


 伊達男は、こちらに視線を固定していた。


「矛先は、こっちか…」

「こちらも、背に腹は代えられないんだ…だから、手心は加えないよ」


 テオ・クネリスは、宣言をした。

 これから、ボクたちの咽笛を食い千切る、と。


「私が特定する魔術師の『真名』は…」


 そこで、伊達男が指し示したのは…。

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