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レイヤードリチュアル  作者: 榊 謳歌


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『それでは、第二ピリオドを開始いたします』


 木彫り仮面のフィニートが第二ピリオドの始まりを告げ、ボクたちは再びホール内のあの小部屋の中に入ったのだが…少しの間、ボクとゴメ子は手持ちだった。


 第一ピリオドの時点でこの第二ピリオドまでの『予約』を行っていたボクたちには、このピリオドでの選択権はないからだ。

 それと引き換えに、ボクは第一、第二ピリオドを合計した分の倍となる四点分の魔力を、既に得ていた。なので、この第二ピリオドでボクたちにできることは、他の魔術師たちの動向を探る『調査』だけだった。


『おヌシ様、次はどうするんだったかや?』

「次の調査対象は…これだ、よ」


 ボクは、魔道書に浮かび上がる桔梗の文字を選択した。

 朝顔の代わりに七草入りをしたこの桔梗の魔術師は、何を意図してどう選択をした?


『桔梗 『予約』 二ピリオド 四点』


 魔道書に浮かび上がった赤錆めいた文字から判断できたのは、この桔梗の魔術師がボクたちと同様に第二ピリオドまでの『予約』で四点分の魔力を得ていた、ということだ。


 けど、戦略としてはこれぐらいの『予約』が正しい。パートナーがかかったこの儀式で、少しでも他の魔術師との頭身を開きたくなるのは当然だ。けれど、『予約』に頼りすぎるのも危険だった。『予約』をしている間は『離脱』ができなくなり、自分が最後の一人となる『破裂』のペナルティに抵触してしまう可能性が高くなる。


「下手に突っ走れば、墓穴を掘ることになるのがこの儀式だ…」


 そのことは、儀式の出鼻から最終の第四ピリオドまでの『予約』をしていた藤袴の魔術師が証明してくれるはずだ。


 そして、この第二ピリオドの段階で、萩、尾花、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗という全員の動向を、ボクたちは把握したことになる。七つの『真名』のうち、女郎花は氷魚で撫子がボク、玲は萩となっていて、三人とも第二ピリオドまでの『予約』で四点分の魔力を得ていた。


 さらに、尾花の『真名』を持つのは黒衣の科学者である佐藤五月雨だと判明していて、既に第一ピリオドで『離脱』をしているということも確認済みだ。


「となると…」


 残る『真名』は藤袴、葛、桔梗の三つとなり、真っ赤なドレスのアンナ・アルバラード、青い帽子のヨハン・バルト、白スーツのテオ・クネリスがその該当者たちとなり、この三人の中に、いきなり全ピリオドで『予約』を敢行した特攻野郎がいる…ということだ。


「…少し、状況の整理が必要か」


 現段階での全員の魔力値は、このようになっているはずだ。


撫子 (ボク)    四点。(第一ピリオドから第二ピリオドまで『予約』)

女郎花(氷魚)    四点。(第一ピリオドから第二ピリオドまで『予約』)

萩  (玲)     四点。(第一ピリオドから第二ピリオドまで『予約』)

桔梗 (?)     四点。(第一ピリオドから第二ピリオドまで『予約』)

葛  (?)     四点。(第一ピリオドから第二ピリオドまで『予約』)

尾花 (佐藤五月雨) 零点。(第一ピリオドからババを引いて『離脱』)

藤袴 (?)     八点。(第一ピリオドから第四ピリオドまで『予約』)


 ボクたち三人組を含めた五人の魔術師がこの第二ピリオドまでの『予約』を選択し、合計で四点の魔力を獲得して横並びとなっていた。


「…この団栗(どんぐり)の背比べは、読みの範疇だ」


 次の第三ピリオドからの小競り合いこそが、本当の意味での胆試しとなってくる。そして、この横並びの五人以外の尾花と藤袴だけど…こちらは気にしなくていい。両極端な両者の選択は、戦術などとは縁遠いバグのようなものだ。

 そこで、第二ピリオド終了を告げるブザーが鳴った。


「…よし」


 この儀式は、既に始まっている。途中退出は不戦敗と同じ扱いだ。だとすれば、退路は既に断たれている。


『おヌシ様…』


 ボクに抱っこされたままのゴメ子が、ウサ子を抱きしめる手に力を入れていた。ボクはこの手の中のゴメ子を失いたくないし、ウサ子からゴメ子を失わせたくもない。ボクは、ゴメ子の頭を軽く撫でながら小部屋から出た。もう一度、しっかりと褌を締め直して。


『では、この第二ピリオドも無事に終了したようですね』


 最後尾のボクたちが出て来たことを確認し、フィニートがこの場の全員に告げた。


『次は、一五分のインターバルを挟んだ後、第三ピリオドとなりますので、皆様…』


 事務的な口調で、フィニートが次の予定を口にしていたが。


『少し、待ってもらおうか』


 不遜(ふそん)な口調で進行を遮ったのは、青い帽子の年端もいかない少年だった。


『おや、何でしょうか?』

『なに、大したことではない。『真名』の特定とやらをしてやろうというだけのことだ』


 やはり不遜に、帽子の少年…ヨハン・バルトは、軽く言ってのけた。

 青色をした不穏な瞳を、隠そうともせず。

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