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今、すごく叫びたい  作者: 島波春樹
5/9

--5 「助ける」

その日の放課後僕らは地上から250m上空にいた。

17時だというのにすっかり日が落ちたビルの上にあるヘリポートのような場所に僕らは立っていた。周りに光るランプと広い丸型のヘリポートがステージに見えたけれどほぼ暗闇に近いステージはまだ公演前のような感じに見えた。多分ここが明るく照らされる姿を僕は見ない。

そこからの景色は一言で言うなら絶景に尽きた。すぎゆく人を見下ろす。車のヘッドライトとビルの明かりはどんなゲームの景色よりリアルで幻想的でどんなSFゲームよりも非現実的で未来的な世界に見えた。

「うひゃー寒いねぇ」

ここに連れてきてくれた彼女は手袋にコート、マフラーとあったかい装備を身につけて下は短いスカートと上と下のアンバランスをツッコミたい僕だったが寒さと景色でそれどころではなかった。

「うわー寒いなこりゃ」

ビルの屋上の鍵を回しながら見知らぬおじさんがきた。あったかそうな紺色のガウンコートを着込み手を擦りながら寒い寒い言いつつ笑いながら歩いてきた。

「紹介します。これ私のチームのオーナー!このビルの24階がゲーミングハウスという名の練習場!」

「始めまして、つついゆうぎと言います」

オーナーと呼ばれたおじさんは髭を触りながら笑う。

「おーどうも君があれね、教室でプロゲーマーの事バラしそうになった」

特に気にしていないように笑うおじさんとひゃーと慌てておじさんの口を塞ぐ彼女に笑った。

「もう!じゃあもういいでしょ顔見たなら帰ってよ仕事仕事!」

彼女に押されて出て行くおじさんは最後まで笑っていた。

「お父さん?」

まだ怒っている風の彼女に聞く。

「まー近いかも、家にいるよりゲーミングハウスにいる時間の方が長いし。あの人よく喋るから」

僕は彼女の話を聞きながらヘリポートのど真ん中に座り、大の字に倒れ空を見上げる。彼女も続いてスカートの裾を流し座る。

ヘリポートは冷え切っており体の芯まで寒さが染みた。取り込む空気はキンキンに冷えている。口から出る息が白く夜空を舞っていた。

「私ねー来年の9月でプロ契約切れちゃうんだ」

横に座った彼女は珍しく沈んでいるように見えたけれど僕はこういう時にどう返したらいいかを知らなかった。だから「そう」とだけ伝えた。興味はあったけれどそれ以上に踏み込んでいい話なのかがわからなかった。もう一度息を吐いて舞う白い靄を見て冷えた空気を取り込んだ。唇が乾燥していた。

「オーナーは言わないけど更新はしないと思うな。仲がいいのは私がプロじゃなくて私だからだと思うけど来る理由が減るのは寂しいね」

家族を失ったことはないけれど思い詰めた彼女の横顔はそんな感じに見えた。奥に見える夜景とこの寒空と彼女の顔はよくマッチしていた。

「なんで更新しないの?」

「…どうすれば良いのかわかんないんだ。プロの時はやっぱり仕事だったから大変な時もあって海外にずっと居ることもあって高校一年の頃は学校に全然行けてなかった。中学もプロ手前みたいな生活してたからそこでも大変だったし今みたいに学校ちゃんといってないんだよね」

どう答えればいいのかわからなかった。彼女の悩みは理解できる人が限られた問題で僕は半分もわからなかった。けれどとりあえず学校でいる彼女を思い出しながら思った事を口に出す。

「学校というか今の生活も楽しいんだ」

「そう…だからどっちをとれば良いのかわかんないんだ。このままプロを辞めてゲーミングハウスじゃなくて家に戻る生活を続けて大学に行って就職して…も良いなーって思うんだ」

僕はもう一つの選択を考えた。このままプロとして彼女はどうなるのか。ゲームの盛り上がりは流れが早い。売れたタイトルでもパッと数年で消えてゆく。それに比べて大学への進学、就職はどうだろう。あまり想像できないけれどとりあえず安定した生活は望めるだろう。きっと毎日友達に囲まれて大学生活を楽しんで就職して結婚して…良い未来だと思った。だけど

「僕なら…ゲームを続ける」

それは意味のない答えだろう。僕は彼女みたいに沢山の人に囲まれていないしゲーム以外にも海外経験の多い彼女と引きこもりの僕には天地ほどの差があってそこまでの選択肢が少ないからかもしれないけれど…それでも彼女の状況になっても幸せな生活があっても僕は結局どこかでやるような気がする。病的なまでの依存というのかもしれない。

「君はーやばいよ。ゲームやりすぎ」

そう言って笑った。

「普通、殴り合いになって2日後にゲーム教えてなんてメッセージしないでしょ。しかもゲームのことでずっと変なあだ名ついてるのに気にせずずっとゲーム続けるしやばいよ」

バカだバカと笑った。

「そうだろうね」

体の芯まで冷えた僕らはまるで凍ってしまったかのように動かずただ白い息を出していた。

凍った口で僕は言葉を紡いだ。

「それ以外にないんだ。やりたい事」

「みんなそうでしょやりたい事なんてある方が珍しいんじゃない?」

彼女は当たり前に返した。

「でも…それ以上に馬鹿にされるまでやり込んだ事を捨てるのは嫌なんだ。本気になれた事は凄く…大切なものだと思ってる」

彼女はちょっと笑った。

「本気…ゲームに本気ね」

僕は少しムカついた。だけど彼女を見た時見たことのない悲しそうな顔で天仰いでいてその気持ちが吹き飛んだ。そんな顔ができる人なんだと屋上に来てよく思う。

「馬鹿らしいって…思っちゃった。中学の頃あれだけ嫌だったのにね。ゲームに本気になるって馬鹿だろ。遊びだぞ。ガチになるな。いっぱい聞いていっぱい言われてあれだけ嫌だったのに…思っちゃった」

彼女が横で立ち上がったのをなんとなくで感じた。その頃、僕は目を閉じて空を仰いでいた。その日はやけに星空が綺麗だった。高い場所にいるからか空気が澄んでいるからか、そもそも星はいつもこれくらい綺麗で僕が意識して見ようとしていなかっただけだろうか。

「ねぇ」

目を開けて起き上がる。彼女は屋上の端に立っていた。短いスカートとマフラーがはためいている。背景に広がるビルの明かりの中逆光で少し暗くなった彼女は笑っていた。

「助けてよ」

風が吹けば倒れて落ちてゆきそうなほどギリギリに立った彼女はそれでも笑っていた。

僕は立ち上がる。

「助けてくれるの?」

助ける?何を言っているんだ?そもそも彼女に助けられてばかりの僕は何を助ければ良いのだ。

わからない

でも

顔をあげて足を出し手を伸ばす。

「助ける」

そう口に出して近づく。彼女はその場から動かず右手だけを伸ばす。僕もつられて右手を伸ばす。指先が近づきあと少しで触れる。

彼女が後ろに倒れた。髪が舞い上がり眼前には彼女が少しずつ消えていき異物が無くなり完璧なまでに綺麗で儚い夢のような風景が広がり始めた。祈るように目を閉じた彼女の伸ばされた白くなめらな右手が離れてゆく。

頭に血が上った。何を考えているんだ。右足をさらに早く出す。離れるより早く右手を掴んで引いた。

華奢で小さな彼女は簡単に引き戻せた。衝撃で倒れかかる彼女と勢いよく引きすぎた僕は屋上に倒れる。心臓が破裂しそうなくらいに脈動しているを感じる。

「ゲームとか映画みたいじゃなかった?」

横で彼女は笑った。

「バカだろ」

僕は本気で思った。

彼女が僕のだらりと伸びている手を握ってきた。冷たく細い手を払い除けることも何かリアクションを取ることも出来たけれど僕はまた悪戯だろうとほっといた。ここの所彼女に振り回されすぎている気がする。悪い気はしないが肝の冷える悪戯は今後無いようにして欲しい。

それから彼女はしばらく僕の手をずっと握っていたけれど僕は肝を冷やし体を冷やしどこもかしこもが凍りついてしまったので流石にビルの中に入った。彼女は何事もなかったかのように伸びをして写真を撮りだしたので置いて行った。

誰かが下に降りて行くのを僕は見た。もしかしたら何か屋上に用事のあった人かもしれない、悪い事をしたそう思いながら中から彼女が出てくるのを待った。凍りついた体はバキバキで伸びをして体を捻ったり手を擦りジタバタして暖を取っていると彼女は不貞腐れた様子で戻ってくるのがドアについている小さな窓から見えた。

出てきた彼女は少し驚いて

「ふーん。助けるとか言って寒空に放置とは凍え死んでたらどうするつもりだったんですかね」

ふわふわの手袋で僕の腕を叩く。気の抜ける柔らかい音が出ている。

「どうすれば君を助けることになるの」

階段に足を出していた彼女は振り返り笑いながら言った。

「どっちの道が良いかを教えてよ。プロゲーマーか進学の道かをさ」

僕にはできる気がしなかった。そもそも僕は進学のしの字も考えたことがなかった。けれど一度やると言ったからにはやるしかない。これは彼女が言った通りゲームだ。クリアするまでやりこむしかない。ゲームと考えればできる気がしだして僕は馬鹿だなと思った。

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