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今、すごく叫びたい  作者: 島波春樹
4/9

--4 動き出す世界

翌日は日曜日で2日ぶりにパソコンゲームをした。

驚くほど下手になっていた僕は思わず笑った。

そもそも僕は上手かったかすら忘れた。

だから初めてクラスメイトと会話を試みた。

「もし良ければ君が暇な時少しだけでも教えてほしい」

門前さんからすぐに返答が返ってきた。

「もちろん」

いつもメッセージに使っているアプリを今回は久々に電話として使った。中学の時以来だった。

僕は教わる前に返信してくれたお礼と教室でのことを謝った。

色々とプロゲーマーについて聞きたい事があったけれど言葉にはしなかった。まずは謝る事が僕の目標だったし隠している事をわざわざ掘り起こす事はもうしないと電話をかける前に決めていた。

それなりに覚悟がいった僕の言葉に門前さんは意外とすんなり別に良いよ、と言った。

それからインターネットで繋がった僕たちは同じ戦場、同じチームでゲームを始めた。

門前さんの一つ一つを素早くこなす丁寧さと流れるような動きどれを取っても僕を凌駕した。

一々驚く僕に彼女は言った。

「その門前さんってのはやめてよ。まだプロ云々言ってるの?」

だから【せん】と呼んだ。

彼女は「うん」と答えた。画面越しで見えないけれどちょっと笑っている気がする。

それから僕の画面を録画してそれ見ながら細かく注意点を上げてくれた。

どれを取っても目から鱗が溢れた。もはや溢れすぎて滝のように落ち続ける僕は必死にメモを取った。これまでゲームをろくに調べもしなかった僕は要領も悪く覚えも悪かっただろうがセンはゆっくりと歩調を合わせて繰り返し説明をしてくれた。

睡眠時間はしっかり摂る事、負けた所を録画して反省すること、自分の出来ることだけに集中する事。もっともっと彼女は教えてくれた。

睡眠時間をとるようになってゲーム時間が減ったのに右肩上がりに上手くなっている感触があった。イライラしなくなっていった。

笑顔が増えた。

面白い、分かる、強くなれる事が楽しいのだ。

いつぶりに感じる楽しさに僕は没頭していった。

負けた所を見なおすと明日に繋がる変更点が見つかった。

僕は毎日同じ事を繰り返す事をやめた。日々一歩ずつ進んでいる感触が確かにあった。教わってみればすぐに実践できるようなことばかりで少し考えればわかる事だけれどそれすらも考えていなかった僕は自身の浅さが人生何度目だろうか、よく沁みた。

翌日の月曜日僕はしっかりと睡眠を取ってから登校した。僕が入ると少し教室がざわついた。

来ないとでも思っていたのか。

僕は内心少し笑い顔を上げて教室を横切り席に座った。皆の少し驚いた顔と注目の視線がよく見えた。


席につき鞄を下ろし窓の外を見て、もしかしたら…本当にもしかしたらこの席に花でも置いてあった可能性を考えると心がキュッと締め付けられた。

実際今いる教室よりも2倍は高かったから『もしかしたら』と言うより『紙一重』の方が近いかもしれないけれど僕はいまいち死ぬ事に実感が湧いていなかった。もしかしたらみんな死ぬ時は死の実感なく死んでいくのではないだろうかなんて寂しくなった校庭の木を寒空の下、窓から顔を出して眺めていた。

僕はその日高校に来て初めて手を挙げて発表した。先生は特に何も言わずに手をあげる僕を指して僕は答えた。それだけだった。

内心間違っていたらどうしよう、凄く注目されるのではないだろうかなどと思ってはいたが実際そんな事はなくクラスメイトはいつものように授業を受けていたし先生も特に何も言わなかった。

答えは間違っていないので当たり前と言えば当たり前である。

それから月、火、水と僕は一日1回のペースでわかる所だけ手を挙げた。

木曜は2度手を挙げたが同じように手を挙げていた他の生徒が2回とも答えた。

少し落ち込んだ。

その日の放課後食堂へ向かう廊下で通りかかった生徒指導の先生に呼び止められた。

最近授業中に寝ていない僕は思い当たる節がないので何事かと思った。またどこかで噂話が広まったのかとドキリと心臓の音が聞こえた気がした。

生徒指導の先生は「最近授業に積極的らしいじゃないか。すごいぞどうした。顔色もいいし見違えるようじゃないか」と言って僕の肩を叩いた。

やっぱり素直じゃない僕は「どうも」だけ言ったけれど内心はとても嬉しかった。顔色一つ変えずに喜ぶ僕にやっぱり素直じゃないなとどこか笑う僕がいた。

明るく日がさした廊下は寒いはずなのに少し温かみを感じた。

その日、本当に嬉しくてカツ丼を食べていた時せんが話しかけてきた。

さっさと食べ終えた彼女は食器を返しにいく途中僕の席に寄ったようだ。驚く僕に気づいているのかいないのか横の空いている椅子に座った。

内容はいたってシンプルで今日ゲームを一緒にできるかと言う節で僕は了承の旨を伝えた。

「いつも通りメッセージくれれば良いのに」

そう言った僕に彼女は友達が一人飯をしてるなら話しかけるのがJKの嗜みなんですと笑って答え友達の元へ帰っていった。

僕は彼女の友達になった事に驚いたし友達が一人飯をしていても話しかけないであろう僕は女子高生でなくて良かったと思った。席に戻った彼女は僕の予想通り友達に囲まれて質問攻めにされていた。

あそこまで読んでいたのだろうか。気ままな彼女の事はよくわからなかったけれどその答えは夜約束通りゲームを一緒にしている時にしれた。

「いやー食堂で話しかけたじゃん?あの後私が君をトラウマになってると思ってたらしくみんなに心配されちゃったよ」

一対一で練習をしていた時に言い出したので僕は新手の精神攻撃かと思った。

そう伝えると彼女は笑いながらそんなんじゃゲーム続けれないぞと言った。

僕らは数時間ほど楽しくゲームを続け0時手前で解散した。

その翌日も彼女は教室の短い休み時間に気持ちの良い日差しを浴びながらぼーと窓の外を見ていた僕に話しかけてきた。

次はもちろん移動教室ということもなく話しかける正当な理由などないのだけれどそれでも話しかけてきた彼女は放課の予定を聞いてきた。

彼女の友達たちは何事かと様子を伺い運動部の人たちも僕の方を注目していたが気にならなかった。彼らは自分から僕に近づく事はない事を知っている。

僕は特にない事を伝えた。

「放課後遊びに行こうよ」

そう言われて特に断る理由もないので行く事を伝えた。

彼女はオッケーと答えて友達たちのところに向かった。

ただそれだけだった。

なんて事のない事だろうけれど僕はそれがとても嬉しかった。誰かに誘われて遊びに行く。そんな簡単なことすらもう何年も体験していなかった。とても幸せに思えた。救われた気がした。

今の僕をみる事ができるのは校庭だろうけど誰も見ていない事を祈った。多分僕は気持ち悪い顔をしている。頬が緩んでいるのを感じる。そのまま授業が始まるまで僕は日差しをたっぷりと浴び続けた。

それから僕はいつも通り授業を受けた。授業中、自然と放課後のことを考えていた。

時間はあっという間に過ぎ放課後僕は彼女に連れられ同じような学生が多い電車に乗って都心近くの…といっても都心にはまだ数駅は離れたショッピングモールについた。駅と合体しているそれは僕たちみたいな学生と主婦の方が多くそれなりに混んでいた。

もう日が落ちて夕暮れが濃くなっている中明るいショッピングモールに僕らは吸い込まれるようにして入っていく。飛んで火に入る夏の虫の気持ちが多少わかった気がした。彼女は道中話しながら慣れた動きでするすると人の間を抜けてゆく。僕は人にぶつからないようにするのが精一杯でなんとか躱しながら進んだ。

学生たちが数人並ぶカフェの前で席に到着した彼女は順番待ちの予約表を確認していた。

「20分待ちだってー」

「別に良いけど」

スーパーでコーヒーを買って適当な椅子を探すのではダメなのかと言いそうになったがこのカフェという選択もきっと彼女には大きなプランがあったのだろう。僕は彼女と話しながら20分時間を潰した。

周りの人がスマホを触る中僕ら二人だけが話していた。

それは中に通され注文を頼み木の温かみを感じさせるカフェの内装とほぼ全面ガラス張りの窓から見れる景色を僕が楽しんでいるときですら話し続るほどだった。まぁ内容はカフェを見つけた経緯やここから見れる夜景のおすすめなんかを喋っていたので無関係ではないけれどよくそこまで喋れるものだと感心していた。

ようやく彼女が会話に一息ついたのは頼んだカフェオレが届いたときだった。

紙製のカップにロゴが入ったカフェオレは持ってみると温かみが手に染み込んだ。僕の頼んだ方が先に来たので彼女の話半分口をつける。

何というか想像していたカフェオレの3倍は甘い。紙パックで売っているコーヒー牛乳くらいは甘く、甘いものが得意でない僕は少しずつ飲んでいた。単純にカフェオレが熱かったというのもある。

彼女のも届いたようでまたひとはしゃぎした後、飲んでまた感想を実に楽しそうに話していた。苦手なものが無くて大変羨ましかった。

彼女のにはカフェオレにクリームとナッツが追加で載っておりカロリーと糖分を気にしていた僕を欲しがっていると勘違いしたのか彼女はそれを差し出した。

ありがたくいただく。

なんだかほとんど甘味しか感じないそれに僕はほんの少し飲んで返した。

クリーム味コーヒーナッツトッピングが正解だと思った。コンビニ売ってある紙製カップに入ったバニラアイスを半分で甘くて辞めてしまう僕には一杯で十分だった。

「ほー君も大胆だねぇ」

返したカフェオレをニヤニヤしながら飲んでいる彼女を僕は無視して日が沈み込んだ街の景色を楽しんだ。

12月も半ば夏休みからいろいろな事がありそして今年がもう終わりに近づいていた。9月から12月が一瞬と言われるが確かに僕が体験したこの数ヶ月。せんが来てからの数ヶ月は本当に目まぐるしく突然世界が早送りに変わっていった。僕の中で大きく世界への見方が変りつつあった。進み出した世界の事を思い出しながらカフェオレを飲んだ。やっぱり熱いし甘かった。

それから僕らは頼んだホットケーキとパイが届く時間をやっぱり話して過ごした。彼女はどんなことでも楽しそうに話した。その内容は友達と遊びに行った時の話や海外での話なんかで僕には遠い話にどれも聞こえたけれど楽しそうに話す彼女をみるのは僕も楽しかった。

パイとホットケーキをそれぞれ食べて僕らはショッピングモールを出た。そのまますぐ電車で帰るつもりだった僕を彼女は引っ張っていった。

明るいショッピングモールを横切り映画の商店街のような個人経営のお店とチェーン店が同じくらいの割合で並ぶ道を進んだ。寂れていない商店街というのを初めて見たけれど新しい店やコンビニが多く、時代に適応した姿がそこにはあった。

が、彼女の目的は商店街には無いようで散策を楽しもうとしている僕を引っ張りどんどんと進んでいく。僕が彼女にどこへいくのか尋ねても秘密の一点張りだった。

住宅街に入り人々の暮らしの明かりがマンションやアパートから見てとれる商店街より少し暗い道に入った。けれど彼女のお目当ては住宅街にも無いようでさっさと抜けて僕らは10分ほど歩いて大通りに出て彼女は止まった。

そこはビル街でたまに立ち食い蕎麦や綺麗なレストランなんかがあったが僕らはそこに並ぶいつもは何の変哲もない街路樹に目を奪われた。

このシーズンだけなのか今日からなのかいつ頃からそうなっているかは分からないけれど枯れて葉っぱも無くなった街路樹は白を基調とし緑や赤などが混ざったイルミネーションが僅かな点滅を繰り返しながらずっと奥まで飾られていた。何個も棒状のライトがついた街路樹は幻想的という言葉がよく似合っていると思った。

同じ目的なのかチラホラ上を向いて歩く人達もいたけれど気にならなかった。僕は周りの人が気にならないくらいにはイルミネーションを楽しんでいたのだと思う。彼女はマフラーとコートをはためかせ忙しなく動き、大通りについてからずっと騒ぎながら写真を何枚も撮っていた。僕に映るように言ったけれど遠慮しておいた、そのかわり何枚か彼女のスマホで撮ってあげた。写真に初心者も玄人も関係ないだろうと思って撮った僕の写真は彼女のより数段映えていなかった。けれど、それでも彼女は大いに喜んでくれたので写真の出来に納得のいっていなかった僕は救われた気がした。大袈裟かもしれないけれど。

僕らは一通りイルミネーションで彩られた大通りを楽しんでからショッピングモールまで戻り駅で彼女と別れた。家はさらに都心に近いそうで僕は驚いたけれどよくよく考えれば彼女は一般の高校生ではない。そんな事をすっかりと忘れてしまった自分がいた事に驚いた。まぁ顔には出さず僕はそれなりに人の多くなった電車に揺られて普通に帰った。

翌日僕はクラスメイトに話しかけられた。それは彼女と授業での強制的な関わりを除いて本当に久しぶりにクラスメイトから声をかけられた。

朝のホームルームまでの時間に相変わらず僕は外を眺めていた。昨日のイルミネーションは校庭の木ぐらいの高さだったか、もう少し高かったかなんて下らない事を考えていたので声をかけられて驚いた。それが男の声だったのでさらに驚いた。

「よっ!門前と昨日どこ行ってたの?デート?」

ズカズカと単刀直入に聞いてくる彼に驚いた。

茶髪のマッシュとオールバックのいい所取りのような髪型の彼は隣にサラッと座り、窓の縁に乗って体を半分くらい外に出している。

危ない彼の質問に答える。

「ちょっと行った駅でショッピングモールと街路樹を見て帰ったよ」

へー、良いなデートのお手本みたいなルートだなと彼は笑った。その間ふらふらと窓枠から体を出して不安定そうにしているかれに僕は純粋に思った事を聞いた。

「何で声をかけたの?」

「いや?お前と門前がどこ行ったのか普通に気になるくね?珍しい組み合わせじゃん最近仲良いし」

さも当たり前の事をしているように彼は言うが僕はそれがよくわからなかった。ただ珍しい組み合わせなのは同意できた。

その後も彼は休み時間のたびに暇そうに外を見る僕に話しかけてきた。普段何しているのかとか本当にプロゲーマーなのかとか1日1回から2回くらい のペースで話しかけてきた。

彼女も相変わらず突然話しかけてくる。今日遊べるのかとかゲームをしようだとかもっと下らない話だってした。そんな誰にでもあるであろう日常を僕は2年の2学期終盤でようやく手に入れれた気がした。友達は2人だけでも僕は嬉しかった。喜びを噛み締めていたらあっという間に2学期が終わった。

終業式が終わりまた話しかけにきた彼と一緒に話しながら教室に帰った。彼は冬休み遊びに行こうと誘ってくれた。彼女の誘いよりも嬉しかったかもしれないなんて口が裂けても言えないが思った。同性は気が楽でいいと、この日贅沢な思いができた。

僕が教室に入るなり先に帰っていたであろう彼女は僕を待ち構えていたのか近づいてきた。友達の彼はさっと離れていった。空気をよく読む友達と全く空気の読めない彼女にため息が出かけた。

放課後の予定を聞かれ僕はいつもの通りないと答えた。彼女は放課後すごい所に連れていってあげると言っていた。

黒くて光って大きくそびえたっているとも付け足して言っていた。

面白いと思ったのか不思議の国のアリスに出てくる猫のような笑みを浮かべる彼女に僕は冷めた顔でビルだろと答えると面白く無さそうにしていたので悪戯好きの彼女に一矢報いれた気になった僕はちょっと嬉しくなって聞いた。

普通の女子高生ってそんな感じなのか、と

彼女は大体こんな感じじゃないのと答えた。分からないけれどと付け加えて、僕はやっぱり女子高生じゃなくて良かったと思った。

僕らはそんな感じの下らない会話をした。明日には、いや数時間後には忘れていそうな事をそれからも少し話して解散した。10分の休み丸々彼女は隣で話していた。僕はたまに返答しほとんど彼女が喋ったのだけれど終始上機嫌な彼女の話の内容はどこかへ連れて行く事以外忘れたけれど楽しかった事だけは記憶に残った。そういえばなんだかんだとよくどこかに彼女と出かける事が増えている気がする。毎回僕は彼女の案内で楽しい思いをさせてもらっている。今回も楽しみだと思いながら先生からの冬休みの過ごし方を聞き流していた。

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