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今、すごく叫びたい  作者: 島波春樹
3/9

--3 馬鹿な行動

それから深まった秋がいつのまにか冬に変わり街にクリスマスの飾りが見え始めた頃になっても僕とせんとの関係は改善していなかった。あれから周りにいつも以上に張り付くクラスメイトによって謝る機会が無かったと言いたい。なんなら時が経つにつれ情報は広がり他クラスにも彼女を脅したという噂が広まって悪化していた。

噂は噂を呼び尾鰭がついておまけに足までついて勝手に独り歩きする僕の噂話はもう収集のつかないところまでいっているので彼女に謝ってどうにかなる問題でもないような気がする。そう毎日呟きながら僕は謝罪の時を先延ばしにし続けた。現実から目を背け、目を固く閉じて誰かが、もしかしたら勝手に、先生がなんて妄想と祈りを続けた。

今日も冷たい視線を浴びながら生活していた僕にその日の夜、僕にとってはとても大切なイベントが起きた。

初めてゲームの大会に出たのだ。市民会館誰でも参加可能ドッジボール大会くらいカジュアルなものだったが僕は大変喜んだ。

何しろ初めてゲームの大会に出れたのだ中学生の頃から憧れた大会、それがカジュアルの大会であろうと僕は凄く価値のあるもので貴重な経験だと思った。

深夜、大会が終わり僕は一人部屋で小躍りをするくらいには浮かれていた。


翌日の朝、両親に話した。朝は毎日忙しそうで中学以来あまり喋っていなかったからか返答は淡白なものに終わった。何か言いたげだったけれど正直話す内容はゲームに関係ないだろう。そこはあまり聞きたくなかった。そもそもあまり意味がわかっていなかったのかもしれない。

僕は学校に行きゲーマー達に話しかけた。今日も今日とてクラスの端で椅子を寄せて騒いでいた彼らなら大会出場がどれだけ凄いかわかるはずだと期待していた。ゲーマーなら誰しも大会に憧れている物だから。

「へーすげぇじゃんどんな感じだった」

そう彼らは言って僕はその大会の熱いポイントを語るつもりだった。

だけど振り向いた彼らはそうは言わなかった。

「へーだから?」

鬱陶しそうに返した彼らはゲームに戻った。

何でこんなに興味がないんだろう。僕がクラスで浮いているからかな。いや彼らがあんな幼稚な遊びをしているから大会の凄さにピンとしていないだけだろう。ぶつくさ言いながら席に戻ってから彼ら以外に話しかけれる人間がいないことに気がついた。数回、短い間話しただけの彼ら以外誰も話しかける相手がいないほどに人間関係は浅くなっていた。

僕のモヤモヤは首の辺りまで来ていたけれど僕はそれすら気づかないふりをしてウキウキした気分を引きずった


昼休み僕は気分良く食堂に向かい食堂で働くおばちゃんから頼んだカツ丼を受け取った。

今日もゆっくり来た為8割方埋まった食堂を見渡す。一人の特権で席が空いているならどこでも座れるのでゆっくりきたからといって問題になったことはなかった。

相変わらず騒がしい食堂でちょうど良さそうな席を探している時、並ぶ長机の一つを丸々占拠する集団が僕を指差して笑っていた。

がっしりした体型に健康的に焼けた肌と大きな声をして髪型もそれぞれ個性的な人ばかりでよく目立つ彼らの周りは避けるように空いていたし僕自身彼らがいる場合は避けるようにしていた。それがこの食堂のルールのようなものだと知っていた。何も知らない馬鹿で無駄に度胸のある一年が彼らが座る背中合わせの席に座り食事を終えるまで延々と後ろから嫌がらさを受けた事を知っていた。それをみんなは見ながら黙っていたことも知っていた。

だから僕は極力彼らと離れた位置で食べていたのに相手からのご指名は聞いてない。

「女の子を怒鳴って逃げられた暗い変態がいる」

どこまで人を馬鹿にしてどこまで悪意を塗りたくればそんな解釈ができるのか分からない色々引っ付いた噂話に僕は昨日の大会の喜びを忘れるくらいにはイラついた。

その後も僕の噂話で盛り上がる彼らを無視し続けていたら僕の所までわざわざ人をよこして絡んできた。尚も僕は無視を続けた。この時に行うべき適切な対処を僕は知らなかった。

もしもーしと横から騒ぎ立て椅子を掴んで揺らし僕のカツ丼に卓上で控える七味を真っ赤になるまでかけて大笑いする彼らに僕の堪忍袋は弾け飛んだ。

真っ赤なカツ丼をぶん投げる。プラスチックが食堂の硬い床に当たり鋭い音が響いた時一気に静寂が訪れた。食堂にいた全ての人が僕の方を向いていた。

彼らはそれを見てさらに大笑いしていた。僕は見られている事に気が付かないくらいにはヒートアップしていた。頭に血が上り初めて人を殴った。ジーンと傷んで次の手が出なかった。殴られた彼は痛くないようで周囲にアピールを繰り返していた。

僕は力の限り頭突きをしようと頭を引く。瞬間、後ろにあった長机まで飛んでいた。

頭が反動で上限いっぱいまで下を向き、衝撃が肺へ背中と前から同時にきた。息ができない。呼吸が浅くなりまるで肺が潰れたように感じた。卓上にあった塩胡椒に七味と爪楊枝、使い捨てフォークとスプーンは全て倒れ床に机にけたたましい音と共に散乱した。

僕がぶつかった長机に座っていた人たちはいそいそと他の卓に移った。長机の衝撃が伝わり巻き添えになったのか怒りをあらわにし舌打ちをする者もいたがその矛先は僕に向けられている気がした。

自然と涙が出ていた。泣きたくない。恥ずかしい。そんな気持ちが涙を止めようとするのにさっきの衝撃で頭のどこかが壊れたように止めどなく涙はこぼれた。

僕は涙でぐちゃぐちゃのまま叫んで殴りかかった。その時僕はちゃんと声になっていただろうか音がわからない。何も考えていなかった。ただ殴る。拳が相手に届く。そのことだけを祈って。

けれど拳が届く前に彼はひらりと躱し慣れた動作で足をかけて僕を転ばした。顔から落ちた僕は急いで起きあがろうとするも体が上がらなかった。上に乗られたのだと重みで気がついた頃には何も出来ず冷たい床に伏せていた。

僕は3年生2人に乗られ他の彼らは腹や太ももを生徒指導の先生が来る直前まで悪態を吐きながら蹴ったり踏みつけたりしていた。

周りは僕を無視して話を続けたり、冷ややかな視線を送っていた。

遠巻きに散らばったフォークやスプーンを食堂で働く叔母さん達と片付けながら心配そうに見守る見知らぬ人たちがいた。助けてくれよとは言えなかった。僕はこの構図をどこかで見た記憶があった、その時僕はこう思ったんだった馬鹿な奴だと…それ以上は考えたくない。

彼女も食堂に居た。

けれど周りと同じように僕をまるで見たことのない人のように食事を続けていた。クラスメイト達も合わせて食事を続けていた。

先生が数人来た、ふらふらで満身創痍の僕はすぐさま保健室に行くと思っていた。

実際は氷を当てながら生徒指導の先生と生徒指導室に2人きりで座っていた。


「お前、食堂で飯を食ってた先輩達に殴りかかったそうだな。周りで見てた人から聞いたぞ」

僕は言葉を出そうと口を開ける。切った口内が痛んだ。一瞬言葉に詰まった隙に先生は言葉をねじ込む。

「彼らはそれぞれ進学先が決まり就職が決まってる。彼らにもし何かあっていけなくなりましたなんて事になれば彼らの人生に傷がつく。それだけじゃない大学先に謝りに行き就職先に謝りに行き親御さんに謝りに行き彼らに期待していた多くの人が大変落ち込む、悲しむだろ」

キツイような宥めるような言い方でそれでも確固たる意志を持って僕の行いを断罪するつもりだろう。僕も一緒に謝らせるためにここにいるのだろう。何もかもがあいつらの思い通りになっている。もう喋る気力すら欠け始めていたけれど僕は声を出した。

「違うんです。あいつらから喧嘩をうってきてカッとなって僕だけが悪いわけじゃ」

「うん、わかる。だけど俺はお前だけが悪いなんて言ってないだろ?後であいつらも叱る。だけれど絶対、人を殴っちゃいけない。言葉がある。先輩に直接いうのが怖いなら先生たちを頼ることだって出来た。なのにお前は手を出した。それがいけないって話をしてる、わかるか?」

そんなわけない。おかしい。絶対間違っている。けれどうまく言葉に落とし込むことができない。焦りで頭は混乱していく。先生の言っていることは正しいけれど間違っていて、でも僕の行いも間違っていて………

……諦めそうだ。心が折れそうだ。

「それだけじゃないお前の行動ひとつでこれまで多くの人たちが築き上げてきた歴史と信頼ある学校の看板に泥を塗ってるんだぞ。お前を受け入れてくれたこの学校に傷がつく。もちろんお前の経歴にもな。それから今後入ってくる多くの後輩が傷害事件を起こした人がいた高校として入ることになるかもしれない」

確かに僕は何をやっているのだろう。本気で怒る先生に僕は何も言えなかった。

僕は反応する元気もなくなり2時間ほど怒られたが途中から僕の記憶はなかった。もしかしたら途中で逃げ出したかもしれない。

渡された反省文の端を最後まで握っていたような気がする。何に対して反省を行えば良いのか、これまでのクラスメイト達と関わろうとしなかった事か、彼女に謝れなかった事か、根も葉もない噂に収集をつけようとしなかった事か、もっともっと前のことか、どれもこれも全てだろうな。



目が覚めると泣いていた。涙で濡れた頬を拭う。

いつのまにか部屋に帰っていたようで真っ暗な部屋でベットに倒れ込んでいた。制服のままに寝ていたようだ。

夜中の12時、起き上がり鏡を見る。ボサボサの目までかかった前髪の隙間から赤く泣き腫らしたクマのできた目が見えた。真っ暗な部屋で鏡の前に立つ僕は妖怪のように見えた。

暗がりの中いつでもつけっぱなしのパソコンが見えた。ゲーミングパソコンと呼ばれる無駄にピカピカと光る相棒の電源を久々に落とした。その七色に光る冷却用の排気口が静かに動きを止めたのを本当に久しぶりに見た気がした。

暗い部屋でまた僕は泣いた。

悔しかった

しんどかった

苦しかった

周りの目もプロゲーマーになれば変わると思っていた見返せるはずだと思っていた。それだけに縋っていたと言っても良い。

だがもういい加減わかっていた。きっと違う。

プロゲーマーになれたところで自分は自分だ。

誰彼構わず見下し、大して上手くないゲームに縋りつきながら夢に努力しているんだとデカい声で騒ぎ、変わらない毎日を送る馬鹿な野郎は僕だ。

最近どうもゲームが上手くいかなくなった。それに気がつきなくて逃げた先の大会だった。それを認めたくなくて喜んだふりを続けた。あの時間に意味があったのだと思いたかった。

みんなの言う通りへーそれでだ。意味なんてない下らない話だ。

そんな事は認めたくなかったから楽しそうにしていたのに今、認めてしまった。

僕のここまで生きた時間に、捧げた時間に、何一つ意味なんてなかったのだ。

みんなはみんななのだ。

僕が変わらない限り誰も僕のタグを変えることなんてないのだ。落ちる所まで落ちたらもうどうにも出来ない。終わりだ。高校は最底辺、夢も希望も無くなった。やりたい仕事など一つしかなかった。

今後1年間とそれ以上あの目に耐えながら過ごせる自信がもう今の俺にはなかった。それを考えるだけで体が震えた。吐き気がした。この暗い部屋以外行く場所がないように感じた。逃げ出したいのにどこにも行けない。呼吸が浅くなる。涙が溢れた。頭を掻きむしりイライラが激しくなる。歯を食いしばり枕を殴ってみる。

収まらない激情をどうにも俺は出来なかった。

叫びたいのに何に対して俺は誰に対して叫べば良いのだ。苦しくて吐き出したいこの気持ちは嗚咽しか出なかった。漏れ出す嗚咽は情けない悲鳴のようで震えていた。涙が溢れた。

ひたすらに暴れて疲れた僕はキーボードが置いてある机に寄りかかった。

動きを止めた相棒が見えた。こいつがいなくなれば僕は人生をやり直せるのではないかと思いついた。こいつが僕の人生を狂わしていたのだと気が付いた。

コンセントを引き抜きぬいた。暗い部屋で輪郭だけ見える寂しそうな相棒を気にせず持ちあげた。ケーブルを抜いた拍子にモニターがキーボードの元へ倒れる。けたたましい音が出たが全く気にならない。相棒を抱え窓を開け顔を出して下を覗くとまばらに車が止まっている駐車場があった。

よかった真下は車が無いななんて思いながら相棒を外に突き出す。だらりとコンセントが窓から外に垂れた。ズシリと重みを感じる。5キロかそれ以上ある相棒を下げるたび僕の体はどんどんと窓から出て行った。

離せばこいつは死ぬ。それだけなのに手が離れなかった。重さからか手が足が震え出した。爪先立ちとなっても僕はまだ少しずつ進んだ。離せと、危ないぞと反射的に叫ぶ頭に僕は叫んだ。


「いやだ!それだけは!」


このまま心中も良いな。そう思った時には足が浮いていた。



小学生の頃親父のパソコンを使ってゲームを初めて触った。

その頃から今も続ける一人称で人と撃ち合うオンラインゲームを遊んでいたが触り程度で適当に動かしては楽しんでいた。

小学生の頃はゲームより外で遊んだ記憶がある。友達も今よりずっと多く、鬼ごっこが好きで給食を早く食べては運動場や裏庭を駆ける少年だった。そう言えばあの頃めちゃくちゃ何でも笑ってたな。


中学の頃からパソコンゲームを本格的にやるようになった。

カッコいい人がいたのだ。音楽に合わせて相手を薙ぎ倒すヒーローのような人をみた。その人はプロゲーマーでいっぱいお金を持っててかっこよくて人気者で憧れ魅了された。

その人が出ていた大会を見た。7色のライトが会場の隅から中央を照らしてそこには僕の応援する選手合わせて5人の選手が2チーム向かい合って座っていた。バスケの世界大会、NBAも行われる会場は満員に観客が入り皆中央上にある4面の特大スクリーンで映される画面に観客全員が食い入るように見ていた。

1ラウンド、バスケやサッカーの1点を取れるたびに多くの人が立ち上がり叫ぶ。応援したチームが一人倒せばガッツポーズをしスーパープレーが出ると大歓声でみんなが沸いた。

その比じゃない位に選手も叫ぶ。

「let's go!!!」

試合中に雄叫びをあげガッツポーズを取り立ち上がる。相手を挑発し胸を叩きポーズを取る。

チームメイトと取った1点を称えあい隣の仲間とハイタッチをする。

勝てば笑顔で抱きしめ合い。仲間と称賛し合う。最後は嬉しさに涙することも少なくない。

負けたチームは悔しさに泣き、次に繋げると誓う。

そんな光景に毒された僕は寝る時間が少なくなり学校で寝るようになり口数が減り次第に友達も減っていった。

家族や昔からの友達とも交流が減り僕はどんどんゲームしか行き場がなくなった。

でもあの場所に立てば変わると信じていた。


今までは


「何してるの!!!!」


携帯を落とした母親が俺に飛びついた。

はっきりと携帯が落ちた音が聞こえた。硬いフローリングの床に当たる金属の鈍い音だ。

40を超えた母親が泣きながら足にしがみつく。

足以外が外に飛び出ている僕は駐車場を見つめた。そう言えば父親無理してこのマンション買ったんだったな。

あー確か中学に上がって一人部屋を欲しがった時か。あの時はまだよく笑ってたっけ。

そんな事を考えながら僕は窓からだらりと垂れたまま下を見ていた。駐車場はまだ遠く8階と言う高さは伊達ではないなと思った。夜風が冷たい。うるさくしたけれど下の人から苦情は来ないのだろうか。


「大丈夫かゆうぎ!!!」


ドタバタと騒がしい足音と共に親父が来たのが声でわかった。

勢いよく持ち上がる体。

母と俺を抱える形で上げた父親。

母親が抱きながら泣いていた。俺も泣いた。親父も少し泣いていた。


「担任の先生から電話があって3年生達が先に喧嘩をふっかけた事を証言してくれたんだって」


全てを担任の先生から聞いた母親は落ち着いた後話してくれた。

父親はその間パソコンを組み立て直して暇つぶしかパソコンの手入れまでしていた。

翌日は土曜日で登校日だったが僕はサボった。その間特にやることがなかったのでリビングで休みの両親と過ごした。

午後になって学校が終わり両親とともに学校に向かった。

そこの校長室で担任の先生と生徒指導の先生と校長までが勢揃いで謝った。当事者の生徒達も並び謝った。

母は僕の顔色を伺った。

これ以上この人達に何を求めれば良いのか僕にはわからずもう良いと伝え僕も殴った事を謝った。

その日帰って久々にリビングで長い事使われていなかった据え置き型のゲーム機を出して家族と遊んだのち反省文を書いた。僕も人を殴ったのだ。それは怒りに任せた馬鹿な行動でやってはならない禁忌だった。そう思っていたら簡単に反省文はかけた。

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