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ざまぁ代行 貴方の無念、晴らします!  作者: りっち
カチュア
20/45

01

「……カチュアさん。今日付けで貴女を除籍処分とさせて頂きますわ。理由は勿論お分かりですわよね?」



 まるで犯罪者でも見るような目つきで、冷たく私に言い放つ学園長先生。



 学園長室に呼び出された時から、覚悟は出来ていた。


 ああ、ついにこの時が来てしまったんだ……、って。



「……済みません。ですが心当たりは、ありませんっ……!」



 働かない頭を無理矢理に動かして、どうにか学園長先生に返事を返す。



「本当に、本当に私にはなんの心当たりも無いんです! 信じてください……!」



 こんなこと言っても無駄なことは分かってる。


 だってこんなこと、ずっと言い続けてきたんですもの。



 そして、いつも返される言葉は決まっているんだ。



「またそれですか……。貴女の噂はとうに聞き及んでおりますのよ? いい加減お認めになったら宜しいのに……」



 私の訴えを聞いた学園長先生は、心底呆れたような表情を浮かべて、私にいつもの言葉を返す。



「火の無い所に煙は立たないと言いますでしょう? 全てが真実でなかったとしても、あのような噂を立てられる原因は貴女にあるのですよ?」



 噂は聞いている。


 噂を立てられるお前に問題があるに違いない。



 何度聞いたか分からない言葉。

 

 そして、何度否定してきたか分からない言葉だった。



「まったく……。貴女のような人がこの学園に在籍していたかと思いますと、背筋が凍る想いですわ……」



 悪意で彩られた学園長先生の侮辱の言葉に、動かない私の思考が怒りに染まる。


 なんで貴女が被害者面してるのよっ!? 貴女はただの傍観者じゃないっ!



「貴女のおかげで学園全体の品位が疑われておりますのよ? なのにこの期に及んでも、反省の色すら無いなんて……」


「ですからっ! 全ての噂が事実無根なんですっ! 品位を疑うと言うのでしたら、このような根拠の無い噂が真実であると吹聴している誰かの品位をお疑いくださいっ!」


「ですから……。そんな人物は見つからなかったと何度も申し上げているでしょう? それなのにまだシラを切ろうとするなんて……」



 調査はしている。けれどお前の言っているような人物は見つからなかった。


 だから噂は真実に違いない。お前は噂通りの悪童なのだ。



 今まで何度も繰り返した会話だけれど、今まで何度否定したって、1度たりとも私の声が聞き入れられる事は無かった。



「元々貴女はこの学園に相応しい人物ではなかった、ということなのでしょうね。嘆かわしいことです……」


「……本当に、調査なんてされたんですか? 私の在籍を嘆く前に、学園長先生にはやるべきことがあるんじゃないですか……!?」



 こんなことを言っても無駄なのは分かっている。


 けれど学園の除籍を言い渡されたっていうのに、こっちだっていつまでも大人しくなんてしてられないよ……!



 だけど私の言葉を聞いた学園長は機嫌を損ねた風も無く、ただただ呆れたように長い長い溜め息を吐いただけだった。



「……宜しい。貴女を受け入れた学園の長として、最後の餞別代りに貴女の起こしてきた問題をあえて告げて差し上げましょう。それが調査の証明にもなるでしょうからね」


「……本当に調査をしたのでしたら、それら全てが事実無根であったと分かるはずでしょう!? 本当に調査なんて行なわれたのですかっ!?」


「……除籍処分を不服に思うのは仕方ありません。ですが人を根拠も無く疑うようになってしまってはお終いですよ?」


「ですからっ! 根拠の無い話を信じ込んでいるのは学園長先生のほうで……!」


「学園を去った後の貴女が、私の話をいつか思い出して、少しでも品位ある人物になってくれる事を期待して……。読み上げますわよ。心して聞きなさい」



 学園長先生は、テーブルに置かれていた書類を手に取り、その内容を1つ1つ丁寧に読み上げていく。


 その声はまるで私を断罪するかのように粛々と、淡々と私の耳に届けられる。



「まず1番の問題は授業料の滞納ですわね」



 今までも何度も警告された授業料の滞納。

 

 ちゃんと学園の職員を通して、毎月手渡しで支払っていたはずなのに、なぜか記録されていない私の授業料。



「これでも学園には苦学生もそれなりに居りますから、ギリギリまで支払いを待っていたのですが……。流石に払える見込みが無いと判断させて頂きました」



 く……! なんでこの人は、こんなに申し訳なさそうな表情で嘘を並べ立てるの……!?


 学園の中で職員に手渡ししたお金を、貴女が知らないはずがないじゃない……!



「支払い能力が無いと判断された理由は、流石にお分かりですよね? 貴女が沢山の生徒から借金をしているという事実は確認済みです。個人への返済すら滞っている貴女が、学園の授業料を支払えるとは思えないと判断させて頂きました」



 同級生、クラスメイトからの借金の噂。


 私は1度もお金なんて借りた覚えはないっていうのに、なぜか私の直筆の署名が入った借用書まで存在しているのだ。



 そのあまりの意味不明さに、自分が正気を失ってしまったかのようにすら思えてしまう。



「それと度重なる器物破損ですわね。授業料もお支払い頂けていないのに、貴女の為に学園が支払った被害総額は、優に授業料を大きく超えております。貴女が在籍し続ける限り、この被害は増え続けると判断されましたわ」



 触れたこともない備品の破損の犯人扱い。


 酷い時には施錠された部屋の備品や、私が入学前に既に破損していたとしか思えないものまで私が壊したことにされている。



 むしろ私の私物こそが、いつも八つ裂きにされていたっていうのに……!



「それと勿論、成績の向上が見られないことも理由の1つですわよ? いつまで経っても成績が学園最下位近くを彷徨っている貴女からは、向上心というものが一切感じられませんでした」



 教材は破かれる。教員には無視される。


 そして自由な時間なんて無かった私に、どうやって成績を向上させろっていうの……!?



「平民の貴女がこの学園の授業についていくのは困難だったかもしれませんが、平民出身でも頑張っている生徒は沢山居ます。身分はなんの言い訳にもなりませんよ?」



 ……そうね。身分なんて関係ないでしょうね。


 たとえ貴族に生まれたからって、私と同じような扱いを受けたら間違いなく成績を落としてしまうでしょうねぇ……!?



「更には度重なる暴力行為……。貴女1人の為に、どれだけの生徒が傷ついてしまったかと思うと、心から憤りを感じますよ……!」



 私が暴力行為ですって……?


 いつも私が複数人に押さえつけられ、殴られたり蹴られたり水をかけられたりしていたのは、学園の教員だって見ていたでしょう……!



 まるでそれら全ての加害者と被害者が入れ替わって、学園長先生の耳に届いているみたいだ……!



「極めつけは、複数の男性との関係の噂ですわね。本当に下劣な行為であると知りなさい。借金の返済を理由に、不特定多数の男性を関係を持っているそうですね?」



 男性との関係?


 殴られたり蹴られたりする事を、男性と関係を持つと言うのかしら?



 それも、した覚えもない借金を理由に? 馬鹿馬鹿しい……!



「正直、貴女の存在そのものが汚らわしいと感じますわ。こうなってしまっては、最早貴女を入学させてしまった事を悔やむばかりです」



 手に持った書類を投げ捨てて、まるで汚物を見るような目をする学園長先生。


 この人はもう、私の事を人間として見ていないようだった。



「分かりましたね? 貴女が如何に下劣で品位に欠ける人物であるか、理解できましたわね?」


「…………」


「では用件は終わりです。速やかに学園の敷地内から出て行きなさい。そして2度と戻らないように」



 頼まれたって、2度とこんな場所に戻ってなんか来るもんか……!



「貴女のような人物が在籍していたという事実が、学園史上最大の汚点ですわ」


「…………っ」



 背を向けた私を追撃するかのように、学園長先生は罵倒の言葉を投げかけてくる。


 私は悔しさと惨めさに歯を食い縛りながら、感情を殺して機械的に部屋の出口へ向かう。



「そうそう。最後に申し上げておきましょう」



 出て行けと言いながら、いつまでもダラダラと喋り続ける学園長先生。


 私の存在が汚点だと言うなら、もう私に構わないでっ……!



「貴女が滞納した授業料、貴女が学園で壊した備品の被害額、この学園の名誉を著しく貶めた慰謝料。全て貴女のご実家に請求させていただきますわね? 貴女個人が払える額ではないでしょうし」


「…………え?」



 家に……、請求……? って、何を……?



 授業料……? 学園の職員に手渡しで、毎月間違いなく支払っていたのに……?


 被害額……? 私は触れてすらいない物なのに……?


 慰謝料……? なんで貴女達が被害者面して、私にそんなものを請求できるの……?



「立ち止まらないで出て行きなさい。流石に警備員を呼びたくはありませんわ」



 思わず足を止めて振り返ろうとする私を、強い口調で制する学園長先生。


 警備員……? なんで私が加害者みたいな扱いをされなきゃいけないの……!?



「最後くらいこの学園の生徒らしく、粛々とした態度で学び舎を去りなさい。そして学園の外に出たら、2度とランペイジ学園の生徒を名乗ることを禁じます」



 もう、何も考えられない……。


 学園長先生の言葉に言い返す気力も無いよ……。



 家族のみんなにどう説明したらいいんだろう……。


 家族のみんなに、私はどれほどの迷惑をかけてしまうんだろう……。



 そんなことばかりが浮かぶ頭で、学園長室を後にする。



 学園寮には戻る必要もない。


 寮の部屋にはもう私の荷物なんて無いんだから。



 全て破かれ壊され捨てられた。

 

 着る物でさえ、今着ている学園服しか残っていなかった。



 ただ一直線に学園の門へと向かう。


 今はただ、この地獄から少しでも離れたかった。



「このっ! 学園の面汚しがっ!」


「つっ……!」



 何か硬い物が背中にぶつけられる。



「金返せ! この糞女が!」


「……っ」



 頭に何かぶつけられる。卵か何からしい。



 すれ違う生徒たちから、生ゴミや石など、様々な物をぶつけられる。



 臭いな……。体、洗いたいなぁ……。


 降り注ぐ飛来物から逃れるように、ただ学園の正門に向かって駆け出した。



 

 正門が見えてくる。この地獄から逃げられる。


 そう思ったときに、門の脇に誰かが立っているのに気付く。



 その姿を見た瞬間、私の体は凍り付く。



「御機嫌ようカチュアさん。随分素敵なお召し物ですこと」



 ――――ルリナ・ランペイジ。


 この学園を取り仕切る学園執行部の役員長であり、ランペイジ学園長先生の孫娘……。



 何故か私を目の敵にして、学園在籍中、徹底的に私を攻撃してきた相手だ……。



「本日付で除籍処分となったそうですね? ふふ、今日は素晴らしい日です。貴女のような最低な人間が、この学園から去っていくのですから」


「…………」



 返事は返さない。



 黙っていてもどうせ攻撃される。


 でも口を開くと、もっと苛烈に攻撃されるだけ。



 彼女が火だとすれば、私の存在は油のようなものなんだろう。



「…………」



 無言のままで彼女の横を通り過ぎる。



 生ゴミをぶつけられて悪臭を放っている私に触れるのは流石に嫌だったのか、彼女は珍しく私に触れようとはしてこなかった。


 不幸中の幸いだな……。



「貴女のご実家への請求額は、入学金20年分相当になるでしょうね。それと貴女が生徒達から借りた分も、まとめてご実家の方に請求させて頂きますわ」


「――――っ……」



 なんで一介の生徒でしかない貴女にそんなことを言われなきゃいけないのよっ……!?


 いくら学園長の孫とは言え、なんで貴女にお金を請求されなきゃいけないのよ……!?



 悔しい悔しい悔しい……!


 こんなことを言われても黙っている事しか出来ない自分が、悔しくて悔しくて仕方ない……!



「貴女のような最低の人間を生み出したのですもの。ご両親やご親族にも、その責任を取って頂かなくてはね?」


「~~~~っ!!」



 彼女に掴みかかりたい衝動を、歯を食いしばって必死に堪える。


 ここで彼女に掴みかかりでもしたら、それこそ私の言い分なんて誰にも信じてもらえない……!



 そのまま足を止めずに通り過ぎ、あと1歩で門を抜けようとしたタイミングで、私は背中に強い衝撃を受ける。



「――――かはっ!?」



 突然の衝撃に何の反応も出来ず、私は門の外側に頭から倒れ込んでしまう。



「ははははっ! 随分門から出たがってたみたいだから、優しい俺が手伝ってやったぜ!」


「はっ……はっ……」



 息が、出来ない……! 苦しい……!



「ルリナが話し掛けてるってのに返事もしねぇゴミ女には、地面に這い蹲ってるのがお似合いだなっ! 2度と学園に近寄んじゃねぇぞ!?」



 額から、生暖かい何かが流れ出ているのを感じる。

 

 私は動くことも出来ずに、地面に突っ伏したままで遠ざかる笑い声を聞くことしか出来なかった……。




  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「……アさん! カチュアさん! しっかりしてください!」



 ぼうっとしていた思考に、私の名を呼ぶ声が届く。


 誰かが私の体に触れながら、けれどあまり動かさずに必死に声をかけてくれているみたいだった。



「意識はありますか!? 私の声が聞こえますか!?」


「――――ぐっ!? げほっ! げほっ!」



 その声に応えようとしたのだけれど、なんだか胸が痛くて上手く息が吸えなかった。


 咳き込んだせいで、余計に痛みを感じてしまう……!



「これは……、まずは何よりお医者様に見ていただかないといけませんね……」



 お医者様に……? 私ってどこか怪我を……?


 あ、そう言えばさっき、背中を思い切り蹴られて……。



「あまり動かすのも危険かもしれませんが、この場所に居続けるのも良くないでしょう。カチュアさん。少し痛むかもしれませんが、どうかお許しください」


「う……」



 声の主は私の上体を無理矢理起こして、そこに自分の体を滑り込ませ、流れるような動きで私の体を背負ってみせた。


 生ゴミ塗れの私の体を、なんの躊躇も無く。



「はっ……。ぐぅっ……」



 喋ろうとするけど、どうしても言葉が出てこない。


 お礼も謝罪も、痛む胸が邪魔して伝えることができなかった。



「カチュアさん。大丈夫ですか? 移動するのは辛いと思いますが、まずは馬車で移動しましょう。こんな場所に貴女を置いておく訳には参りません」



 私を背負ったその小柄な女性は、人を背負っているとは思えないほどしっかりとした足取りで、近くにあった馬車に私を背負ったままで乗車した。


 広い馬車の座席に、横になる体勢で下ろされる。



「急いで屋敷に戻って! それと1人、キャメル先生に大至急往診をお願いしてきて! 額の応急処置は私がするけど、恐らく背中をかなり痛めているとお伝えしておいてっ!」


「か、畏まりましたっ……!」



 馬車の外から焦ったような声が聞こえて、その後馬車が動き出した。



「少し痛むかもしれないけれど、傷口をこのままにはしておけないんです。だから額の傷と貴女の顔を、このお酒で消毒させてくださいね?」


「…………?」


「貴女の体は今衛生状態が悪いから、このままだと病気になってしまうかもしれないの。正直どれほど効果があるのか分からないけれど、やらないよりはマシでしょうから」



 そう言って女性は、清潔そうな布を何かの液体で湿らせている。


 馬車の中に、お酒の甘い匂いが充満する。



「消毒だからかなり沁みてしまうかもしれませんが……、ごめんなさい。もしどうしても辛い時は、私の腕を握ってくださいね?」



 良く分からないけれど、心底申し訳なさそうな表情をしている女性に悪意があるようには思えない。


 さきほど見た学園長先生の白々しい表情とは全然違う、心から私の身を案じているのが伝わってくるような表情だった。



「痛みで起き上がらないように、肩を押さえながらにしましょうか。いきますよ……」


「~~~~っっ!!」



 布が傷口に触れた瞬間、想像以上の激痛が走る……! 



 痛い痛い痛ーいっ!


 消毒させてくださいね? なんて軽く言われるような痛みじゃないよ~~!?



 女性は私が暴れないよう驚くほどの力で私の体を押さえつけながら、傷口とその周辺を拭ってくれた。



「……流石に医者じゃない私に応急処置以上のことは出来ないから、あとは布で傷口を押さえましょう。素人の私が変に手を出すと、治療の邪魔になりかねませんからね」



 言いながら馬車の窓に取り付けられている、見るからに高級そうなカーテンを引き裂く女性。


 その躊躇の無い行動に驚いていると、女性は私の反応を違うように解釈したようだ。



「ああ、心配しないで。これはお酒で濡らしたりしないから。止血と、周りの汚れが傷口に触れるのを防ぎたいんです」



 額の傷に優しく、高級そうな布を当てられる。


 そのあまりにも優しい手付きに、動転していた私の心が落ち着きを取り戻していく。



 落ち着いた私の頭は、ようやく目の前の女性が誰かを記憶の中から掘り出してくれた。



「あ、れ……? もし、か……て、クラー、ト先生、ですか……? どうし、て……?」


「1度しか学園に顔を出した覚えはないけれど、それでも覚えてもらえているなんて光栄です。カチュアさん」



 先生のほうこそ、何で私のことなんか覚えているんだろう……?


 何百人もいる学園生の中の1人でしかなかった私の、名前まで覚えていてくれているなんて……。



 彼女のことを忘れるはずがない。


 私を助けてくれたのは、以前学園に特別講師として招かれた大商人、チロル・クラート先生だった。



「な、なんで先生が、こんなところに……?」


「今は余計な事を考えなくていいんですよ。あと、ここは学園じゃないんだから、私の事はチロルで構いません」



 学園でお会いした時のように、優しい笑顔を向けてくれるクラート先生。


 彼女は学園とはなんの関わりもなかったからなのか、私にも普通に接してくれた唯一の先生だった。



「先生と言われるのもなんだかこそばゆいものです。私は先生どころか、生徒にすらなったことないのに」


「えっ……? そうなんで、ぐうっ……!」


「……喋らないでカチュアさん。今は色々混乱しているかと思うけれど、まずは怪我の治療をしないといけませんよ」



 静かに私の口を手で押さえ、優しく私の会話を禁止するクラート先生。


 学園で何度も押さえつけられたのとは全然違う、私の身を案じているのが手から直接伝わってくるかのような優しい拘束だった。



「話は怪我の治療をしてからにしましょう。私の家にお医者様をお呼びしますから、まずは怪我の程度をちゃんと診てもらいましょうね?」


「ふ……ふぐぅ……。せん、せい……。せんせぇぇぇ……」



 私の口に重ねられた先生の手が、あまりにも優しくて暖かかったから。


 私に語り賭ける先生の口調が、あまりにも穏やかだったから、



 学園を追放されても流れなかった涙が、両目からとめどなく流れ出す。


 痛む胸のことも忘れて、私はただ先生の手に縋って暫く泣き続けることしか出来なかった。

※こっそり補足。

 この時の御者を務めているのは新人の2人です。


 カチュア編は自分で書いていて結構気分が悪くなりました。こんなに酷い話ある? とか、それを書ける自分って最悪だな、とか思いながら、どうやって解決するか凄く迷った記憶があります。

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