起きたら、二年後
――何もかもが上手くいっていたはずだった。少なくとも、その日までは。
婚約者との仲は良好で、家族関係も円満。友人もたくさんいて、頭だってそう悪くない。
そして、何より、明日からは待ちに待った学園生活が始まるのだ!
逸る気持ちを抑えきれず、そわそわした私を見てくすくすと侍女のナンシーが笑った。
「リリーお嬢様、学校は逃げませんよ」
笑うナンシーを見て、私も笑みをこぼす。
「そうよね。でも、明日になるのがとっても楽しみだわ!」
ナンシーにおやすみの挨拶をした後、私は学園生活を想像しながら、目を閉じる。
ああ、明日からは何て素敵な日々が始まるのだろう!
なんといっても、学園では魔法が習えるのだ。私には、魔法の才能はあるだろうか。あったらいいな。自分が魔法を使うところを想像しただけで、笑みがこぼれそうになる。
その日は、とても幸せな夢を見た。私には、特別な魔法の才能があり、その力を使って、たくさんの人を幸せにできる夢。
夢ほど上手くはいかずとも、それなりに上手くいくといい。そう思いながら、翌日、いつものように顔を洗った。
そして、鏡を見て髪を整えようとして、私は叫んだ。
「私、ふけてるーー!?」
鏡を見て、思わず叫んでしまった。女性らしく豊かに膨らんだ胸元は昨日までの私にはなかったものだ。これでは、まるで、私が大人になったみたいだ!
「どうしたんですか? お嬢様、いつものお嬢様ではないですか」
私の叫び声に驚いたナンシーはいつの間にか、部屋に入ってきたらしい。
「いつものって、私、こんなに胸なかったわよね!? それに、背だってこんなに高くなかったわ」
「いいえ、お嬢様。確かに、お嬢様は学園に入学される前は、背が低くていらっしゃいましたが、学園に入学された後は背も伸びられて……今のお姿になられたではないですか」
「入学された後……? 何を言っているの? ねぇ、ナンシー、今日は入学式が行われる日よね?」
私が震える声でナンシーに尋ねると、ナンシーは不思議そうな顔で、私を見た。
「確かに、今日はロレン様の入学式も行われる日ではありますが、 お嬢様の入学式はもう二年前にされたではありませんか。もしや、留年したショックで、気がふれてしまわれたのでは……?」
嘘でしょう……!? 留年!? 留年もかなり気になるけれどいや、待って。それよりも、気になることがある。
「ロレン……って誰のこと?」
「は……? 誰、でございますか? もちろん、#義弟__おとうと__#君のことにございます。そんなことより、お嬢様、早くお支度をしないと、授業に遅刻してしまいますよ」
義弟……? 私には、弟はいない。私はマルク侯爵家の一人娘で、だから私の婚約者であるルットが、婿養子になって、マルク侯爵家を継ぐ。そうなっていたはずだ。しかし、私が疑問を口にする前に、ナンシーの手によって、いつの間にか身支度を整えられた私は、馬車に押し込められ、気づけば、学園の門をくぐっていた。