前世の名残
ベッドで寝ているとドアからノックする音が聴こえる。
「シドー。朝食の準備できてますよ!お早めに!」
宿屋の女主人のダナからモーニングコールを聴いて軽くあくびしつつ身なりを整える。
「ん~昨日は疲れもあったのもあるが…よし!」
部屋から出て受付にいたダナに挨拶をする。
「おはようございます。すっかり眠りこけてました。」
「昨日は随分と疲れた顔していたからね。よく眠れたんなら結構な事さ。あっちに朝食が置いてあるから食べておくれ。」
ダナはにこやかに話し、パンやスープなどが置いてあるテーブルを教える。
シドーは朝食を食べながら今日の予定を考えていた。
とりあえず町の把握だな。後は通貨も稼ぐ手段も考えなきゃ。
シドーは朝食を食べ終わると町の探索に宿屋を出た。ラスコの村よりは流石に人が多い。
町と言われる条件はいくつかあるが主にこの3つは絶対条件らしい。
ひとつは領主が住んでる事。
ふたつはギルドが2つ以上ある事。
みっつは人族以外が住むこと。
これを定めた王都にいる王様は人族でありながら多くの種族に助けられた事もあり、その恩恵を報いる為の法らしい。
ハルク兄さんに昔から聞かされてた通りだな。
猫みたいなしっぽがある人や犬の顔した人、あっちには猿みたいな…なっ!?
シドーは店の看板を見て絶句した。
〈ドレイヤ。ハタラクヤツ、イロイロイルカモ?〉
いやいや、いるかも?って何で疑問なんだよ!
じゃなく!この世界は奴隷何ているのか…
すると両手を揉みながらニコニコと接客する商人と口をへの字にして悩む男性客の会話が聞こえた。
「あの子売れちまったのか?」
「いや~申し訳ございませんネ~。ちょいと身体を壊しましてネ~でしたらあちらの若い猫人が元気もあって働く意力もありますからとてもお買い得ですネ~」
「ん~タイプじゃないんだよな。身体が治ったら買いにくるわ。」
男性客が店から立ち去ると商人は舌打ちしながら男の後ろ姿を睨みぼやいた。
「まったくあの獣人の女め!さっきの野郎に素直に売られてれば金になったものを…まぁ、ハンター達に探させてるからじきに捕まるだろう。そしたら野郎にテキトーにふっかけて売ってやるかネ~」
肩を揺らして店の中に戻っていった。
獣人の女?まさかな…
まぁあんな商人なら逃げたくなるのもの当然か…
シドーは足早にその場を通りすぎた。
辺りをキョロキョロ見ながら歩いて行く。
確かダナさんに教えてもらった場所ってこの辺り…あれかな?
シドーは宿屋を出る前にダナからある場所を教えてもらっていた。
〈ショウニンギルド。シゴトアリマス、バショカシマス〉
ここだ。初めてのギルドだ。
父さんから聞いてから一度は行ってみたいと思っていた場所。
この世界のギルドは国が各地方の町に設置させる仕事を与える場所。言われるハローワークの様な役割を持つ機関。
腕に自信があるなら冒険者ギルドに、
住居やお金なら商人ギルドに、
神に信仰するなら信教ギルドなど…
町によっていろいろなギルドが存在している。
王都では町以上のギルドがあるってハルク兄さんが言ってたな。
シドーは呼吸を整えて、商人ギルドに入って行った。
商人ギルドの中は…少し薄暗く思ったより閑散としていて…周りに人らしい人がいない。
それどころか受付と思われる場所にも人がいない…
シドーは一度外に出て、辺りを調べる。
「え~と…休みじゃないよな?扉空いてたし…えっ?あれ?」
シドーは再度入って受付に近づくと…やはり誰もいない。
「す、すみません!誰かいま「はい…」
シドーの背後から声がして振り向くと黒いローブを着た顔色が悪い男が現れて驚きしりもちをついた。
「うわぁ!び、びっくりした…さっき居なかったのに…」
「驚かせたようだね…私は…先程から…居ましたよ?」
指差す方向の先に机と本が置かれている…あまりに薄暗く気配もなかった為に見落としてたらしい。
「ようこそ…バルザラ商人ギルドに…私はギルド長のフランク…です…」
かなり声のトーンが低く一定したしゃべり方で挨拶をする…ん?ギルド長?
「えっ?ギルド長ですか?」
「ええ…よく驚かれます…さて…本日はどのような事で…」
「あっ、はい。仕事をしたくて。」
「仕事を…ですか?」
フランクはシドーを目を細めて見る。
顔色が悪いうえに目を細めると本当に倒れるんじゃないか心配になる…大丈夫なのか?倒れたりしないよな?
シドーは村を出て、昨日町に着いたとフランクに話す。
「そうですか…しかし…子供できる仕事…限られる…」
「大丈夫です。やりたい仕事なら決めてあります!マッサージを仕事にしたいと」
シドーは町に来る前に仕事を何するか考えていた。
できればリフレッシュを使った仕事がいいと考えていたら…前世の記憶を少し思い出す。
高校生からリラクゼーションのマッサージしかやらなかったが来る人には一生懸命な事もあり指名して下さるお客さんも多かったが、
何より人が楽になる顔を見るのも好きだった。
「マッサージ?…とは…いったい?」
「身体を揉んだり擦ったりして対価を得たいと思いまして」
フランクは考えながらシドーに話す。
「しかし…あなたは子供…大人を癒せる…のかは…無理があるのでは?」
「最近、才覚の儀式を終えて新たな技、手技療法を使って癒していきたくて」
「手技療法…聞いたことがない…魔法ですか?」
「傷は癒せないですが身体の疲れや精神の疲れを取り除くなら出来ます」
フランクは自分の腕をシドーに突き出した。
「本当に…楽になるか…この目で確かめたい…」
「わ、わかりました!そちらにあるイスに座って下さい。」
今からテストか~何か緊張してきたな…
大丈夫なはず!〈リフレッシュ〉
シドーはフランクの前腕を触り今の状態を確認する。
細身の腕に筋肉が少ない…ひんやりした感触。
まずは擦りながら温めて…
「ほぅ…」
フランクから言葉が漏れる。
馴染んだ所をゆっくり揉みほぐして…徐々にほぐす範囲を広げて…
シドーは手のひらや指先まで丁寧に揉みほぐして終了した。
「…はい。これで終わりです…いかがでしたか?」
フランクは左右差を確認すると言葉が出る。
「まるで…違う。これは…驚いた…揉まれた腕は…力むなく…力が入る…」
フランクは立ち上がり、受付の奥に向かう。すぐに1枚の紙を持ってシドーに差し出した。
「名前を聞こう…」
「シドーです…うわぁ!紙が!…えっ?」
フランクの持ってきた紙はシドーが名乗るなり一瞬で燃えてすぐに消えてしまった。
「小指を…見ろ。それが…商売を認める印だ…」
えっ?あっ!何かミサンガみたいなヒモが小指に付いてる…
「この町を出る…時には無くなる物だ…また人を雇う…時にはヒモの色が変わる…」
フランクは受付の近くにある棚からパラパラとまとめた書類と思われる物を見て話す。
「場所の…貸し出し…今なら2つほど…空きがある…ここから北側に1つ…宿屋の裏手に1つ…自分の目で確かめて…から借りるか?」
「あっあの、場所にお金とかは?」
「貸し出す場所に…お金は取らないが…その場所が燃えたり…更地になるようなら…罰則金を頂く…」
な、なるほどね…なら早速言われた場所を見に行くか!
シドーがギルドを出ようとすると…
「シドー…こちらの腕…も頼めるか?あまりに…左右差が出る…」
シドーは苦笑いしながらフランクの揉んでいない腕をほぐしたのであった。
いつお読みいただきありがとうございました。
また 頑張って書いてきます。




