第一章 二 出会い
私、泣いてたんだ。
「何か、悲しいことあった?」
彼は優しく問う。
私は顔を振った。
「い、いいえ、何でもないんです」
座ったままでは失礼かと思い立ち上がる。両手で涙をぬぐう。
「嘘だ。君、泣いてる」
「い、いえ実は」
こんな時なんと言ったらいいだろう。
「こ、この木の光が、まぶしくて、それで、光が目に入っちゃって」
私は樹木を指さした。
「……あははっ」
彼は両手をお腹にあてて笑った。無邪気な少年のように可愛い笑顔だった。
「それなら良かった」
「そ、そうなんです」
「僕の名前は、柊ひろや」
彼は右手を胸に当てる。
「君は?」
「わ、私は、りんと言います」
「りんさん、このゲームに来たのは初めてかな?」
「あ、はい。そうなんです」
「じゃあ色々教えてあげるよ。何か、困ってることや、分からないことはあるかな?」
彼は腰に両手を当てる。彼の雰囲気はどこかのお城の騎士団長のような頼もしさがあった。
「あ、あ、あ、あの、私」
「うん」
彼が柔和にほほ笑む。
「何もわからなくて」
「そうなんだ。じゃあゲームの説明をしよう」
「どうして?」
どうして親切にしてくれるのだろう。
「いや、だってこれ、ナンパだし」
私はぎょっとして瞳を大きくした。そんなことをされたのは初めてだ。
「冗談」
彼は言って右こぶしを口元に上げ冗談っぽくクスクスと笑った。
「ナンパじゃないんだ」
「そ、そうなんですか?」
「うん、ただ君をデートに誘おうかと思って」
ハンサムな顔立ちが真面目になる。真っすぐに私の目を見つめた。
ドキドキとした。
「で、デート?」
「うん!」
彼は力強く頷く。それから唇をすぼめた。
「嘘」
「嘘? そ、そうですよね」
「君に一目ぼれしたんだ」
「ひ、一目ぼれ?」
「だから、良かったら、ゲームの説明をさせてもらえないだろうか?」
「う、嘘。また嘘ですよね?」
「あははっ」
彼は空に顔を上げて高らかに笑った。そしてまた私の顔を向く。ささやくように言った。
「嘘じゃないかもしれない」
「か、からかってるんですよね? 私のこと」
「僕は人をからかったことなんてない」
「そ、そうなんですか?」
「ああ」
彼はまた自分の胸に手を当てる。
「ゲームの説明を、させてくれるかな?」
「わ、分かりました」
頭がカーッと熱くなったのを覚えている。多分、耳まで真っ赤だった。この時私は、自分が病気であることを忘れて頭の中心から溢れるなんだかよく分からない物質に身も心も泥酔してしまったんだ。体を縛る、病気と言う名の因果の鎖にヒビが入っていく。みしみしと音を立てた。そうだ、私は自由だ。