他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【9】
聞こえてきた貴族の会話は、忘れていたことを思い出させた。
私、この王子さまと結婚しなくちゃいけないんだった。
いつまでも、イケメン、目の保養なんて言ってる場合じゃない。
どうしよう。
私、結婚しちゃっていいのかな。
どう考えても、今のこの身体、私のじゃない。
夢なら、結婚までやたら長い夢を見ていたってことで済ませられるけど。
もし。もしもよ。
これが、「私たち、入れ替わってる!?」ってやつだったら!?
勝手に結婚してることになっちゃうんじゃない!?
勝手に結婚して、勝手にロストバージン。処女喪失。
それは…。さすがにマズい。同じ女子として、それだけは絶対にダメだ。
政略結婚っぽいし、王子さまイケメンで優しそうだし。
………でも、ダメ。それはダメ。
決められたことであっても、本人の了承ナシにそれはダメ。
…って、了承あったら結婚するんかーいっ!!
いくら王子さまがカッコよくたって、この身体の主がOKしたとしたって…。
その。
やっぱりダメだ。
だって、そういうのは手順あるじゃん。
まず、相手のことをよく知り、好きになって、相手からも「好きだ」とか言われて。
まあ、ドラマなんかではここで障害が起きたりするけど、それはすっ飛ばしてもいい。
少しづつ気持ちを確かめあって、相手のことしか考えられないぐらい好きになって。
それからだ。結婚とか、その先にあるものは。
間違っても、他人の身体で、結婚、夫婦から始めるものじゃない。恋ってものは。
王子がイケメンなのも、性格、悪くなさそうなのも、まだまだスタートラインに立つ要素程度でしかなくって、これで身を許すことなんて出来はしない。
たとえ、これが自分の身体であっても。
なのに、この世界の決め事は、勝手に進んでいて。
この身体、セフィア姫は、十日後には結婚するんだって。
…………………。
………。
…。
寝よう。
寝て、元に戻ろう。
舞踏会で疲れているもん。今度はちゃんと眠れるハズ。
実際眠いし。
結婚するのは、セフィア姫。
私じゃないし。
さよなら、イケメン王子さま。
さよなら、ナイスバディな私。
寝ます。
元の世界に帰ります。
アデュー。
……って。
寝たのに。
しっかり寝たのに。
朝、目が覚めても、私はセフィア姫のままだった。
どういうことっ!?
寝たら元に戻るんじゃないの!?
瀧くんも三葉もそうだったよ!?
帰れないってこと、あるのっ!?
どうしよう。
このまま、私、ずっとセフィア姫なのかな。
この世界を夢だと思いこむには、ロングランすぎる時間が流れているし、出される食事は美味しいし、自分の想像力では構築出来ないようなものが世界に溢れてるし。
つまり、夢ではなく、ホンモノ。
だから、「夢だから大丈夫」って安心するような逃げ道も残されていないってこと。
どうしよう。
このままこの世界、この状態が続くと仮定して。
その場合、私はどうしたらいいんだろう。
まず、一番大事なのは、セフィア姫ではないことをヘンに気づかれないこと。
自分からカミングアウトして誰かに相談するのならともかく、そうでない場合、「お前、誰だ!?」って尋ねられる事態だけは避けなくては。
下手にバレて、尋問(イメージ出来たのは警察で犯人がされるアレ)されても説明できないし。うっかりすると「姫はどこだっ!?」って拷問(イメージは吊るされて鞭ピシーンッ!! ってやつ)されかねない。
ブルブルブルブル…。
ダメだ、それだけはダメだ。
バレないように、最大限おしとやかにしておこう。
自分のイメージできる、最上のお姫さまを演じておこう。
…ってお姫さまって、どんなのよ。
頭のなかに浮かんできたのはディズニーの姫さまたちだった。彼女たちがゾロゾロと行列を組んでやってくる。
特にシンデレラ。
舞踏会でも踊ったし、一番近い気がする。十二時過ぎたら、ただの灰かぶりっていうのまで私に似てる。まあ、私の場合、寝ても灰かぶりに戻らないけど。
えーっと。シンデレラはどうしてたっけ!?
ニッコリ微笑んで!? そんでもって優雅にたたずんで!?
…あれ!? 具体的にどうしたらいいのかわかんない。
とりあえず、あんなふうに笑えばOKかな。
部屋に備え付けられた鏡に笑いかける。
鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰!?
それはお妃様。けれど、セフィア姫はもっとお美しい。
なーんて、ふざけれるほど、実際この姫さまはキレイだった。
金の糸のような細くしなやかな髪。澄んだ青い瞳。抜けるような、日焼けとは無縁の肌。口唇なんて吸い付きたくなるようなほどプルンっと潤ってかわいい形をしている。
うわー。私、百合じゃないけど、こんな容姿の人が側にいたら、多分惚れちゃう。同性で憧れる…とかそういう次元を飛び越えて、本気で恋しちゃいそう。
でも、今はそれが私の容姿なんだよね。
ココだけは得してる、と思ってる。
万が一、このままになったとしても、美人でいられるのは、まだ救いがあるような気がする。姫さまって立場も、考えてみれば悪くない。これがもし、ブサイクで下町(あるのかないのかは知らないけど)で暮らすことになっていたら…。食べることも出来ずに、下手したら住む場所もなくって、そのまま行き倒れるかもしれない。
異世界生活、野垂れ死に。
うう。それはイヤだ。間抜け過ぎる。
そういった意味でもこのセフィア姫になっているのは、ありがたいんだけど…。
どうしたものかな。
帰る方法を探すにしても、誰かに相談するにしても、慎重にしなくっちゃいけない。
できることなら結婚式までにどうにかしたいんだけど。
う~ん。
でも、入れ替わりって、寝る!!以外に方法あるのかな。
こういうとき、元の世界なら暁斗に相談したり出来るんだけど。暁斗ならもっと具体的に、そして親身に相談に乗ってくれるような気がする。
そして夏樹も。
あいつの場合は、面白がって首突っ込んでくる気がするけど、面白がらせておけば、いろいろパシリもやってくれる。
この世界に、暁斗や夏樹のような、相談できる、そしてアイディアを持ち合わせた、信頼できる人物っていないのかな。
この姫さまって、嫁ぐためにこの国に来てるみたいだし、昔からの友人とか、兄弟とかの存在は望めなさそうだ。
なら、こういう場合、村の長老!? 的な人物を探せばいいのかな。ロープレとかだと、そういう人物が、ちゃんと情報持って、待っててくれるのよね。
うーん。
見つかるの!? そういう人。
それも、あと9日以内に。
鏡のなかのセフィア姫が、眉間にシワを寄せてこちらを見返していた。




