他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【72】
「え!? セフィア、またなの!?」
久しぶりに会う彼女の姿に、私は絶句した。
ほっそりした彼女に似合わない、丸く膨らんだお腹。
妊娠してるのだ。
それも、確かこれで…。
「3人目よ」
愛おしそうにお腹の丸みを撫でる彼女は、紛れもなくお母さんの顔をしている。
「秋には生まれるわ。今度は女の子ですって」
楽しみよねーとばかりに微笑まれた。
「………う、うん。そだね」
こういうとき、どう言えばいいんだろう。
友だちと、幼なじみのラブラブな結果を見せつけられて、私は戸惑った。
私たちは、8年前、いきなり中身が入れ替わるという事件に巻き込まれた。普通の高校生だった私と、異世界でお姫さまだったセフィア。
お互いに入れ替わった先で、大切な人を、人生を共にしたいと思える人に出会った。
セフィアは、私の幼なじみだった和泉暁斗と。私は、セフィアの政略結婚の相手だったヴィルフリート・レオン・ローレンス王子と。
それぞれに恋をして、そして、自分の身体で、大好きな人と結婚した。
セフィアは、私の故郷だった世界で、「神代聖愛」という女の子の設定になっていた。
金の髪、青い瞳はあの世界では不釣り合いだからか、私と同じ黒髪黒目の、典型的日本人になってしまった。けど、本来持ち合わせていた整った顔立ちはそのままで、色が変わっても、美人なのは変わらない。
そんな彼女は、高校卒業と同時に、暁斗と結婚した。そして二人して大学へ。
すげー、学生結婚じゃんと驚く私に、さらに二人は追加でショックを与えてきた。
二十歳の頃、セフィアが妊娠。大学を一年休学してママになった。なんかさー。やることやってんだなーって、この時はかなりに驚いたわ。
そして復学したセフィアは、またもや卒業直後に男の子を出産。あれよあれよという間に二児の母になってしまった。
そして、今は3人目。さすがに、その子づくりのスピードに呆れるしかない。
暁斗。やる時はやるヤツだったのね。
……こっちは、まだ一人しか産んでいないのに。
そう、私と王子の間には、ようやく歩き始めた幼い子どもしかいない。
別に、王子の愛が薄いとか、冷めてるとか、そういうわけじゃないよ!?
そりゃ、王子は結婚後、王さまに即位して、何かと忙しかったけど!? 理由はそれだけじゃない。だって夜は、それなりに激しかっ……ゴニョニョ。
正確に言うと………(ゴホン)、私が妊娠について無知だったのが原因。
私、自分の身体でいられることがうれしくて、つい乗馬とかそういうのに夢中になってたのよね。思いっきり身体を動かす。それが楽しくて楽しくて。王子が出かけるなら、私も一緒に出かける。一緒に馬に乗ってどこにでも駆けていく。
でもさ。それが妊娠にはよくないことだって、コッソリとセフィアが教えてくれたの。
「それでは、赤ちゃんが落ち着きません」って。
夫婦の営みをする=子どもができる、なんていう簡単な図式だけじゃないんだ。
彼女のアドバイスを受け入れたら、効果テキメン。子どもを授かったのよね。待望の第一子。それも男の子。産むのは、もんのすごく痛かったけど。(鼻からスイカでも産めば、あの痛みを実感できると思う) それでも王子は、息子の誕生を喜んでくれたし、国を上げて子どもの誕生を祝ってくれた。
ハルトムート・クリス・ローレンス。
愛称はハル。王子によく似た緑の目、私に似ちゃった黒髪の、かわいい男の子。
ホントはここに連れてきて、セフィアにも見せたいぐらいなんだけどね。
私たちは、入れ替わりの余波なのか、時折、日食のときだけ、こうして会うことができる。わずか数時間だけだけど、お互いの近況報告をして、楽しんでいる。
まあ、セフィアの3人目妊娠には驚いたけどさ。
「その子が生まれたらさ。将来、ウチのハルのお嫁さんになってくれるとうれしいな」
「えっ!?」
セフィアが驚いている。
「なんかちょうどいい歳まわりになりそうだし!? ダメかな!?」
セフィアと暁斗の子どもなら、美人だし、性格もいい子が育つと思う。まだ生まれてもないから、青田買い中の青田買いだけど。
「それは…」
「あ!? やっぱ、異世界に嫁がせるのは、ダメ!?」
私たち、とんでもない国際結婚同士だもんね。子どもにそんな苦労をかけたくない、とか。そういうこと!?
「いえ。ただ、この子がどう思うか。ハルトムート王子と恋する間柄になれば、それでいいとは思うのですが…」
あ。そうか。一番大切なこと忘れてたわ。
親同士、勝手に相手のことを気に入ったからって、本人がどう思うかは、また別問題だわ。
「ゴメン。つい、うっかりしてた」
私たちだって、自分の思いのままに結婚したくせにね。
「でも、私だって、リナたちに娘がいたら、嫁に欲しいと思うわ」
励ますように、セフィアが言ってくれた。
そっか。こっちに嫁にもらうだけじゃなくって、向こうに嫁にやることも出来るんだ。
ん!?
ってことは、私、また妊娠しなくちゃいけないわけ!? 女の子を産むためにっ!?
考えたら、一気に自分の顔が熱くなる。
「まあ、何をそんなに赤くなってるの!?」
からかうように、セフィアが笑った。
いや、だって。子どもがほしいってことは、そういうことをするってことでしょ!?
「殿下、いえ、陛下なら、すぐにでも子どもを授けてくださいますよ」
なにその、上から目線というのか、余裕ぶっこいたような顔はっ!!
「………そう言うセフィアは、暁斗に子どもを授けてもらったわけ!?」
ちょっとジト目で、彼女を見る。
「えっ!?」
「あーんなことや、こーんなことをしたから、出来たんだよね、子ども」
「えっ!? ええっ!?」
セフィアが私以上に真っ赤になる。
「そっ、それは、まあ、そうなりますけど……」
頬に手をやり、視線をそらされた。
「リナもやっているでしょう。あーんなことや、こーんなこと」
「うえっ!? モッ、モチロンッ」
予想のナナメ上の切り返しに、声が上ずってしまう。たいして大きくもない胸を反らす。
「「好きだ」とか「愛してる」とか言われて!?」
「トーゼンッ」
「夜も眠れないぐらい激しく!?」
「当たり前だよっ」
「陛下なしにはいられないぐらい、何度も求められて!?」
「そんなの、決まってるじゃんっ!!」
……って、なんか後半、スゴいこと言われた気がする。
「セフィアも、暁斗と、そういうことしてるんでしょ!?」
「あ、当たり前ですわっ」
セフィアの声が裏返った。
「でなければ、子ども、出来ませんもの」
まあ、それもそうか。
あっ。
気がつけば、周囲の霧が少し変化してきている。
日食が終わるんだ。
「じゃあ、ね」
「ええ、それでは。リナも、陛下もお元気で」
私たちは、手を振りながらお互いを見送った。
次に会えるのは年明け。来年の金環日食の時。
…それまでに。それまでに私も。
「ヴィルッ!! 私、もう一人、子どもが欲しいのっ!! 朝までタップリ、「愛してる」とか言ってっ!!」
息せき切って頼んだら、思いっきりデコピンされた。
「アキト。子どもが生まれたら、今度は朝まで激しくしてください」
私のお願いに、アキトが困ったように眉根を寄せた。
だって。あの子はそうしてもらってるって。
私。
私。
彼女に負けないぐらい、愛されてるって思いたい。
この人生の密かなライバルに、負けたくないんだもの。
こんどこそ、おしまい。
話のキッカケは、『はいからさんが通る』(大和和紀著)でした。
先生の画業50周年記念の映画版見て→声優さん豪華~→そういや原作コミック(番外編)に紅緒さんが異世界転移のお話があったな~→異世界転移で恋愛。おもしろそうじゃん→でも、単純な転移は嫌だから→そうだ。先生の『ヨコハマ物語』もよかったよな~→男女四人の恋愛モノ→これ、異世界転移で使えないかな!?
で、『他人の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!?』は出来ました。(思考時間長っ!!)
あと、ずっと気になっていたこともテーマとして盛り込んでみようと。
―――男は、女に一目惚れして物語は始まるけど、女は、外見より中身を見て欲しいんだよね―――
男性がっていうので有名なのが『ガンダムX』と『エウレカセブン』。どちらの主人公も、ヒロインに一目惚れして、ガンダムに乗っちゃったりします。「好きになっちまったんだもん、どうしようもねーだろっ!!」有名なセリフだけど、アンタ、あの子のどこを見て好きになったのさ!?(ティファは、カワイイけどさ) 『エウレカ~』なんて、初期は「無機物を見るような目」でしか見てもらえていないのに!? (完全に、ニルヴァーシュのパーツ扱いだよね!?)
一方で、少女マンガなんかだと、平凡な、平均的な女の子が主人公になることが多い。それが、すっげーイケメンに見いだされて幸せになる話。イケメンすぎる相手と容姿平凡女。中身、性格がいいんだってことになっていくけど、それは、読んでる読者の願望だから。女の子は、「顔がカワイイ」って言われることもうれしいけど、それ以上に「性格がいいんだ」って言われることのほうがうれしい。外見なんて、化粧とかオシャレでいくらでもバケるし。外見だけ言われてると、中身はいらないのかってイジケたくなる。
この男女の恋愛への性差を、この入れ替わりで表現できたらなぁと思い、始めた次第です。
入れ替わって、中身の違う男女にしたら、お互い、好きになってくれるのか。
ホントの容姿を知らずに、好いてくれるのか。好きになってくれても、今度は本当の私の姿を見ても、変わらないでいてくれるのか。
そんな、乙女サイドの願望をこめた物語となりました。
世の中の男性諸君。
女の子を褒めるのに、外見だけ褒めてちゃダメだよ。中身も褒めてあげなくちゃ(笑)
ということで、このお話は完結となります。
長い間、連載させていただきました。(本編 71話。番外 1話)
毎日アップするという、(個人的に)無茶な目標も達成することができました。PIXIV、小説家になろう、両方に投稿させてもいただきました。
約17万字という、いもあん。最長物語となったのも、ひとえに読んでくださった皆さまのおかげです。ブクマをつけてくださった方、閲覧していただいた方、誤字報告、評価、感想をくださった方。皆さま、本当にありがとうございます。見ていただけた、読んでいただけた。それだけで物書き冥利に尽きます。いもあん。は幸せ者です。(PV、ユニークの数字一つひとつが愛おしい)
次作でまた、皆さまにお会いできることを楽しみにして。
令和元年12月3日 いもあん。




