他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【71】
そして眠れないまま夜が明ける。
まあ、それまでにしっかり寝てるし!? 問題はないんだけど。
せっかく王子に逢えたのに、なんというのか。そのせいでモヤモヤした気持ちを抱えるハメになってしまった。
あの場合、やっぱ流されてもいいから身を任せたほうがよかったのかな。いやいや。そういうのは手順があるじゃん!? でも、私もう結婚してるんだし。って、結婚したのはセフィア姫だし!? だけど、中身は私だったし!?
そこに、王子に嫌われたらどうしよう、なんて感情も混じってくるから、もうグッチャグチャ。
………………。
…………。
……。
仕方ない。今日は、なんとしても王子に謝ろう。
具体的に何を謝るのか、よくわかんないけど。それでもとりあえず謝る。
そして。
まあ、そういう雰囲気になったら、もう、その時はそのときだ。
いつかはそうなりたいと思ってこっちの世界に来たんだから、腹をくくって、身を任せよう!! そうしよう!!
よしっ!!と自分に言い聞かせる。
そう決めたら、行動は早かった。
自分でとっとと身繕いをして、部屋を出る。
っと、そこに。
「お目覚めでしたか」
なぜかシルヴァンさんが見張りのように立っていた。そしてアデラも一緒に。
「殿下がお呼びです」
そう言って、二人に半ば強引に連れて行かれた。
足早に王宮を出て、馬車に乗せられる。
「ねえ、どこに行くの!?」
王子が呼んでるって言ってたけど、馬車は街へと走っていく。王子、街にいるの!?
一緒に乗り合わせているアデラは何も言わない。ツンとすまして乗っているだけ。
ガラガラと早朝の街を馬車が駆けていく。
なんだろう。どこへ行くの!?
わからないまま、不安だけが大きくなる。
…まさか。
昨日、あんなふうに拒否したから捨てられる…、なんてないよね!?
一応、姫ポジションにいるんだから、そんなヒドいことにはならないハズ。
でも、「コイツは、姫を殺し、その立場を乗っ取った魔女だっ!!」とかなんとか、でっち上げられたら。
あの王子に限ってそんなこと、と思いたいのに、妙に説得力のある悪い想像をしてしまう。
もしかして。とんでもない目に遭う、悪役令嬢エンディングパターンか!?これは。
馬車は、街の中心部から外れた、小さな広場に到着した。
そして無言のまま、馬車から降ろされる。一瞬、最悪の想像として、処刑台を探してしまった。
…王子、どこ!?
誤解があるなら、ちゃんと解きたい。
アデラにグイッと腕を引っ張られて、広場の一角にある建物に近づいていく。
…………え!? ここ。
「教会…!?」
見上げるほど大きくはない。こじんまりとした小さな教会。隣の建物のほうが大きいんじゃないかってくらい。
その教会の入り口入ってすぐの小部屋に放り込まれる。
…………え!? ええっ!?
そこに待ち構えていたのは、アンナさんと、ジャンヌさん。そして数人の侍女。
ジャンヌさんの手には、純白のドレス。
なにこれっ!? どゆことっ!?
「さあ、この子をステキな花嫁にしてあげてちょうだい」
背後からアデラの声がした。
と同時に襲いかかるように、アンナさんたちに着ていたドレスをひん剥かれた。
「えっ!? 花嫁って、どういうことっ!?」
質問には誰も答えない。髪をくしけずられ、腕を引っ張られ、お腹をコルセットで引き締められた。(お腹ミンチ再び)
ケガした頬には少しだけ白粉をはたかれた。
以前に着たものよりは簡素だけど、それでも目に痛いほど真っ白なドレスを身にまとう。頭には刺繍の入った薄いベール。
ドレスの裾は前より短い。でも、丁寧なつくりになっていて、着心地はいい。
口唇に紅をさされ、白い花のブーケを手渡される。
鏡に映された私は、どこからどう見ても、初々しい花嫁さん。
思わず自分でも見とれてしまうほど、キレイにカワイク仕上がっている。
「おっ、準備出来たか!?」
ヒョイッと、王子が部屋に顔をのぞかせた。
王子も、普段よりいい服を着ている。真新しそうな白いオスカルスタイル。(服の名前なんて知らない)
「ねえ、王子、これはいったい…」
ここまできても、私はいまだに意味がよく飲み込めていない。
「結婚式だ」
「結婚!?」
え!? だって、結婚はしてるって。セフィア姫の身体でだったけど、結婚してるって昨日言ってなかったっけ!?
「結婚したら、いいんだろう!?」
軽く顔を寄せ、耳元で甘く囁かれる。
「ええっ!? ちょっ、それ、どういう意味っ!!」
意味深すぎる。
「それに、俺はお前とキチンとした夫婦になりたいんだが。ダメか!?」
―――相手のことをよく知り、好きになって、相手からも「好きだ」とか言われて。
以前、考えていた恋愛→夫婦までのステップを思い出す。
―――少しづつ気持ちを確かめあって、相手のことしか考えられないぐらい好きになって。それからだ。結婚とか、その先にあるものは。
―――間違っても、他人の身体で、結婚、夫婦から始めるものじゃない。
今、私は私の身体で。相手のことしか考えられないぐらい好きだったから、この世界に入れ替わって来ていて。姫という立場になった私と王子の間には、なんの障害もなくって。
ううう………………………。
……………………。
……………。
………。
「……………好きって」
「ん!?」
「好きって、言ってもらってない」
最後の抵抗だった。少しむくれて文句を言ってみる。
「なんだ、そんなことか」
王子が笑った。
「好きだぞ、リナ。でなければ、わざわざこんな結婚式など挙げはしない」
以前の教会のような荘厳さはない。けど、神聖な空気に満ちた空間で、王子と向かい合う。
「病めるときも健やかなるときも…………」
式を取り仕切ってくれる神父さまも、ちょっと街の司祭さま程度のオジさんになってる。
でも。
「あなたは、彼のものを夫とし、愛することを誓いますか!?」
その言葉に、ハッキリと「はい」と答える。
王子が好き。
その心だけで、この世界にやって来た私に、迷いはない。
「それでは誓いの口づけを」
顔を隠していたベールをフワリと持ち上げられる。
間近に見える王子のグリーンの瞳。私を見てくれるその瞳は、同じ感情を持っていることを伝えてくれている。
「リナ」
小さく名前を呼び、王子が優しく口唇を重ねた。
以前の結婚式とは違う。思いのこもった口づけ。
私、今、最高に幸せ。
式が終わり、二人で祭壇から歩き出す。
私は、本当の姿で、夫婦になった。この先、何があってもこの人と一緒に歩いていく。
そんな気持ちで胸をいっぱいにして、教会を出る。
階段の下、気がつけばたくさんの女の子たちが、キャーキャー言いながら集まっていた。
……………何!?
ほとんどが教会の近所の子たちだと思うけど、そのなかになぜかアデラまで混じっている。押し合いながら手を伸ばし、こっちを見てる。
「そのブーケを待ってるんだ」
王子に囁かれ、あっと気づく。
ブーケトス。
確か、ブーケを受け取った子が次に花嫁になれるのよね。
だから、あんなに鬼気迫る雰囲気で待ってるんだ。アデラ、なんとしてもシルヴァンさんをゲットしたいんだな。その表情は美人なだけに、少しコワい。
「そっか…」
軽く目を閉じる。
次の花嫁。私が次に幸せになってほしい人。
そんなの決まってる。
金の髪、湖水のような青い瞳をした彼女。
私の大切な友だち。私と同じように、恋のためにすべてを捨てて世界を渡っていった彼女。私の大事な幼なじみの恋する相手。
必死なアデラには悪いけど、次に花嫁に、誰よりも幸せになってほしいのは彼女だ。
「幸せになって、セフィアッ!!」
思いの丈をこめて、ブーケを空高く放り投げる。
真っ白なブーケが、冬の澄み渡った青空に、大きく弧を描いた。
おしまい。
ブクマをつけてくださった方、閲覧してくださった方、評価を、誤字報告をくださった方。皆さま、本当にありがとうございます。
本編最終話です。
「他人の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!?」
勝手にはダメっしょ。そして他人の身体ってのも。
ということで、こういうラストにさせていただきました。
そのあたりのケジメはつけてほしかった。王子に。あと、ここまでがんばってきた、里奈へのご褒美かな。四人のなかで、一番物語を牽引してくれた子だったので。
次回は番外編。完ぺきにオマケちゃん物語です。ホント、オマケなので、デザート別腹気分でお楽しみください。
これからも、どうかよろしくお願いいたしますm(_ _)m




