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他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【63】

 「えっ!? じゃあ、それじゃあ…」

 お母さんから、衝撃の発言を聞いた私は、うまく言葉が紡げなくなった。

 …ヴィルフリート王子って、シルヴァンって、アンジェラ・ロワイユって…。

 王さまの名前は知らないけど、王子の名前、ロワイユ夫人の立場、シルヴァンさんの過去。お母さんが事故に遭った時期。全部、私の知ってるあの世界のことと重なる。

 ―――シルヴァンは、幼い頃に俺の母上に生命を救われた。

 ―――母上は、10年前に亡くなった。

 ―――俺の母は俺を産んで以来、床につきがちで、10年前に病気で亡くなった。父王は、母を愛していたらしく、母の死を大いに嘆いていらした。

 ―――父王を助けたのが、ロワイユ夫人なんだ。献身的に仕え、父に代わって政治も動かした。

 王子の話してくれた内容とも辻褄が合う。

 「それじゃあ、お母さんが…」

 シルヴァンさんを助け、王子や王さまのためにロワイユ夫人に公式愛妾になるようにお願いしたってこと!?

 「元の身体に戻ってもね。ずっと気になっていたのよ」

 お母さんが、手にしたミルクを少しだけ飲んだ。

 「ヴィルフリートは。あの子は元気かしら」

 「…うん。立派な王子になってるよ」

 「そう。よかった」

 優しく微笑まれる。

 短い間だったけれど、王子のお母さんになっていた、私のお母さん。

 もしかすると王子のこと、3人目の子ども、ぐらいに思っているのかもしれない。

 「里奈が好きになったのは、あの子なの!?」

 「…………うん」

 「そう。なら、大丈夫ね。あの子なら、アナタを任せられるわ。優しい、とてもいい子だもの」

 お母さんの目には、少しだけ涙が滲んでいた。

 幸せになりなさい。そして、幸せにしてあげて。

 涙が、そう訴えていた。


 お母さんの爆弾発言を聞いた私は、なかなか寝付けずに、窓の外、冷たい星空を見上げてた。

 …王子。

 お母さんが最後に教えてくれた。あの国につたわる伝説。

 その昔、あの国の女王が夫を迎えた話。

 王子の先祖にあたるその女王の夫は、同じ世界でも遠い異国の出身の少年だったんだって。それも、女王より少し先の未来に生まれ、時空を越えて女王に巡り合った。

 ―――時渡り。

 あの世界の古い言葉で、テレポーテーション!?を、そう言うらしい。

 いにしえの女王と、少年は運命でつながっていて。少年は女王のために故郷を離れ、時を渡った。女王を扶け、女王と愛し合って幸せに暮らして。そしてその血が、今の王子まで続いている。

 強い絆があれば、惹かれ合う心があれば、時だって、なんだって越えられる。

 王さまが、死にゆく愛する妻に、「また逢える」と願いをこめて教えてくれた逸話。

 王さまの気持ちを考えると、胸が苦しいけど。

 ―――時渡り。

 私が、セフィア姫と身体を入れ替えてたのも、それに近い現象なんだろうか。

 運命でつながっている。

 強い絆、惹かれ合う心。

 そういったものが、私と王子のあいだにあるんだろうか。

 暁斗とセフィア姫のあいだにも。

 入れ替わりは、そんな絆を結ぶための儀式だったんじゃないかな。

 何度も入れ替わるうちに、王子にどうしようもなく惹かれてた。いつの間にか好きになってた。異世界の人!? そんなの関係ないぐらい、大事な人になっていた。

 …王子。

 私、明日、人生最大のワガママを実行するわ。

 王子のいる世界に「時渡り」する。

 それこそ、王子のご先祖様のように、何もかも捨てて、王子のもとに行くわ。

 だから。だから、ね。

 「また、お前か」なんて言わずに、迎えてくれるとうれしいな。


 12月26日。日食当日。

 もう一度、歴史の勉強をおさらいして、神社にお参りに行って、帰りにコンビニスイーツを買って食べて。

 お母さんとも他愛のない話をして。

 それから、暁斗と二人で公園にむかった。

 「行ってきます」

 と、明るく伝えた私にお母さんは。

 「いつでも、イヤになったら戻ってきてもいいのよ!?」

 と、これまたあっけらかんと送り出してくれた。

 夏樹には、何も伝えてない。こういう自分が大恋愛!?的なことをしてるのを、なんとなく知られたくないのよね。恥ずかしすぎて。中二病か!?、夢見る乙女か!?って、自分でもツッコミたくなるもん。そういうキャラじゃないの、自分が一番良くわかってるし。

 暁斗は別。

 この「入れ替わりwith身体ごと」は、暁斗も関わってる大事な作戦だから。

 私とセフィア姫が入れ替わるには、太陽と月の潮汐力だけじゃない。セフィア姫と暁斗の惹かれ合う心も絶対必要だから。

 あちらの世界に私を引き寄せてくれる(予定)のが王子なら、こちらの世界に姫を引き寄せてくれるのは暁斗の役目。

 見上げた空には、冬至を過ぎた、少し弱い光の太陽が浮かぶ。

 この太陽が隠れる時、私はあちらの世界へと時を渡る。

 「暁斗…。今までありがとう」

 ベンチに腰掛け、暁斗を見上げる。

 「暁斗がいなかったら、私、何にも出来ずに泣くだけだったかもしれない」

 「里奈…」

 「昔っから、暁斗には助けられてばかりだったね。高校受験のときもそうだったし」

 暁斗に勉強を教えてもらったおかげで合格出来た。そう思ってる。

 「感謝しても、しつくせない。暁斗は、私の…」

 ちょっとだけ地面に視線を落とす。

 「お兄ちゃんのようで、家族のようで、親友のようで、仲間のようで…。この世界で一番大事な男の子、だよ!!」

 最後の言葉だけ、暁斗の顔を見て言った。

 「なんだそりゃ…」

 一瞬ポカンとした暁斗が笑う。

 一番大事な男の子。

 ちょっと間抜けな表現だよね。でも、これしかいいのが思いつかなかった。

 「じゃあ、里奈は、僕にとって一番大事な女の子、だ」

 お互いに恋愛感情なんてない。けど、友だち、家族なんて安っぽいカテゴリーに入れるには難しいだけの感情を互いに持っている。

 もしかしたら。

 あの世界の、王子やセフィア姫に出会わなかったら、恋愛に発展したかもしれない。けど、私達は、それぞれの大事な人に出会ってしまった。それぞれに、別々の人を求めてる。

 「時間だ」

 空と、時計を見た暁斗が告げた。

 14:28。2時28分。

 蝕が始まる。

 「じゃあね」

 そう言ってベンチに横になろうとしたら、暁斗に膝枕された。その上、寒いからと、コートまでかけてくれた。 

 「姫と幸せになってね、暁斗」

 「里奈も。王子とケンカするなよ」

 私を見下ろす暁斗の眼差しは優しい。

 少しだけ笑って、目を閉じた。

 王子にむかって飛んでいくイメージで。

 眠りに落ちる直前、私の髪に触れる暁斗の温かい手を感じた。

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