他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【61】
12月24日。日食二日前。
この日は、学校の終業式だった。
なにも、クリスマス・イヴに学校来なくてもいいじゃんなんて意見もあったけど、私にとっては最後の登校日だし!? これでJK名乗れるのも最後だと思うと、気分は一人卒業式。
さよなら友よ。さよなら先生。今こそナンチャラ、いざさらば!? …えっと、ちゃんと覚えてないや。
最後に、みんなのいなくなった教室をぐるりと見渡してから、学校を後にした。最後の下校は暁斗と一緒に。友だちに「やっぱ、そういうカンケーじゃん」と茶化されたけど、まあ、もうそんなこと気にしない。「ラブラブだもんねっ!!」って、切り返すだけの余裕も出来た。(暁斗は、困った顔をしてたけど)
帰り道、クリスマス一色になった街を歩く。
家族連れ、友達同士に混じって、ホントのラブラブ、恋人同士っていうのも多い。
今までは、いいな~とか、チクショウとか思って眺めてたけど、今は違う。
明後日。26日になれば、私だってラブラブだもんね。あっちの世界に行ったら、あんなふうに王子と恋愛してやるんだから。一日遅いクリスマスを幸せに迎えてやるんだから。(ベタベタ出来る自信はないけど)
夜は、お父さん、お母さん、夏樹と一緒にケーキを食べた。
もうサンタさんを信じる歳でもないので、クリスマスのごちそう以外に楽しみらしいものはない。親からプレゼントをもらうって歳でもないし。
ううん。
プレゼントはもらったかな。
このなんでもないような、家族の幸せな時間。
ケーキを食べ、チキンを食べ、お母さん得意のサラダを食べ。
切り分けられたケーキの大きさに文句を言ってみたり、たしなめられたり。
去年のクリスマスと変わらない、日常の延長のような時間を、こうして過ごせたことが、一番のプレゼントだった。
ありがとうお父さん。ありがとうお母さん。
私、二人の子どもに生まれてよかった。
この先、一緒にいられないけれど、ずっと二人のこと、大事に思ってるよ。
12月25日。日食前日。
冬休み最初の日、私はあちこちの神社、お寺にお参りに行くことにした。
―――どうか、無事に入れ替われますように。
こんな願いをぶつけられた神さまも仏さまも驚いてるだろうな。
でも、一世一代のとんでもないことをしでかすわけだし!? 助けてくれる神さまがいるなら、ゼヒトモその手をお借りしたい。
神道、仏教、キリスト教。
誰でもいい。このお願いを聞いてくれる神さま、いないかな。
手当り次第、知ってる限りの近所の神社、お寺、教会を回った。
お願い、お願い、おねがい。
何度も手を叩き、手を合わせ、手を組む。
なにとぞ、なにとぞ、異世界に行けるように力を貸してください。
「今、いいかな!?」
夜。
お風呂に入った後、リビングのソファーでくつろいでたお母さんに声をかけた。
お父さんはもう寝てる。夏樹も。
起きてるのはお母さんと私だけ。
「どうしたの!?」
読んでいた雑誌を置いたお母さんが、優しく笑ってくれた。
その笑顔に引っ張られるように、隣に腰掛け、濡れたままの頭を擦り寄せる。
「あらあら。おっきな赤ちゃんになったわねー」
困った声を上げながら、お母さんがバスタオルでゴシゴシと頭を拭いてくれた。
懐かしい、この感触。
こうして甘えるのも、これが最後。
最後。
………………。
…………。
……。
「どうしたの!? なんかあったの!?」
バスタオルで顔も拭われた。泣いてたんだ、私。
「ねえ、お母さん…」
どうしよう。さようなら、行ってきますって声かけたほうがいいのかな。説明しておいたほうがいいのかな。
でも、そうしたら、絶対反対されるよね。
でも、言わないで別れるのもツラいし…。
でもでもでもでも。
頭のなかで、出口のない答えがグルグル回る。
「…生きたいように、生きればいいわよ、里奈」
頭に被せられたバスタオル越しに、お母さんの声が降ってきた。
「あちらの世界が、気になるのでしょう!?」
……………………えっ!?
「ちょっ、えっ!? あのっ!? うえええっ!?」
あわててバスタオルをはねのける。
「気づかないと思ったの!?」
いつものように笑うお母さんの顔がそこにあった。
優しく、ちょっとポヤヤンとした印象の笑顔。
「アナタたち、入れ替わっていたでしょ!?」
知ってるんだから、とばかりにウィンクされる。私は、金魚みたいに口をパクパクするだけだ。
ちょっと落ち着こうか。
そう言って、お母さんがホットミルクを用意してくれた。
お風呂上がりの手でも感じる、ミルクの温かさ。
少しだけフーフーしながら、カップに口をつける。
「どこから話したらいいかしらね…」
同じように、カップで手を温めていたお母さんが天井を見上げた。
「私もね、あの世界に行ったことがあるのよ」
懐かしそうに、話しだしたお母さん。
私は、信じられない展開に驚きながら、ミルクをすすった。
―――あれはね。今から十年ぐらい前になるかしら。私が交通事故に遭ったこと、覚えてる!?
「うん…」
私が、6歳。小学校に入学したばかりの頃だった。夏樹はまだ、2歳。
お母さんが、買い物帰りに、自転車ごとトラックにはねられた事故があった。
―――あの時ね。みんなが私を呼んでる声は聞こえてたの。だけど、目は開かないし、指一本動かない。身体中痛いし。ああ、私、死ぬんだなって、そう思ってた。
お母さんは、あの時かなりの重体で、生命が危なかったってお父さんから聞いている。
私も、たくさんの管につながれたお母さんの身体と、ピッピッて冷たい電子音が響いていたことを覚えている。
―――死ぬんだったら、そうだな。最期に一回だけでいいから、夏樹と里奈を抱きしめたいなって。お父さんの顔を見たいなって。それから、せっかく買った材料で最後の夕飯ぐらい作りたかったなって。里奈の学校の準備もしてあげたいし、夏樹のおむつも用意してあげなきゃって。そんなこといっぱい考えてた。
後半、やたらと生活臭のする願いだけど、なんというのか。お母さんらしい。
―――最期に、みんなの声だけでも聞きたいなって思ってたらね。どこからか、私を呼ぶ声がしたの。
お母さんの話は、ミルクを飲むことを忘れるぐらい、驚くことばかりだった。




