他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【60】
あちらの世界に行く方法。
それは、日食の日、蝕が始まった時に眠るというものだった。
「12月26日。日食が観測される。本来金環日食なんだけど、残念ながら日本で観測できるのは部分日食になりそうなんだ」
金環日食と部分日食の違いはイマイチわからないけれど、それでも一言も聞き漏らさないように、全身を耳にして暁斗の言葉を待つ。
「予報では、14:28に始まって、15:35に最大食を迎える。蝕の終わりは日没後だから見えないけれど。でも、日食が起きるのは確かなんだ」
「ねえ」
ここまで聞いて、初めて私は口を挟んだ。
「日食と、入れ替わりに、どういう関係があるの!?」
入れ替わりに、月の満ち欠けが関係してるって話したのは暁斗だよ!?
月だけじゃなく、太陽も関係あるの!?
「日食はね、新月の日にしか起きないんだ」
「うえっ!? そうなの!?」
じゃあ、新月のたびに、日食は起きるの!?
「月の軌道面と、地球の公転軌道面は5度ほどずれているから、必ず新月の日に起きるとは限らないんだけど」
コウテンキドウメン…!? なんじゃそりゃ。
「ただ、同じ新月でも日食の日は、太陽の潮汐力と月の潮汐力が重なる日でもあるんだ」
地面に、暁斗が図を描いてくれた。
太陽、月、地球。これらが一直線に並んで描かれる。そして、地球から月にむかって、太陽にむかって←も。二つの←は真っ直ぐに重なる。
「普段なら重ならない潮汐力も、この日だけは、この時間だけは一直線に重なる。それだけ引っ張る力が大きくなるはずだ」
「じゃあ、じゃあ、もしかしたら…、この時間に…」
暁斗が頷いた。
「入れ替わり。それも身体ごとの入れ替わりを実現させられるかもしれない」
信じられなかった。
でも、信じてみたかった。
信じるほかなかった。
この間の満月、私はあちらの世界に行けなかった。
王子の手をかすめただけで、元に戻ってしまった。
「僕もね」
暁斗が、切り出した。
「あの日、セフィアさんの声を聞いたんだ。必死に呼びかけてるセフィアさんの声。何を言っているのか、内容まではわからなかったけれど」
「暁斗も!?」
セフィア姫と、なにか強いつながりがあるんだろうか。
「僕も、セフィアさんに会いたいんだ。会って話しがしたい」
だから、こんな無茶なことを言い出したんだけどと、暁斗が困ったような顔をした。
「暁斗…、姫さまのこと、好きなの!?」
以前気になったことを、そのまま言葉にした。
「えっ!? あ…、うん」
一気に暁斗が赤面する。けど、まっすぐにこっちを見て、
「好きだよ」
ストレートに気持ちを言葉にされた。
うぎゃー、ちょ、ちょっと、待て待て待て。
「…そういうのは、本人に直接言ってよ」
「うん。あ、ゴメン」
暁斗が照れて頭を掻いた。
でも、それ以上に、こっちがゆでダコになりそう。
こんなベタな告白、それも暁斗の口から聞かされる日が来るなんて。ホント、思いもしなかったわ。
この作戦、―入れ替わりwith身体ごと―が成功するかどうか。確証はない。
この間の満月の日には入れ替わることが出来なかった。そもそも、入れ替わり自体が、特殊すぎる状態なんだから、ただ、私が昼間っから寝ただけに終わる可能性も大きい。
それでも。
それでも、私と暁斗は、そのチャンスに望みをかけた。
好きな人に逢いたい。
それだけを動機に、日食の日を待った。
「僕のただのワガママだと思っていたから。里奈が賛同してくれて、本当にうれしいよ」
暁斗に、素直に感謝されると、その…照れる。
多分、私の人生を変える、大きすぎるワガママだから、暁斗自身、言い出すのをスゴく悩んだんだと思う。だから、私に教えるのに、あれだけ迷ったような顔をしてたんだ。
「セフィア姫と、幸せになりなよ!?」
幼なじみとして、同じ思いを抱く者として、そんな励ましの言葉を贈る。
「うん。里奈も。王子と仲良くやるんだぞ」
…うん。まあ、ケンカもするだろうけど。
ちっちゃい頃から知っている、兄妹のような存在の暁斗に、恋の応援なんてされると、メチャクチャ恥ずかしい。
日食までのあいだ。
私達は、ぼーっとその日を待っていたわけではなかった。
私は、この世界に悔いを残さないように、精一杯楽しんだ。
コンビニのスイーツは、食べられるだけ味わったし、読みたかったマンガもできるだけ読んだ。
その上で、暁斗からあちらの世界で生きるため、さまざまな情報を得た。
あちらの世界、セフィア姫から暁斗が聞いた話だけだけど、18世紀から19世紀のあたりのヨーロッパによく似てるんだって。
私が『ベルばら』っぽいと思ったのは、あながち間違いではなかったらしい。
セフィア姫の立ち位置は、ちょうどマリー=アントワネットにそっくりらしく、王子はルイ16世ポジション。(錠前は作んないけど)
「まあ、このままフランス革命的なことが起きるとは限らないけれど」
それでも、知っていると知らないのでは違うからと、即席で世界史の講座をやってもらった。
王子のローレンシア王国をフランスに、姫の故国をオーストリアに。私を拉致ろうとしたかもしれないヴァイセンをプロイセンにそれぞれ置き換えて、イメージしてみる。
暁斗の話だけでわからないところは、学校で世界史の先生を捕まえて質問攻めにした。
先生は「神代が、歴史に興味を…」と泣き出しそうなほど喜んでくれたけど、…まあ、ゴメン。興味あるのは、フランス革命前後の世界だけなんだよね。
文章だけで理解できない部分を補うために、『ベルばら』も、もう一度読み直した。
オスカル、カッコいい…、じゃなくて、ルイ16世、王子に似てない…、じゃなくて。
映像としてとらえたぶん、理解しやすかった。
「バスティーユ襲撃」「ヴァレンヌ事件」「ジロンド派」「ダントン」「ロベスピエール」「ピルニッツ宣言」…。
今、その辺りのテストを受けたら満点採れるんじゃないかってぐらい勉強した。
うっかりすると、頭から単語がこぼれ落ちそうなぐらい詰め込んだ。
12月16日。
日食の少し手前の日。
私は17の誕生日をむかえた。
この世界で最後かもしれない誕生日。
いつものように、ケーキを食べて、家族と祝う。
暁斗からも、プレゼントをもらった。
『フランス革命夜話』『愛されマナー講座 -大人の常識マナー・ルール-』『あなたが淑女であるために -今知っておきたい大切なこと-』
…ちょっとバカにされたようなタイトルの本だったけど、それでもこのプレゼントはありがたい。
60話です。
評価、ブクマとつけてくださった方々、PVという足跡をつけくださった方々。本当にありがとうございます。(祝!! 10000PV!!)
前回後書きを書いてから、そんなに日が経ってないと思うのに。早いな。(そりゃ、10日にいっぺん、後書きの日になるからだ。10話ごとに後書きを書くことにしてます)
12月26日の日食。
コレ、ガチの話です。実際、来月の26日に日食、きます。
ただ、部分日食だし、夕方近いので、あんまり日食ーっ!!っていうのを実感することは難しいかもしれないけど。(冬至明け近いし、日没時間が早い) 中近東に行けば、金環日食になるそうですが。
あ。日食、直に見ちゃダメですよ!? ちゃんと専用のメガネをかけてね。スマホ越しもダメ。お目々痛めちゃうよ。
このお話、ラストが72話と決定しました。(原稿を書き上げました。オワタ―!!)
なので、71話のときに、次の後書きを書きたいと思います。(ナゼ71話なのかは、そのときに)
それまで、皆さま。もうしばらく、突っ走る里奈におつき合いくださいマセ。




