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他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【6】

 「えーっと、つまり。君は里奈であって、里奈じゃない、と」

 それまで黙っていた少年が言葉を発した。

 (わたくし)の話を全部聞いて、その上で整理して理解しようとして…、眉にシワが刻まれた。

 「…マジ!?」

 弟の方も、同じようなシワが刻まれている。

 「マジ…とは!? どういう意味なのでしょうか」

 (わたくし)の返答に、二人が肺の空気をすべて吐き出すような、長いため息をついた。

 「ヤバい、ホンモノだ」

 「マジかよ…」

 それぞれが呟く。

 「リアル『君の名は。』じゃん」

 「『入れ替わってる!?』ってやつ!?」

 「ってことは、隕石落ちてくるのかよ、アキ兄!?」

 「僕たち、テッシーと…」

 「四葉ポジション!? えーっ、オレ、男だぜ!? 弟だし」

 なにか、二人が理解できないことを交わし合って、互いを指差したりしている。

 どういう意味だろう。

 「あの…」

 (わたくし)の言うことを理解してくれたのだろうか。

 二人がうなずきあって、こちらに向き直した。

 「とりあえず、君が里奈の格好をしているのに、里奈じゃないってことは理解したよ」

 …え!? 出来るの!? こんな信じられない状況なのに!?

 「里奈は、僕が来たぐらいで悲鳴を上げないし、そもそも階段から落ちるなんてことはないと思う」

 …そうなの!?

 「運動神経のよさだけが取り柄だからな、姉ちゃんは」

 …そうなの!?

 「男っぽいというか」

 「乱暴というか」

 「アクティブというか」

 「ガサツというか」

 少年のはまだしも、弟の評価は容赦ない。

 どういう少女なのだろう。この身体の持ち主、リナという少女は。

 「まあ、とにかく。なんとなくだけど、状況は理解したよ。で、だ」

 少年が真顔になった。

 「名前、聞かせてもらってもいいですか!?」

 「え!? あ、その…」

 「ああ、僕の名前は暁斗。和泉暁斗(いずみあきと)。一応、その身体の持ち主、神代里奈(かみしろりな)の幼なじみで、17歳」

 アキトと名乗った少年が、隣りにいた弟を指差す。

 「んで、こっちが、里奈の弟の…」

 「夏樹。神代夏樹(かみしろなつき)っ!! 12歳っ!! 小6っ!!」

 身を乗り出すように自己紹介をしてくれた。

 リナという少女の幼なじみのアキトと、弟のナツキ。

 アキトもナツキも、リナと同じ黒髪の黒い瞳。多分、この世界の人間は、そういう色の人種なのだろう。アキトの方が、軍人かなにかのように短く整えられているが、それ以外、ほとんど差がなかった。肌も、少しだけアキトの方がよく焼けている。

 「(わたくし)は、ルティアナ王国の第2王女、セフィア・ブランシュ・ルティナリア。ローレンシア王国のヴィルフリート・レオン王子に嫁ぐ予定でいた者です」

 「うおお、姫さまだよ…」

 ナツキが目をまん丸にした。

 「瀧くんって、異世界のお姫さまだったのか…」

 また、訳のわからないことを口にした。


 とりあえず、二人からの意見は、このままリナという少女になって生活してみてはどうか、というものだった。そのうち元に戻る方法が見つかるかもしれない。それまでの間、ずっとこの部屋にこもるのはよろしくないだろうと、二人が口をそろえて言った。

 (わたくし)も、帰る、戻る方法がわからない今、それ以外に最善の暮らし方もわからないので、素直に従うことにした。

 幸い、というかこの二人、アキトとナツキは、リナの生活の大部分を一緒に過ごしているのだという。

 アキトは「ガッコウ」と呼ばれる場所で。ナツキはこの家のなかで家族として。

 それぞれ、おかしなところがないか、リナになりきって過ごす私を助けてくれることを請け負ってくれた。

 「でもさ。」

 ナツキが、疑問を口にした。

 「異世界の姫さま、学校で勉強なんて出来るのか!?」

 …勉強!? 姫として恥ずかしくないだけの教育は受けてるわよ!?

 「違う、違う。あー、その文字とか、そういうの。大丈夫なのかな」

 確かに、とアキトが思案顔になった。

 そして、ふと机の上の本を取り出す。

 「これ、読めますか!?」

 差し出されたのは、見たことない紙質の本。

 受け取り、そこに書かれていた文字に目を通す。

 「つれづれなるままに…、日暮らし硯に向かひて、心にうつりゆく由なしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそもの狂ほしけれ…!?」

 見たことない文字だと思う。だけどなぜか読めた。意味も理解できる。

 「じゃあさ、これは!?」

 ナツキが別の本を取り出した。

 「The boy looked as if he had seen an angel」

 「意味は!?」

 「えっ!? その少年は、まるで天使を見たかのような顔をしていた…かしら」

 合ってるの!?とばかりの視線をナツキがアキトに送る。アキトがまばたきもせずに頷いた。

 「スゴい。姉ちゃん以上に勉強ができるなんて」

 「里奈なら絶対読めないだろうし、意味もわからないもんな」

 …えっ!? そうなの!?

 (わたくし)も、それらの本に書かれている文字は初めて目にするものばかりだった。普段なら、全く知らない異国の文字として、理解できなかったはず。

 しかし、読めた。理解できた。

 これは、いったいどういうことなのだろう。

 少し、気味が悪い。

 「異世界転移補正ってやつかなー」

 …何かしら、それは。

 「文字読めなかったり、理解できなかったら話、進まないもんなぁ」

 何かはよくわからないけど、二人には納得のいく現象らしい。

 「これなら、とりあえず学校も大丈夫そうだな」

 「姉ちゃんより賢そうだしな」

 二人が頷きあう。

 「あ、あの…」

 (わたくし)には、何が大丈夫なのか、まだよく状況が飲み込めていない。

 「ま、そういうことで。よろしく。セフィアさん」

 ナツキがニッと笑って手を差し出した。

 どうしたらいいのかわからず、その手を取る。

 ブンブンと手を握られる。

 ついで、アキトも。

 「一応、学校では、里奈って呼びかけるから、そのつもりで」

 「えっ!? ああ、はい。よろしくお願いします」

 手を握られたまま、頭を下げる。

 女性の手を男性が握る…なんて作法は知らないから、戸惑う。普通は、手の甲にキス、ではないのかしら。

 「…姉ちゃんの顔で、姉ちゃんじゃないっての…、しおらしいってのも、なんだかなあ」

 ナツキが頭を掻いて呟いた。

 少しだけアキトも苦笑した。

 どうやら、このリナという少女は、(わたくし)と正反対の性格らしい。


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