表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/72

他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【59】

 「ねえ、暁斗っ!! それ、どういうことっ!!」

 思わず、暁斗につかみかかる。

 帰れるのっ!? 戻れるのっ!?

 「落ち着いて、里奈」

 これが落ち着いていられるかっての。

 「どうやって!? どうやったら行けるのっ!?」

 藁にもすがるような気持ちで、暁斗に尋ねる。

 「…それを話すには、里奈。君の覚悟を聞かなくちゃいけない」

 暁斗の声は、どこまでも冷静だった。

 「覚悟…!?」

 暁斗が頷く。

 「この世界に戻れないかもしれない。そういう覚悟」

 暁斗は真剣だった。

 ウソを言ってるわけでも、からかっているわけでもない。

 だからこそ、その言葉が重く響いた。

 ―――戻れないかもしれない。

 王子に会いたい、とは思う。

 けど、それがこの世界、家族や友だちとの別れにつながるとなると…。

 暁斗をつかんでいた手が緩む。

 「無理にとは言わない。嫌なら、この話は聞かなかったことに…」

 「…行くわ」

 暁斗の声を遮るように、答えた。

 「行きたいの。行く方法があるなら教えて」

 ほぼ即決だった。

 迷わないわけじゃない。この世界が嫌いなわけじゃない。

 お母さんやお父さん。夏樹。学校の友だち。

 暁斗だっている、この世界。

 そりゃあ、嫌なことだっていっぱいある。テストの度に訪れる赤点の恐怖とか、高校生になって入部した陸上部の理不尽な監督とか。あの監督のせいで、ブチ切れた私は、それまで続けていた陸上を辞めた。まあ、それは置いといたとして。

 他にも、未来に対して不安もある。今は高校生というそれなりに安定した立場だけど、卒業しちゃえばどうなるかわからない。進学!? 就職!? ぼんやりと進学を考えているけれど、それもどうなるかわからない。大学をどこにするか。そして進学出来るのかどうか。高校に進学するときにも味わった、あの不安定な気分になる季節が、必ずやってくる。卒業しても、その先、わずか一ヶ月後の自分の姿すら想像できない不安定さ。

 そんな世界だけど、生まれ育った世界だから、愛着はある。やり残したことへの未練もある。

 だけど。

 だけど、その世界への愛着と、王子に逢いたいという気持ちを天秤にかけた時。大きく傾くのは王子の方だった。

 あの時。

 ベッドに横たわる王子を見た時。

 私は、心臓を鷲掴みにされたような、鼓動を無理やり止められてしまったような苦しさを知った。

 息の仕方を忘れた。目の閉じ方、耳の聞こえ方を忘れた。

 声もつまり、感情の一切が消えた。

 王子が、苦しんでる。

 ただ、そのことだけで、身体がいっぱいになった。

 …私、王子のことが好きだったんだ。

 この時、初めて自分の気持ちを知った。

 ―――これは、姫と俺の問題だ。

 この言葉を聞いた時、どうして、何も反論できなくなったのか。

 アデラとの二股疑惑に、どうして、鉛を詰め込まれたような気分になったのか。

 その理由が、ストンと私のなかで、唐突に理解出来た瞬間だった。

 …私、王子が誰かを見てるのが嫌だったんだ。

 王子とは、ちょっとした運命の手違いで出会ってしまった、そういう関係だと思っていた。異世界の人だし、セフィア姫のダンナさんだし。旅行先で出会っただけの、それ以上でも何でもない関係の人。そう思い込もうとしてた。

 でも、違った。

 私が王子を好きだから、あの言葉に、深く傷ついたんだ。

 反論できなくなったんだ。

 あちらの世界に行くこと。この世界に残ること。

 多分、どっちを選んでも、ものすごく後悔すると思う。王子に逢いたい、この世界の人たちと離れたくない。どっちもやりたい、どっちも欲しいってワガママは、どちらかを選んだ時点で、選ばなかったことが後悔となって、見えない足かせのように引きずり続けることになると思う。

 何を選んでも後悔するなら、今は、心の命じる方を選ぶ。誰かに決められたわけじゃない。自分で決めたこと。そう思えば、遠い将来後悔しても、責める相手は自分だけ。お前が選んだんだろって、自分に自分で言い聞かせることが出来る。

 私が選ぶほうは決まってる。

 心を死なせたまま、生きていくことなんてしたくない。

 

 「ねえ、お願い。あちらの世界に行く方法、教えて」


 もうこの感情にウソをつくことは出来ない。

 真っ直ぐに暁斗を見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ