他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【51】
朝。
私は、昨日とは違う場所で、目を覚ました。
約一ヶ月ぶりに感じる、元の身体。
…戻ってきたんだ。
自分の部屋を見渡し、じんわりとそのことを実感する。
…ん!?
起き上がると同時に、コロンコロンと腕のなかから何かが転がり落ちた。
…イルカ!?
ベッドの下に転がっていったのは、以前暁斗たちが姫に贈ったという、イルカのぬいぐるみ。
もしかして、姫さま、このコ、抱っこして寝てたの!?
姫さまの身体でそれを想像するとスゴくかわいかったケド、自分で想像したら、うっ!!となってしまった。あんまりかわいくない。むしろ、乙女チックすぎて、キモい。
まあ、抱いてたのは姫さまだし!?
床に転がっちゃったイルカを、机の上に置いてあげる。
これ、姫さまが大事にしているコだもんね。
なんとなく、その頭を撫でてみた。
前回の新月で帰れなかった理由を、暁斗と夏樹に話した。
アデラっていう、王子の公式愛妾を目指してたって子と仲良くなったこと。その子と一緒に拉致られたこと。スキを見て逃げ出したこと。王子に助けられたこと。
事件が終わってみると、夜が明けてしまっていたこと。
アデラは、王子の側近に一目惚れしちゃったこと。
ちょっとしたスペクタクル冒険活劇でも、聞かせたつもりだったのだけど。
暁斗と夏樹では、反応が違った。
夏樹は、「姫さまの身体で、ムチャなことを」とか、「アイショウって何!?」とかいうあんばいだったんだけど。
暁斗は…。
「セフィアさんは…、今は無事なところにいるのか!?」
そう短く、私の肩をつかんで尋ねただけだった。
私が、今は大丈夫とだけ答えると、大きく息をもらた。
暁斗…!?
痛いほど腕に力をこめた暁斗の表情は、苦しげで、切なげで、十六年間幼なじみをやってきて、初めて見る顔だった。
「あんまり危険なことをするなよ」
取ってつけたように、怒られ、髪をクシャっとされた。そしていつもの暁斗に、戻ったかのように見えたけど。
暁斗…!? もしかして。
そのわずか一瞬だけ見せた表情が、腕を強く握られた感触が、なぜか心の奥に染み込んで離れない。
そして、私は日常に戻っていく。
いつものように、友だちの反応に戸惑い、暁斗と姫を恨みつつ弁当を頬張る。眠たくてしかたない、いや、眠りの魔法のような数学の授業を、そのまま睡眠学習する。体育の授業では、バスケで3ポイントシュートをかまして、仲間とハイタッチ。放課後は、コンビニの新商品、「なめらかクリームどら焼き」をゲットする。(これは、誰にも食べられないように、早々にお腹に収めた)
なんでもない日常。
当たり前の出来事。
一ヶ月ぶりのなんでもない世界を、私は存分に楽しんだ。
だって。
また眠ったらあちらの世界…なんてこともあり得るし。
夜、まん丸になった月を見上げる。
あの月が欠け始める頃、また私はあちらの世界に行くのだろうか。
行きたくない…というのは少し違う。
そりゃあ、最初はちっともうれしくなかったし!? 戸惑うことばかりで、大変だったし!?
でも今は。今は少し違う。
戻れることを、楽しみにしている自分がいる。
この世界がキライなんじゃない。この世界は、この世界で自分の落ち着ける場所なんだけど。
旅行に出かける前のワクワク感。あれが一番近いかも。旅行に行って、好きなものに会えるのを楽しみにしているような…。
…好きなものって、何よ。
ふと、思った単語に軽く頭を振った。
いやいやいやいや。
それはないでしょ。
頭に浮かんだ、グリーンの瞳の持ち主を、あわてて追い払う。
あれは、イケメンだけど、口悪いし。性格も二重人格疑うぐらいだし。スケベだし。二股かけるし、BLだし。
セフィア姫の…、ダンナさんだし。
…もう寝よ。
明日がどうなってるかなんてわからないけど、とにかく今は寝るっ!! 寝るに限る!!
そうだな。
もし入れ替わってたら、今度はあっちの世界の美味しいもの探しでもしてみるかな。それとも、ジャンヌさんに、新しいドレスでもお願いしてみようかな。立派すぎるあのボディで、着せ替えするのは意外と楽しそうだ。
だけど。
次の日の朝。
私は、いつものように、自分の部屋で目を覚ました。
私たちの入れ替わりは…。
唐突に始まり、そして突然に終わりを告げた。




