他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【50】
「なんだ、また逃げ出す気か!?」
夜遅く、寝室にやって来た王子があきれたような声を上げた。
何よ、「また」って。ちょっとバルコニーに出てただけじゃない。
「月を見てたの。なんかスッゴク眩しくって、さ」
「月!?」
王子もバルコニーへと顔を出した。
「ああ。もうすぐ満月、だな」
王子が、空にポッカリ浮かぶ明るすぎる月を見上げた。
街灯とかネオンサインのないこの世界では、月の明るさをハッキリと実感することが出来る。
王宮に差し込む月の光は、宮殿の屋根を白く輝かせ、部屋のなかの物に陰影を与える。
少し青い、幻想的な空間。
「私の世界じゃさ、こんなふうに月のキレイさを実感することはあんまりないから」
それほど都会に住んでいるわけじゃいけど、それでも月の明かりを感じるには地上は明るすぎた。
日常のなかで、月がどうの、満ち欠けがどうのって思ったことも感じたこともなかった。気がつけば、「ああ、そこにあるね~」ってぐらい。こんなに何度も月を見たことなんてなかった。
明日は満月。
私が元の世界に戻れる日。
今日の夜、眠った私が朝に迎えるのは、私の世界の太陽だ。
明日、ここにいるのはセフィア姫。
まあ、明後日には、また戻ってくるのかもしれないけど。
それでも、なんとなく落ち着かなかった。
帰れる。
それはうれしいんだけど。
なんか、心がざわつく。
前回、帰りそびれたせいか、何度も訪れているせいか、この世界にも愛着のようなものを感じ始めている。姫さまのフリをするっていう、とんでもない苦労も存在するけどさ。
「そう言えば、明日だったな」
手すりにもたれ、並んだ王子が言った。
以前、私たちの入れ替わりは、満月と新月に起こることを話した。当日一日だけ元に戻り、そして翌日戻ってくる。
「戻ったら、姫はかなり驚くだろうな」
姫のいない間に、勝手にアデラと仲良くなったことを言っているのだろうか。
「そりゃあ驚くでしょうよ。王子が二股かけてたんだもん」
「誰が、二股だっ!!」
髪をグシャワシッとかき乱される。
あのあと、私はアデラの「目指せ!! 公式愛妾の座っ!!」ってのを王子に話した。贅沢するために、それを狙ってたんだって話したら、「そんなとこだろうと思った」って返されたけど。
「お前こそ、いいのか。故郷に「忘れられないヒト」がいるんだろ!?」
「は!?」
ダレソレ。
「初夜当日、自分で言っていただろうが」
あー、あれ。完全に忘れてた。
「ゴメン。それ、嘘」
「はぁ!?」
王子が、思いっきり眉間にシワを寄せた。
「私、そういうヒト、いないよ!?」
「お前…。姫が言ってたぞ!? アキトという仲の良い男がいるとか」
「ああ。暁斗ね…」
なんだ。この世界でも誤解、受けてるんだ。
「暁斗は、ただの幼なじみだよ。家が隣同士の、仲がいい男の友だち。今も、入れ替わってる姫さまも手助けをしてるんだろうけど」
前回、戻れなかったこと、暁斗と姫、二人してスッゴク心配してるんだろうな。
「何だそれは…」
手すりにつかまるようにして、王子が大きく息を吐き出した。
なんか、ガックリされてる!?
「お前みたいなガサツな女に惚れる男なんて、どんなヤツかと思ってたんだがな」
なんだ、そんなヤツいないのかと、王子がプハッと笑った。
…それ、ヒドくない!?
「まあ、なんであれ、とっとと寝て、元の世界に戻って。周りのヤツらを安心させてやれ」
「…うん」
「どうせまた、明後日にはひょっこり戻ってくるんだろうが」
「うん…」
…って、ひょっこりってなによ、ひょっこりって。
「ここは冷える。いつまでもこんなところにいて、姫の身体に風邪でも引かせる気か!?」
「うえっ!?」
言うなり、イキナリのお姫さま抱っこ。スタスタと物を運ぶかのように、部屋に連れて行かれ、ベッドに降ろされた。
降ろしかたは、とてもやさしい。背中から、フワッと羽根にでも包まれたみたい。
一瞬。
目の前に、王子の瞳。
グリーンの瞳に、心臓がドクンと跳ねる。
その瞳に映っているのは…。
「早く寝ろ」
キュウッと鼻をつままれる。
「でないと、襲うぞ!?」
王子が笑いながら身を離した。
…からかわれたの!?
ちょっとムッとした顔を作って、モゾモゾと位置を変え、上掛けを羽織る。
いつものように、王子に背をむけると、これまたいつものように、間に抜き身の短剣を置かれる。
月の光に包まれた寝室に、静寂が訪れる。
「ねえ、王子」
背中のその先、いるであろう王子に声をかける。
「姫が戻ったらさ…。奥さんとして大事にしてあげなよ」
「…ああ。もちろんだ」
…そっか。
王子の返答に満足した私は、そのまま深い眠りに落ちていった。
50話です。
長いっ!! でも、よくぞここまでこれたもんだと、自分でも感心しております。
それもこれも、PVという足跡を残してくださった皆さまのおかげ。ブクマをつけて読んでくださる皆さまのおかげ。評価してくださった皆さまのおかげ。全ては、皆さまあっての50話です。
最近は、PV、ブクマをつけてくださる方が、ジワジワと増えているようで。ホント、ありがたいです。
「物語は、作者が書いて完成するんじゃない。誰かに読んでもらうことで出来上がるものなのだ」
読むは(=観る)だったかもしれませんが、この言葉は言いえてるよなと、最近思います。読んでもらえなければ、それはタダの日本語の羅列にすぎません。誰かの目に留まって、初めてお話が動くのだと。文字でしかなかった、「里奈」や「王子」が、読まれることで生命を吹き込まれる。本当に彼らが動き出せるのは、その時なのだと。………って、なんか哲学じみたようなこと言ってるな。
(ゴホゴホ……。エヘン、オホン)
まあ、なんにせよ、読んでいただけてる。そのことがうれしくて、それをお伝えしたいなあ、と。(うれしさのあまり踊っとりますが、それをここで披露することはできないから)
まだ最後まで書ききってないので、大まかな推測ですが、この先残り20話ほどになる予定です。
1話を書き始めた時に決めていたラストに向かって、里奈、セフィア、王子、暁斗。それぞれが動きます。誰がどう動くはまだまだ未定ですが、温かく見守っていただけたら幸いです。
これからもよろしくお願いいたします。m(_ _)m




