他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【47】
「なんだ、そんなことがあったのか」
夜、寝室にやってきた王子に、日中のことを話した。
アデラがやってきたこと。先日の礼と言いつつ、実はシルヴァンさんに会いに来ていたこと。そして、シルヴァンさんをお慕いしてると宣言したこと。
それらすべてを王子に話した。
「なるほどな。だから、シルヴァンが動揺していたのか」
「してたの!? 動揺」
「ああ。いつもなら、報告だけを済ませて終わるのに、今日はなぜか、『これからもクラインハルト嬢は王宮にやって来るのでしょうか』なんて質問をぶつけてきたからな」
…それは。…会いたいから!? それとも逆!?
「ねえ、アデラが、「真実の愛」とか「お慕いする」とかどうの言ってたけど。あの時、何があったの!?」
目的、目標にむけて彼女が積極的なのは、めざせ王子の愛妾の座っ!!でわかっているけど。こっちが誤解しそうなほどの勢いが、ああもコロッと変わっちゃうなんて、何があったのか、気になる。
「大したことはない。暴走する馬にシルヴァンが飛び移って、手綱を取って馬をなだめて、彼女を助けただけだ」
…それって。
「リアル、『ベルばら』…」
マリー・アントワネットとオスカルじゃん。確かなんかそういうシーンがあった。アントワネットもオスカルも女性同士だったからそれ以上の展開はなかったけど、アデラの場合、男女だから、ねえ…。
「でも、それただ単に「助けた」ってだけでしょ!?」
「ああ。シルヴァンに、そういう気はないと思うぞ」
「ホモだから!?」
「…だから。そういうのじゃなく」
あ。以前に話した噂、気にしてる!?
「アイツは、俺の亡き母上に忠義以上の感情を持ってる。十年前から変わらずな。だから、どれだけ迫ろうとも、効果ないと思うんだが」
「ふーん。シルヴァンさん、大変なことになったね」
とんでもないのを助けちゃった。なんて思っているのかもしれない。
「でも、これがキッカケで、ヤツが別の生き方を見つけてくれればいいとは思う」
いつまでも、亡くなった人に操をたてて生きていけばいいとは思わない。新しく恋をして、生きることを楽しめばいい。
「まあ、こればっかりは、アイツが決めることだ。俺がとやかく言う義理はない」
まあ、それもそうか。
私としては、アデラのターゲットが王子から離れて、ホッとしているけど。
いつまでも、あの調子で王子に猛攻をかけられてたら、見てるこっちの身がもたなかった。万が一、アデラと王子がそういう関係になっちゃったらと考えると…。
いやいやいやいや。
私のためっていうより、セフィア姫のためにも、…ね!?
姫のためにも、そういう事態が起きなくてよかったと思ってるのよ!? 本当に。
シルヴァンさんには悪いけど、そういう意味では、助かったと思ってる。
「ねえ、王子は淋しい!?」
「何が!?」
「アデラの好意が離れてしまったこと」
「は!?」
あんなに、熱愛疑惑があがるほど親密だったんだもん。
「そんなもの、なんとも思ってない」
「ホントに!?」
あんなに、鼻の下伸ばしていたくせに!?
「今は、恋愛どうこう言っている場合じゃないからな」
王子の手がクシャッと私の髪を乱す。
「入れ替わりなんていう、面倒な案件を持ち込む女がここにいる限り、他のことに目をやってるヒマはない」
「悪かったわね…って、私がいなかったら、恋愛とかするつもりなの!?」
「さあな。それより、もう寝るぞ」
あ、はぐらかされた。
仕方なく、ベッドのなかに落ち着く。
続いて王子もベッドへ。
シャラン。
寝るにふさわしくない音を立てて、王子が短剣を抜き放った。
え!? なに!?
「お前、寝相悪いからな。この剣よりこっちに暴れてくるんじゃないぞ」
境界線代わりに、剣を間に置かれる。
うわ、なにそれ。ハラ立つわ。
幸いベッドは広いから、離れて寝るのも可能だけどさ。
背中に感じる短剣の存在は、ちょっと怖い。
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
私の不安をよそに、リナとして生活する日々が過ぎてゆく。
いつ戻ってくるのか、不安に思っているのは私だけではないわ。ナツキもアキトも気にしているのだろう。あの新月の日から、少しづつ言葉も笑顔も少なくなっている。
「大丈夫だよ。そのうちきっと帰れるから」
そうアキトは言ってくれる。私の心を少しでも軽くしよう。そう思っているのでしょう。なんでもないことのように、笑って見せてくれる。
けれど、そのすぐその笑顔は消えてしまう。
時折、思いつめたような表情を見せる。
リナが戻ってこないことを、彼が気にしないわけないわ。
半月以上も戻ってこないこの事態を、一番気にしているのは、アキトたちよ。いくら、この世界に、そういった類の物語があるとはいえ、実際に身近な人物に、そのような出来事が起きてしまったとしたら。その人物を大切に思っていたら。
気にするな、というほうが無理な話よ。
それなのに、私を励まそうとする姿に、ツキンと胸が痛む。
ごめんなさい、アキト。ナツキ。
私、戻れないことに不安を覚えているし、リナを返せないことに申し訳なくも思っているのだけれど。
でも、それ以上に、ここにいられることに喜びも感じてしまっているの。
この世界の「コウコウセイ」として暮らす日常。
「ガッコウ」に通い、勉強をして、時に身体を動かす。
他愛のないことに笑い、戸惑い、驚き、そして笑う。
そのなんでもない小さな世界の、ちょっとした幸せ。
それを感じる時、いつも傍らにアキトがいてくれた。
不慣れな私を助けてくれるという名目で、そばにいてくれるけど。
ごめんなさい。
私、こうしてそばにいてくれることを、うれしいと思ってしまっているの。
アキトといられるこの時間。アキトと過ごせるこの時間。
もう、終わりにしなくてはいけないと、頭のなかで叫ぶ声がしているのに、心はもっと続けばいいと願ってしまう。
戻りたくなかった。戻れなくてよかった。
アキトが優しくしてくれる。気にかけてくれている。
それはまるで。
私が王女だからではなく、ただのセフィアとして受け入れられているようで。
胸の奥から、温かい、なんとも言えないような感情が身体に満ちてくるの。
温かく、それでいて胸苦しくなるような、この感情。
うれしい、楽しい、幸せ。これだけでは言い表せない。
いけない、申し訳ないという気持ちがないわけではないけれど。背徳感に包まれながらも、感じる思い。
ねえ。
この感情にも名前、あるのかしら。




