表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【45】

 「リナッ!! しっかりしろっ!! リナッ!!」

 大きく身体を揺さぶられる。その声と振動に、私は手放しかけた意識を取り戻した。

 「あ…王子」

 「どこか痛いところはないか!? 怪我は!?」

 鮮やかなグリーンの瞳が、私をのぞきこむ。

 「だいじょう…ぶっ」

 「それよりもっ、王子、アデラを捜してっ!!」

 「クラインハルト嬢を!?」

 王子の腕を力まかせにつかんだ。

 「先に彼女を逃したんだけど、馬、メチャクチャに走ってったから…。彼女を助けてあげてっ!!」

 そう。私の蹴り飛ばした馬は、バビューンッっていうのか、ドカーンッていうのか。とにかく、ものすごい勢いで走っていってしまった。あんな馬、アデラが制御できてるとも思えないし、振り落とされて怪我してたら大変だ。それに、もしかして、また捕まっているかもしれない。

 「彼女なら、クラインハルト嬢なら、さっき保護した」

 「ホント!? 無事なの!?」

 「ああ」

 そっか。王子たち、助けてくれてたんだ…。

 「よかったぁ~」

 強ばっていた力が身体から抜けた。王子が支えてくれてなければ、クニャンと地面に崩れていたかもしれない。腕をつかんでいた手がズルリと落ちる。

 「おいっ!!」

 「…ありがと、王子。助けてくれて」

 「そんなことより、お前自身はっ。怪我してないのかっ!?」

 「うん……、つっ!!」

 笑おうとして、左頬がものすごく痛いことに気づく。そっか。私、殴られたんだっけ。

 「ゴメン、王子。セフィア姫の頬、腫れちゃったかもしれない」

 「リナ、お前…」

 「でも、それ以外、身体は無事だよ。胸とか触られたけど…、それだけっ、だか…らっ!!」

 言ってるうちに、目が熱くなってきた。泣いてるんだと気づいたのは、こぼれた涙が、痛む頬を滑り落ちたからだった。

 …私、怖かったんだ。

 ようやく、感情が身体に戻ってきた。

 護衛の騎士を殺されて、拉致られて。アデラだけでも逃そうと一生懸命だったけど、自分は、もう少しで男たちに…。

 王子が来てくれなければ、どうなっていたのかわからない。あのまま犯されて、どこか遠いところへ攫われて、もしかすると殺されて…。

 悔しかったとか、腹立ったとか、そんな感情すべてを通り越して、ただただひたすらに怖かった。恐ろしかった。

 こうして無事でいることを実感できればできるほど、その感情も大きくなっていく。

 身体が震える。涙が止まらない。

 「リナ…」

 王子が、私の身体をやさしく抱きしめてくれた。

 乱れていた髪を、ていねいに梳いてくれる。

 …もう、そんなにやさしくしないでよ。

 一度戻ってきた感情は、もう決壊したダムかなんかのように溢れ出す。恐怖以外にも、いろんな感情が一気に押し寄せ、一緒に涙となって流れ出ていく。

 私は、王子の腕のなかで、これ以上ないぐらい、声をあげて泣いた。

 

 さんざん泣いて、顔を真っ赤に泣きはらしたあと、少しだけ王子から身を離す。

 いくらんなんでも、抱きしめられたままなのは恥ずかしい。

 「あ…」

 自分の身体に視線を落とす。大きく縦に切り裂かれたドレス。その間から、立派すぎる胸の谷間がのぞいてる。

 そして、その谷間は、白い肌に青白い陰影を作り出していて…。影は、すっとへそのあたりまで伸びていて…。

 「きゃあああっ!!」

 どこにそんな元気があったのってぐらい、大きな悲鳴がこぼれた。

 いくら他人の身体でも、立派すぎる体型でも、見せていいということにはならない。

 どうしよっ、これっ、やっ、王子、見ないでぇっ!!

 パニックになった私に、フワリと大きめの布がかけられた。…マント!?

 王子のぬくもりと匂いのするマント。いつだったか、夜の庭園でも、こんなふうにかけてもらったっけ。

 …え、って、夜!?

 ハッとなって、辺りを見回す。

 気がつけば、周囲が、暗色から淡い藍色に染まり始めていた。狭い路地の先から、白い光の筋が差し込んで、それが私たちを照らし出している。

 「夜明け…!?」

 夜の間に、ここであったことすべてを洗い清めるかのような太陽の光。本当なら、その光こそ喜びそうなものなんだけど。

 「ま、待って…」

 私は、じょじょに消されていく闇にむかって、ヨロヨロと手を伸ばした。

 今日は、新月。

 暁斗から聞いていた、月の潮汐力によって、私たちが元に戻れる日。

 その前日の夜が明けてしまう。

 今から眠れば戻れるだろうか。

 太陽が世界を白く染め始め、宵闇は淡くかすれてきている。

 「戻れない…」

 昨晩、新月の前日に寝ないと、元通りに入れ替わらない。夜が明けてしまった今、もう戻ることは出来ないだろう。次の入れ替わりは約二週間後。満月の日の前夜まで待たなくっちゃいけない。

 私、間に合わなかった。

 乗らなきゃいけなかった電車に乗り遅れたような、二度と電車がおとずれないような、そんな感覚におちいる。アデラのことで悩んでいた時とは別の、違った意味で身体が重い。

 セフィア姫だって、帰りたかっただろうに。王子だってホンモノの姫さまに会いたかっただろうに。

 私がどんくさかったから、戻る機会を取り逃がしてしまった。

 「ごめんね、王子…」

 呟くようにそれだけ言うと、私は意識を手放した。


 それから三日間。

 私は、ずっとベッドの上にいた。

 高熱を出して、朦朧とした意識のなかで三日間を過ごしたのだ。

 誘拐騒ぎと、入れ替わりと、王子二股疑惑と。いろんなことに気を張っていたのが、あの涙で一気に崩れたのかもしれない。慣れない異世界生活への疲れもあったと思う。こんな熱出すの、何年ぶりだろ。それも他人の身体で。

 途中何度か薬を飲まされたのを、ぼんやり覚えている。

 真っ青になったアンナさんと、時々様子を見に来てくれた王子の姿も。アンナさんは今にも泣きそうな顔をしてたし、王子は、グッと口を一文字に結んで、なにか考え込んでいるような表情だった。

 動けないでいる間、姫さまと入れ替わらなくてよかったと思う。だって、こんな苦しいの、味あわせちゃ悪いでしょ。熱を出しちゃったのって、私のせいだし。

 でも、戻れなかったことを後悔もしている。申し訳なくも思っている。

 私が戻れなくて、暁斗たちも心配してるだろうな。

 意識が戻ってからも、セフィア姫を召喚できなかったことに対して、王子は何も言わなかった。

 「無事でよかった」

 短く、そう告げただけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ