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他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【43】

 「それでも、黙って聞いて」

 心ヘタレそうになりながらも、考えていたことをアデラに伝える。

 「いい!? 絶対に、どちらがセフィア姫なのか、聞かれても答えちゃダメよ」

 「どうしてですの!?」

 「ヤツラは、姫をさらう気でいたわ。だって、狙われたのは、王家の紋章のついた馬車だったんだもん」

 そう、私たちの乗っていた馬車には、このローレンシア王家の紋章がついていた。

 「王家の紋章つきの馬車に乗れるのは限られてる。王さまの愛妾であるロワイユ夫人と私。王子や王さまは乗れるけど、彼らは男だから、馬車より馬を利用するわ」

 そう。馬車で移動なんてものは、女性に限られている。王室関係者で女性といえば、私と夫人ぐらいしかいない。それも夫人の場合は、王さまと一緒でなければ、乗ることは許されていない。

 それほどに、紋章入りの馬車は高貴な人専用になっている。

 その馬車を襲撃する。護衛の騎士を殺し、その上で、中の女をさらった。

 普通、物盗りなら、騎士の護衛するような馬車は選ばないはずだ。護衛と戦うという生命の危険があるから。それぐらいなら、もっと身分の低そうな、護衛のいない馬車を襲撃する。王家の馬車を狙うような、物盗りはいない。

 「普通の暗殺者なら、あの時、問答無用で私たちを殺してたはず。なのにそうしなかった。ヤツらは私たちを殺さなかった。つまり、目的はセフィア姫の身柄」

 「では、私はアナタに巻き込まれたと言うの!?」

 冗談じゃないわとばかりに、アデラが怒り出した。

 「まあ、そうなるけど…」

 「そんなの、ひどいわ。アナタのせいで私、こんな目にっ!!」

 「だけど、そのおかげでまだ生命があるの」

 アデラの怒りを受けた分、冷静になれた。ピシャリと彼女に言い放つ。

 「多分でしかないけど…。ヤツラ、私たちのどっちがセフィア姫なのか、わかってないのよ」

 だから、二人とも殺さずに誘拐した。

 「もし、どちらかが姫だと知れたら。彼らは残ったほうを殺す」

 「まさか…」

 「あの、騎士たちの最期を見たでしょ」

 襲撃によって散らされた生命。無残に石畳に転がる騎士たちの身体。

 「ヤツらは、殺すことに、なんのためらいもない。生かしているのは、その生命に価値があるからで。彼らが価値ある生命としているのは、セフィア姫」

 「ひっ…」

 アデラの顔が強ばった。

 かすかに身体が震えてる。

 まあ、フツーそうなるよね。

 ならない私がおかしいのかも。

 「では…。では、私がセフィア姫になりきれば、私の生命は助かるのでは!? そうよ、そうすればいいのよ」

 名案を思いついたとばかりに、アデラの声が喜んでいた。

 …あのね。

 「それは、無理だと思う」

 「どうしてよっ!!」

 「結婚式とかで、セフィア姫の面は割れてる。犯人のなかに、セフィア姫を見たことがあるヤツが現れたら、簡単に見破られる」

 誘拐をかます下っ端は知らなくても、黒幕的な存在なら、セフィア姫を知っていてもおかしくない。セフィア姫に利用価値を見つけるような連中が、姫の顔を知らないわけがない。

 「多分、この後誘拐を指示した黒幕のところに連れて行かれるんだと思うけど。でも、それまでは、聞かれても答えちゃダメ。いいわね!?」

 念を押すように、言い聞かせる。

 「でも、そのあとはどうするのよ。いずれバレてこっ…、殺される…わ」

 「大丈夫。それまでに策を思いつくから」

 そうよ。今の私なら、すっごいイイアイディアを思いつくんだから。

 「そうねえ…。例えば、黒幕のところへ連れて行かれるスキを狙って、ここから逃げ出すの」

 「…は!?」

 「ドアさえ開けば、なんとかなるから。そこから全力で走って逃げる。大丈夫よ。その辺で馬でも盗めばなんとかなるって」

 ヤツらだって、馬ぐらい持ってるでしょ。

 「はああっ…」

 アデラが、これ以上ないぐらい、盛大に息を吐き出した。

 「アナタ…。頭いいの!? それとも底抜けのバカなの!?」

 作戦がザルすぎると言いたいのだろう。

 …仕方ないじゃん。

 「見た目はオトナ、頭脳は子ども。その名も、迷探偵リナ!!」…なんだから。


 ヤツらに動きがあったのは、夜遅く、日が沈んでからだった。

 正確に何時なのかはわからない。ただ、周囲が暗く、異様に静かだったので、そう判断しただけだ。

 「出ろ」

 短く告げられ、私たちは言うことを聞くしかなかった。

 数人の男に囲まれ部屋の外に出る。

 案の定、どこかへ連れて行くためだろう。数歩離れた先には、地味目の馬車が用意されていた。

 あれに乗ってしまったら。あれで、連れて行かれたら。

 私は無事でも、アデラはそうはいかない。

 私だって、連れて行かれた先でどうなるのか、予想がつかない。

 逃げるなら、今しかない。

 ノロノロと部屋を出た私は、注意深く辺りを見回す。

 馬車と部屋の間にいる男たちは…、一、二、三、四、五、六人。みんな何かしらの武器を持ってる。剣が多い。

 馬車に乗るのは、多分私とアデラだけ。なら、御者として二人ぐらい馬車に乗るとして、残りの何人かには、馬が必要なはず。…いた。

 馬車のそばに、鞍をつけた馬。

 それも、二頭。鞍もついている。

 馬車の近くだから、そこへ歩いているふりをして…、一番近くまで来たら、馬まで…。

 「アデラッ!! 走ってっ!!」

 叫ぶと同時に、私は彼女の腕をつかんで、馬の方へと走り出した。

 一瞬、私たちがそんな行動に出ると思っていなかった男たちがひるむ。

 「やろうっ!!」

 一拍置いて襲いかかる男たち。

 一番近くにいたヤツが飛びかかってきた。

 「…ふんっ!!」

 振り向きざまに、私は男にタックルをかます。気分はラグビー。

 身を軽くかがめ、肩と肘を相手にぶつける。

 どんなに鍛えていない身体でも、肩と肘だけはある程度硬いので、戦いの武器になる。

 私の勢いに、男がよろめいた。 

 「行ってっ!!」

 先に馬上の人となったアデラに叫ぶ。戸惑う彼女の馬のケツを思いっきり蹴飛ばしてやる。

 ヒヒーンッ!!

 ひときわ大きく馬がいななき、竿立ち、そして走り出す。

 必死に振り落とされないようにしがみついて、アデラの姿が夜の闇に溶け込んでいった。

 「このやろうっ!!」

 「勝手なことをしやがってっ!!」

 かよわそうな女に、こんな抵抗されると思ってもいなかったのだろう。

 男たちの目がギラついた。

 何よ、やる気!?

 私も負けじとファイティングポーズをとる。

 アデラを逃せた今、私一人ならなんとでもなるんだから。

 軽くステップを踏んでみる。ちょっとスカートが邪魔くさいけど。

 今の私は、コナンくんじゃない。毛利蘭よ。

 いや。

 北斗神拳継承者、ケンシロウなんだからっ!!

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