他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【42】
私たちは、やや乱暴に男たちの用意した馬車(さっきまで乗っていたのとは桁違いにボロい)に乗せられて、これまた乱暴に運ばれた。
うっかりすると、舌を噛みそうなほど、馬車が大きく揺れる。
なるべく座席にしがみつくように座っていても、何度か身体が大きくはずんだ。
さんざん身体をゆすられ、座席に身体を打ちつけ、ボロボロになりかけたところで、馬車が止まる。
引きずり出すように降ろされ、放り込まれたのは、狭く、クサイ物置のような空間。
ラグビー部の部室だって、もう少しマシな匂いだよってぐらいクサイ。何の匂い!? 動物でもない。水の淀んだ…ってのでもない。よくわからないけれど、とにかく不快な匂い。
けど、今は臭さの話をしている場合じゃない。
幸い、私たちは縄をかけられることなく、ここに放り込まれた。多分、こんな姫さまが逃げ出せるはずがない。逃げたところで、すぐに捕まえられる。そう判断されているんだろう。
手足が縛られていない。
それが、今は最大の武器だ。
手足が自由なら、それだけ逃げる方法を見つけやすいってことよ。
私は動けるだけ動いて、脱出できる場所がないか探した。
放り込まれた扉は、外からガギがかかってビクともしない。
窓はあるけど、背より高いし、人一人抜けるのが限界の高さ。そこに届くように踏み台が欲しいけど、あいにくそういったものは、この部屋のなかにはない。
飛び上がって!? いや私、忍者じゃないし。
スカートを切り裂いてロープにする!? いや、どうやってそのロープをあの窓につなげるのさ。
ドアの鍵を壊す!? でも、鍵穴らしきものは見当たらないし、体当たりで簡単に壊れそうなドアでもない。
つまり。
次にあの男たちがドアを開けるまで、逃げ出すチャンスはないってことに…。
…………………。
…………。
……。
「アデライードさん、しっかりしてっ!!」
私は、ガシィッと彼女の肩を揺さぶった。
だって、彼女。
「もう、ダメですわ。私たち、殺されるのよ」
とか、
「なんでこんなことになってしまったの…」
とか、
「もうおしまいよ」
とか。
とにかく、泣いて泣いて、泣きたくってるんだもん。
泣きたい気持ちがわからないわけではないけど、泣いてたってどうにもならないんだもん。どうしようもないじゃない。
どっちかって言うと、一生懸命考えてるのを、泣き声で邪魔されてるような気分。答えの出ない超難問を前に、足を引っ張られているようで、心がささくれだってくる。
「今は、泣いてる場合じゃないでしょ!? それよりもなんとか逃げ出せる方法を考えないとっ!!」
「無理ですわっ!! そんなのっ!!」
ひときわ大きく泣き声を上げられた。
「こんなの、逃げられるわけないじゃないのっ!! そんなこともわからないぐらいバカなのっ!?」
…バカって…。え、バカ!?
「私、このまま殺されるか、どこかに売り飛ばされるのよ。私みたいな美人は、そういう目に遭う運命なのよっ!! 人さらいに売られて、奴隷のように扱われるんだわっ!!」
…自分で美人って言い切っちゃったよ。間違ってはないけど。
「アナタみたいな顔だけの人なら、あの男たちに犯されるだけですむでしょうけど、私みたいな女性は、もっとひどい目に遭うんだわ」
…顔だけって…。なんかヒドくない!?
「あ、あの…、私たち、お友だち…よね!?」
私の質問に思いっきり、はあっ!?という顔をされた。
「なんで、私がアナタみたいなのと。私はね、殿下の愛妾になるのが夢だったの」
「王子のぉ!?」
「愛妾になって、王都で贅沢な暮らしをするのが夢だったのよ。こんな野蛮な姫なら楽勝だって思っていたのに。それなのに…それなのに…」
またもや、ワッとアデライードさんが泣き崩れた。
バカ。顔だけ。アナタみたいなの。野蛮。楽勝。
なんていうのかな。怒るべきなんだろうけど、今の私はそういう感情を通り越して、呆れてるという方が正しい。あっけにとられるっていうのかな。ポカ~ンとしたカンジ。
そんなこと考えてたの!? アデライードさん。いや、アデラ。(さんづけをやめた)
王子の愛妾、目指してたの!? で、その踏み台に私を使ってた。コイツならライバルにもなりゃしねーとか甘く見られて。
バカバカしい。
私、何を悩んでいたんだろう。
仲良くなれるかもしれない、友だちになれるかもしれない。
そう思っていたから、王子との関係で心を痛めていたのに。
なんか、一気にすべてがアホらしく感じてきた。
なんか、気が抜けたっていうのか、カクーンッ!!と力が抜けたような気分。
王子も、この子の魂胆、知ってたんだろうか。好きになって愛妾になりたいんじゃなくって、ゼイタクしたくて愛妾になりたいっていう、この動機を。知らなかったのなら、夫婦!? そろっておマヌケさんだよね。鼻の下伸ばしてた分、王子のがドマヌケ。
あーあ。
天井を見上げて、大きく息を吐きだす。
なんか一気に、脱力感が身体を襲う…って、そんなこと言ってる場合じゃなかった。
気持ちを取り直して、もう一度アデラに向き直る。
「聞いて、アデラ」
彼女の肩を揺さぶる。
「ここから生きて逃げるためにも、私の言うことを聞いてちょうだい」
彼女の野望ウンヌンはとりあえず無視して、この場を切り抜ける方法を伝えようとしたのに。
「アナタのような人に、逃げる方法なんて考えられるわけありませんわ」
…傷つくなあ、そのセリフ。




