他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【37】
「なんていうかさー」
「うん」
「ファ・ムーランっていうよりはぁ…」
「楊貴妃、とかそんなカンジ!?」
「そうそうっ!!」
裏方に戻った女子たちが、里奈、いやセフィア姫を仕切り越しに見ていた。
「あ、でも傾国の美女って風でもないのよ。美人に見えるってだけで」
「あー、わかるー」
「なんだろな。貂蝉とか虞美人とかも違う気がするし」
「誰それ!?」
「『三国志』。あと『項羽と劉邦』」
どうやら歴史好きが混じっているらしい。
「妲己も違う。西施じゃないし…、王昭君でもない…」
うーんと悩んでいる彼女たちを見て、僕は少し肩をすくめた。
…まあ、ファ・ムーランじゃないよね。あれは。
実際、ファ・ムーランは女性としても素晴らしい人物だけど、どちらかというとジャンヌ・ダルクのような戦う女性のイメージが強い。
本来のハツラツとしすぎた里奈なら、そのイメージにピッタリなのだろう。
けれど、今の中身はセフィア姫だ。
最初は戸惑っていたようだけど、慣れてきたのか、本来のセフィア姫の態度で接客をこなしている。
つまり。
ハツラツ、というより、優雅に。元気、というより、おしとやかに。
里奈のようなニカッと笑うのではなく、そっと微笑む。
それが、女子を困惑させているのだろう。
わからなくもないかな。
セフィア姫の入っている里奈は、いつもの里奈と違う。
里奈が以前、「セフィア姫は、メッチャ美人」と評していたけど、その中身も、外見に劣らないほど、ステキな女性なのだろう。
幼い頃からよく知っている里奈の容姿なのに、時折、ハッとさせられるほど見てしまう時がある。
待て待て。あれは里奈だぞ。中身は違うが里奈なんだぞ。
何度も言い聞かせたくなるほど、仕草一つで印象が変わる。
…本当のセフィア姫ってどんなのだろうな。
純粋に興味を抱く。
里奈に絵を描いてもらったことがあるが、これがなんと言うのか。夏樹曰く、「ヘタクソ」。
金の髪、白い肌、青い目であることしか、僕は知らない。
本来の姿に戻って、お姫さま然としている彼女は、どんなかんじなのだろう。
見てみたい気がする。
けれど、それはあちらの世界でしか見られなくて。その時彼女は姫という立場の上に、王太子妃という、存在になってしまって、今みたいに気安く笑ってはくれないだろう。
「ねえ、和泉くん」
不意に、目ざとく僕を見つけた女子から声をかけられた。
「里奈と、なんかあったの!?」
あの里奈の変化は、僕との関係に変化があったから。彼女たちはそう思っているらしい。
「いや…」
手にしたお盆を置きながら答える。
「何にもないよ」
里奈とはね。
* * * *
「ブンカサイ」における店は、当番制で経営するらしい。
私は、割り当てどおりの時間を店で過ごし、それ以外の時間で、「ガッコウ」のなかの他の店を楽しむことが許された。
とは言え、私一人では心もとなく、何をどうしたらいいのかわからないので、アキトに一緒に来ていただく。
私とアキトは、店から離れることの出来る時間が同じだったのだ。
おそらく、そのようにアキトが取り計らってくれたのだろう。
店から離れるのだから、「セイフク」に着替えるのかと思ったら、「このまま表に出る」と告げられた。
なんでも、この衣装自体がお店の宣伝になるらしく、「コウナイ」を廻りながら、いろんな人に見てもらったほうがいいのだそう。なので、執事姿のアキトと、ファ・ムーランという女性に扮した私が並んで歩くことになった。
この衣装、いつものドレスのように重くもなく、それでいて足元までしっかり隠してくれるので、私としてはとても安心する。
それに、肩からかけたショールのようなものが動くたびに風をはらむのが、とても面白い。さながら蝶々のよう。もっと動かしてヒラヒラさせたくなる。
「楽しんでるね」
一緒に歩くアキトから声をかけられた。
少しはしゃいでいるの、見咎められちゃったかしら。
「楽しんでるなら構わないよ。せっかくのお祭りなんだし。楽しまなきゃ損だよ」
そうね。せっかくのお祭りなんだものね。
アキトは、このお祭りのなかで、いろいろなことを経験させてくれた。
「フライドポテト」「クレープ」「チョコバナナ」…。
次々に手渡される食べ物。
「これ、どうやって食べるのですか!?」
「フランクフルト」というものを渡された時は、とても困ってしまった。ナイフもフォークもない。棒に突き刺さった、このソーセージのようなもの、どうしたらいいのかしら。
「こうやって食べるんだよ」
同じものを手にしたアキトが、豪快にかぶりついた。
えっ!? そんなふうに食べるの!? そんなふうに食べていいの!?
驚いたけど、私たちの周りにいる子達も、同じように食べている。それがおそらく正解のマナーなのだろう。
思い切って、エイッとばかりに先端から口に入れてみる。
アキトのように、ガブリッとではなく、カプリ…だったかもしれないけれど、それでも、おんなじように食べてみて、おんなじように味わった。
「おいしい…」
温かく、溢れる肉汁。口腔内に、そのおいしさが広がる。
「フランクフルト」にかかっている「ケチャップ」というソースもおいしいわ。つい、夢中になって食べてしまうぐらいに。
食べ終わると、なぜか、アキトがこちらを見て笑った。
……!? 何かしら。
「ケチャップ、ケチャップ」
アキトが自分の口元を指差した。
あ。
嫌だわ。
私、食べることに夢中になってしまって、ソースで口を汚してしまったみたい。
でも、拭くものが…、なんて思っていたら、サッとアキトに口を拭われた。
恥ずかしい。けれど、何かしら。こんな他愛のないことまで、とても楽しいわ。




