他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【35】
その日の夜。
王子と共に寝る予定のベッドの上で、私は寝ずに王子を待った。
普段なら、先に寝てしまうんだけど。
今日ばかりはそうはいかないわっ!!
起きて、夫を待って、夫婦のそういうの…、っていうんじゃない。
一度、どう思っているか、追求しておきたかった。
セフィア姫のことをどう思ってるの!?
アデライードさんのことをどう思ってるの!?
この先、二人とどういう関係を続けていく気なの!?
私には関係ないことかもしれないけれど、それでも、王子とアデライードさんを引き合わせてしまった身としては、気にならないわけでもない。
それに、セフィア姫とも、この一ヶ月以上、入れ替わりをくり返している。姫と実際会ったことはないけれど、それでも、姫はもう私の大事な友だちだと思ってる。
その友だちが不在の間に、結婚相手がよからぬことをしようとしてるんだもん。許せるわけないじゃない。
二股!? 不倫!?
王子をトコトン問い詰めて、セフィア姫の代わりにとっちめてやるんだから。
「うお。なんだ、まだ寝てなかったのか」
ベッドの上で鼻息荒く仁王立ちして待つ私を見て、寝室に入ってきた王子が驚いた。
「なんだ、またハラでも減って寝られないのか!?」
んなわけあるかっ!! この様子を見てわかんないの!? 私は怒ってるの!!
「話があります」
つとめて冷静に切り出す。
「王子、セフィア姫のこと、どう思ってるの!?」
どうやって問いただそうか悩んだけど、直球で尋ねることにした。
私、回りくどいことキライだから。
「なんだ、いったい」
「いいから、答えて!!」
私の勢いに、王子がフーッと息を吐き出した。
「国のための結婚相手で、オレの妻となった王女」
「いや、そういうんじゃなくて…」
それは、立場をどう思ってるか、でしょ!? 私が聞きたいのは…。
「あの噂を気にしているのか!?」
王子の逆質に、無言で頷いた。
王子も噂、知ってるんだ。
当たり前だよね。私の耳にまで届くぐらいだもん。表に出ることの多い王子が知らないわけがない。
逆に言えば、知ってても、平気でアデライードさんと親しくしているってわけだけど。
「あんな噂、お前が気にすることはない」
「でもっ!!」
「これは、姫と俺の問題だ」
……言葉に詰まった。
姫と王子の問題。
そう断言されてしまうと、もう何も言えなくなってしまう。行き場を失った怒りが、身体のなかで渦巻き、そして小さくしぼんでいく。
だって、私。私は…。
ノロノロとベッドに腰を下ろす。
「…寝る」
そう一言言い残して、王子に背をむけて上掛けにくるまった。
軽く息を吐いて、王子もベッドに横たわる。ベッドが軽く沈んだのが、身体に伝わる。
お互いに背をむけたまま。
結婚式のあの夜以来。王子が私に触ってくることはない。
私が入れ替わってる時は、一緒に寝るものの、それ以上のことはなかった。
しばらくすると、背中越しに王子の規則正しい寝息が聞こえてきた。
…なんだろう。
すごくモヤモヤする。
悲しいような、悔しいような。淋しいような。
一人ポツンと宇宙に放り出されたような、そんな気分になって、寝ると宣言したくせに、その日はなかなか寝つけなかった。
窓の外に浮かぶ月は、まだ半分近く残っている。
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
「ブンカサイ」の準備は着々と進んでいく。
「キョウシツ」の飾りつけも終わり、あとは衣装の確認と、提供する料理の下ごしらえだった。
その日、届いた荷物のなかから、それぞれに衣装が割り当てられる。
キャイキャイと騒ぐ女の子たちに混じって、私も衣装をお借りする。
「里奈は、はい、これ。試着して、サイズ確認して」
もうすでに、リナが何を着るのか、決まっていたのだろう。名前の書かれた用紙を確認しながら、担当の女の子から、衣装を渡された。
「これ、どうやって着るのかしら!?」
見たことない衣装。
ドレスとかなら、自分で着付けることもできるかしらって思っていたのに。
「なに!? アンタ、着方、わかんないの!?」
すぐそばにいた子に問いかけられ、素直に頷く。
「仕方ないわねー。ほら、貸してみ」
彼女は、手際よく、私に衣装を着付けていく。
左右の打合せを重ね、腰に大きな帯を締める。スカートの裾は長いのとやや短めのと重ねてある。袖はゆったりと長い。
そして、長いショールのうようなものを肩からかけさせられた。
「まあ…」
着付け終わって、身体を軽く動かしてみる。
私が動くたび、ショールと袖が蝶のように、風をはらむ。
「やっぱ、里奈はこの衣装だよね」
「うんうん。まさしく「ファ・ムーラン」」
「ディズニーでも、ちょっと異色の姫さまだもんね」
「でも、こっちのが里奈に合ってると思うよ」
…「ファ・ムーラン」。どのような姫なのかしら。
周囲では、他の女の子たちも、次々に姫の衣装を着付けていく。
青いドレス、黄色のドレス…。
私の知るようなドレスに似たものが、彼女たちの身を包む。
それが楽しいことであるかのように、笑いさざめく。
この世界では、普通ドレスを身にまとうのは、まれなのだとアキトから聞いた。結婚の時ぐらいしかドレスを着る機会がない。だから、みんなこうやってお祭りの時にでも、着てみたい。そう思っているのだと。
お姫さま気分に浸ってみたい。
そんな願いを叶えるのが、このドレスなのだとか。
みんな、姫という立場に、どのような夢を抱いているのかしら。
姫なんて、何もいいことなんてないのに。




