他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【33】
お姫さまカフェ。
初めて聞く言葉に、私は戸惑った。
お姫さま。この世界に来てもお姫さま。
そのことに微妙な気分にならないわけではなかった。
アキトの説明では、「ガッコウ」の女の子たちが、お姫さまに扮して給仕をするお店、ということだった。
女の子たちの、ゼヒやりたい!!という熱望のもと企画されたのだそう。
…お姫さま、そんなになりたいものなのかしら。
私にしてみれば、「コウコウセイ」のほうがなりたいものなのだけど。
衣装は借り物で、女の子がお姫さまになって、男性は執事になるのだとか。
「私、アキトの執事姿は見てみたいわ」
アキトなら、落ち着いて控えめでしっかりした執事になるに違いないもの。
私の言葉に、アキトが笑うような困るような、曖昧な顔を見せた。
「ガッコウ」では、「ジュギョウ」の合間に、「ブンカサイ」の準備が進んでいく。
店を出すのだから、それなりの準備が必要となるらしい。
看板、飾り付け、食べ物の手配、衣装の手配。それ以外にもさまざまな仕事が、準備の途中であれやこれやと湧いてくる。
…お店を出すのって、こんなに大変なのだわ。
私は、元の世界でも、店というものを知らない。
何か欲しい物があれば、商人たちが城にやってくる。彼らの持ってきたもののなかから、必要なものをアンナたちが見繕ってくれる。私があまり意見したことはなかった。
だから。
こんなふうに、誰かと協力して何かを作り、そして訪れるであろうお客さまのために用意することは、とても新鮮で楽しかった。
「里奈ー、そこの紙取ってー」
「この布を、ちょうどいい大きさに切って。テーブルクロスにするから」
「ちょっと、ここ飾り付けるから、端っこ持っててー」
楽しい。
どんな用事を頼まれようと、初めてすることだろうと、私は楽しくて仕方なかった。
誰かから仕事を頼まれる、用事を言いつけられるなんて、普段ならありえないことよ。誰かとともに、何かを成し遂げる。それは、この世界でしか味わえない出来事だった。
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
セフィア姫の身体に戻った私がまずやったのは、王都に来てくれたという、アデライードさんとの面会だった。
アンナさんから聞かされた、セフィア姫に面会したいご令嬢のリストに、彼女の名前があった時は、心底驚いた。
彼女、ホントに、言った通りのことを実行する人なんだな。
いつもなら、ご令嬢との面会なんて絶対にゴメンなんだけど、彼女は別。アンナさんに伝えて、さっそく面会の場を設けてもらった。
場所は、あの庭園。バラに囲まれた小さな空間に、テーブルと椅子。ちょっとした午後ティー空間。
「お目通りをお許しいただき、まことにありがとうございます」
乗馬服とは違う、真紅のドレスをまとったアデライードさんは、その…。メッチャ美人だった。
艷やかな黒髪、ぬけるような白い肌。真っ赤なんて、なかなか着こなせるアイテムじゃないと思うのに、彼女の容姿なら、これしかないじゃん!!ってぐらいにサマになってた。
例えるなら、真紅のバラ!?
セフィア姫とは対照的な、艶やかな美女。胸だって、セフィア姫とタイマンはれるサイズ。身体をそらさずとも、はちきれんばかりの存在感をかもし出している。
こういう美女とお近づきになれるのも、セフィア姫のおかげかな。普段の私だったら、気後れして、そばにも近寄れません。
「こうして王都に参りましたのも、私、姫さまとまだまだお話をさせていただきたかったからなんですの」
ええっ!? そうなの!?
「でも、あんな田舎の小娘が、いい気になって上京してきたなどと思われるのではと…。私、不安に思っておりましたの」
頬に手を当て、秀麗な眉をひそめた。
「そんなことないっ!! 私、こうやって会いに来てくれて、すっごくうれしいっ!!」
だから心配しないで。もっと遊びに来てよ。
彼女の手を取って、思いの丈を伝える。
「ありがとうございます。姫さまは、とてもおやさしいのですね」
いや、そんなふうにニッコリ微笑まれると…。女同士なのに、ドキドキしちゃう。
アンナさんに用意してもらったお菓子とお茶を楽しみながら、他愛のない会話を交わす。
私の話すことを、アデライードさんは時折相づちを入れながら聞いてくれる。
「まあ、そうなんですの」
「それで!? 殿下はなんとおっしゃいましたの!?」
彼女の聞き上手ぐあいに、ドンドン私の口も軽くなる。
乗馬を始めたきっかけ、王子との会話、自分用に仕立ててもらってるドレス。なんだって会話のネタにしたくなる。それこそ、その辺りで咲いてるバラのことでもなんでもよかった。
入れ替わりのことだって、彼女になら…。
「でも、乗馬をお許しになるなんて、殿下はとても開明的なお方ですのね」
…どうしよう。話そうかな。
「殿下も、姫さまのことを大事にされておいでですのね」
…話したら、驚かれるかな。アホなこと言ってるとか思われちゃうかな。
「でも、故郷を離れられて、お寂しいこともおありでしょう!? 私でよろしければ、是非お話くださいましね」
…アデライードさんなら、こんなコートームケーな話も受け入れてくれる気がする。
「女同士でしか話せない、そのようなこともおありでしょうから」
…ああ、話しちゃおっかな~。
「あのね、私、そこまで寂しくないの。だって…」
「姫」
会話が遮られた。
ふり返ると、そこに立っていたのは王子。にこやかにバラを背負って笑っている。
「こちらにおいででしたか」
言いながら近づいてくる。陽の光のもとで見る王子は、やっぱりどう見てもイケメン。私といる時に見せる、口の悪さを微塵も感じさせない、王子さまっていえばこうでしょっていう姿。
「アナタに早く会いたくて、今日の政務を終わらせてきましたよ」
えっ!! えっ!?
軽く手をとられ、甲にキスされる。
「あっ、あの、王子っ!?」
熱でもあるの!? そんなセリフ。
「愛されておいでですのね」
クスクスと、アデライードさんが笑う。
見られてたっ!?
当たり前なんだけど、恥ずかしさに、身体、ゆだりそう。
「おや、これは。クラインハルト嬢」
声をかけられて、初めて気がついたかのような王子の反応。
「お久しぶりですわ、殿下。覚えていていただけて光栄ですわ」
そんな王子に対して、アデライードさんはイヤな顔ひとつしない。それどころか、とっても優雅に椅子から立ち上がると、王子に対して非の打ち所のないようなお辞儀をする。
「ご政務も終わられたのでしたら、いかがです!? 殿下もご一緒にお茶でも召し上がりませんか!?」
それとも、邪魔モノはいなくなったほうがいいかしらと、微笑まれた。
やー、やっぱアデライードさん、スゴいわ。私でも、クラクラしそうなほど艶やかな笑み。
「では、お言葉に甘えて」
なんて言って、にこやかに厚かましく参入してきた王子。
アンタ、今、アデライードさんに鼻の下、伸ばしてない!?




