他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【32】
暁斗の予想はハズレなかった。
私はまたもや一日だけ自分の身体に戻っただけで、翌日にはセフィア姫の身体に逆戻り。
今日から大潮→小潮→長潮→若潮→中潮となってまた大潮の日となる。月で言うなら、十六夜の月→立待月→居待月→寝待月→更待月→下弦の月→有明月で朔月、つまり新月になるんだって。
これはすべて暁斗からの受け売り。
今日から始まってしまうかもしれない入れ替わりのために、いっぱい教えてくれたのだ。
…まあ、いっぱい???もあったけど。
それでも、知ってると知らないじゃ、安心感が違う。
次にいつ戻れるかわかっただけでも、本当にありがたい。
生理不順のときみたいに、「いつくるんだろう」「いつ始まるんだろう」なんて思わなくていいのは、正直助かる。
次の交代は28日。今日から数えて14日後。その日には元に戻れる。
そう信じてセフィア姫生活を始める。
王子がまたおっきなため息を吐いた!?
そんなの、気にしない、気にしない。ひと休み、ひと休み♪
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
またも、リナのなかに戻ってきてしまった私は、慣れた手つきで「ブラジャー」を留め、「セイフク」を身にまとう。「セイフク」は袖が長くなり、寒さから上着が追加される。
あと何回、この入れ替わりをくり返すのかしら。
きっかけ、原因がわからないから、止める方法もわからない。
ただ、このように少しずつこの世界に慣れていく、そんな自分がいるだけ。
でも。
止めたいのかしら。やめたいのかしら。
鏡に映った自分に問いかける。
…わからない。
戻らなくてはいけない、やめなくてはいけないと、理性ではわかっている。
だけど。
もう少しだけ。あともう少しだけ。
この世界で、この入れ替わりで、私は、私ではない自由を味わいたかった。
それほどまでに。
王女ではない、何にも束縛されることのない「リナ」という立場は、新鮮で、自由で、とても輝いて見えた。
「おはようございます、セフィアさん」
家を出ると、そこで待っていてくれたのはアキト。
朗らかに笑ってくれる彼に、私も笑顔をむける。
彼と過ごす時間は、王女という立場を離れて、同い年の友だちに近い感覚があるのか、とても安らぐ。王女であるときのように、身分を立場を気にしなくてもいいというのは、それだけで、心が解放される。
彼といるこのなんでもないような時間が楽しい。
殿下の妻となった者として、いけないとは思うのだけれど、浮き立つ心を止めることは出来なかった。
好き、とかではないわ。
ただ、自由に話せる、同世代のお友だち。
それだけよ。
だから、もう少しだけ。
自分の歩まなくてはいけない人生の、道端に咲いていた花を見つけたような幸せを。もう少しだけ味わっていたいの。
「ブンカサイ…!?」
「ガッコウ」にたどり着いた私は、聞き慣れない言葉を耳にした。
「今月の、26日、27日だけど…。里奈、忘れたの!?」
え!? 忘れたも何も。初めて聞いたのですが…。
「ねえ、最近、里奈、大丈夫!?」
リナと仲の良いという女の子が心配そうに、私をのぞきこむ。
「え!? ああ、大丈夫ですわ!?」
「…ですわ!?」
「大丈夫です」
「んんっ!?」
「あ。その…、ヘーキ、ヘーキィッ!!」
ナツキのような言葉遣いにしてみる。
ようやく、彼女の眉間のシワがとれる。
「まあ、なんかさ、悩みとかあったらなんでも話しなよ。聞くだけかもしれないけど、相談には乗るからさ」
ポンポンと肩を叩かれた。
「ありがとう…ございます」
思わずうつむいてしまう。
この世界はなんて、優しさに満ち溢れているのだろう。
「…やっぱさ。里奈、なんかあった!?」
別の女の子からも尋ねられる。
「もしかして、恋の悩みとか!?」
「えっ!? やっ、そういうわけではっ…!!」
しどろもどろに返事する。顔が一気に赤くなったことを、自分でも自覚できた。
「やー、里奈に限って、そんなこと、ないかあ」
「里奈だもんねー」
「里奈だもんなー」
彼女たちが口々に言いあう。
「そうそう。ワタシ、元気、元気ですからっ、ご心配なくっ!!」
精一杯の作り笑いを見せる。笑い声かカサつく。
彼女たちがまた怪訝な顔をしたけど、ヘーキ、ヘーキィと何度もくり返して納得してもらった。
それにしても。
このリナという少女は、いったいどのような目で見られているのかしら。
「文化祭…かあ。すっかり忘れてた」
帰り道、アキトに相談すると、彼は、しまったという顔をした。
「あの、どのようなことをするのでしょうか、「ブンカサイ」」
「あー、うん。いろんなお店をやったり、劇をやったりする、そういうお祭りなんだけど…」
「お祭り!? それは楽しそうですわ」
私、話に聞くだけで、この目で見たことないもの。どんなものか、とても気になるわ。
庶民には、季節によってさまざまなお祭りがあると聞いたことがある。今まで、姫という立場から一度も目にしたことなかったけれど、もしかしたら、今回、初めて体験できるかもしれない。
そう考えるだけで、胸がドキドキする。
身体が浮き上がってきそうな気分。
「でもなあ…」
アキトが渋い顔をした。
「どうしたのですか!?」
「いや、その出し物がさ…」
………!?
「お姫さまカフェ…なんだよ」
…お姫さま!?




