他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【29】
ヴィルフリートは、真っ赤になって、クニャクニャになった妻の身体を、寝台の上にそっと下ろした。
透き通るほど白い肌を、これ以上ないぐらい上気させた新妻。寝台に身を下ろしても、まだ何かを求めるように腕を伸ばし、こちらに触れてくる。
普通の新婚夫婦なら、ここで夫婦の睦み合いということになるんだろうが…。
そうならない自分たちの関係に、ヴィルフリートはため息をもらした。
自分より薄い金の髪。湖水のように澄んだ青い瞳。その造形一つひとつが、とても美しい。ローレンシア王国の王太子妃として申し分のない容姿。
しかし。
中身が違う。
外見は紛れもなく、新妻セフィアなのだが、中身が異世界から来たというリナという少女なのだ。
こんなバカなことがあるか。
何度もそう思った。
けれどリナは、王族の、それも深窓の姫君とは思えないようなことをしでかす。
馬に乗る、王都を離れる、はまだいい。自分もそれを勧めたし、反対する気もなかった。
ただ、見ず知らずの女と知り合いになって、気安く会う約束をするなど。
ありえない。
もう少し警戒しろ。
もし、あの女が生命を狙うようなやからだったら、どうするつもりだったんだ。
まあ、あの女の魂胆は、なんとなく察しているし、それに対処するワザがないわけではないが。万が一にと残していったシルヴァンから報告をもらうまでは、かなり心配もしたものだ。
それなのに、勝手に王都で会う約束までするし。
お前、いつかは元の世界に戻るんだろうが。元に戻って、セフィア姫にあの女の相手をさせるつもりか!?
考えなさすぎだろ。
お前が気に入ったからって、姫まであの女を気に入るとは限らないんだぞ。
どういう魂胆で近づいてきているか、考えもしないで。
無防備すぎだ。
少しは頭を使え。
今だって、提供された果実酒の飲み過ぎで、グデグデになっている。
あんなの、口あたりはいいが、酒としてはかなりキツいほうなんだぞ!?
それを何杯もガバガバと。
こんなフニャンフニャンのクテクテになって…。
歩けなくなるほど飲むなんて、ありえないだろ。
酩酊したリナを見た市長たちの顔を思い出す。果実酒を次から次へと、盃を空にしていく姫。酒豪…、というのならまだいいが、次第に瞼を重そうに、姿勢を保てなくなってきたその様子に、呆れ、そして笑いを噛み殺していた。
「果実酒をがぶ飲みする、蛮国の王女」「マナーも知らない、常識もない。ルティアナ王国とは、そのような国なのか」「見た目だけ美しくとも、中身が伴っていないのでは…」
それでなくとも、ローレンシアの民のルティアナ王国への意識は、あまり良くないというのに。
その昔、ローレンシアが皇国を名乗っていた頃、領土の一部であったルティアナが、王国として独立し、今では対等に戦争、外交を繰り広げている。新興国のヴァイセンに対してもいい感情を持ち合わせていないが、ルティアナに対しても、好意的な目を持っていない。歴史と伝統を重んじるこの国では、独立、対等などという言葉を、未だに認めない。そういう者もいるのだ。ルティアナが豊かになれたのは、その昔、皇国(歴史を重んじる連中は、今でもローレンシアを皇国と呼ぶ)の皇帝が、様々な政策を授けたからで、今の繁栄はローレンシアのおかげなのだと、声高に叫んでいる。
正直、そんな昔の栄光にすがりついたような話に興味はないが、それでも、民の持つ、昔からの伝統に基づいた矜持と、周囲への偏見、蔑みは無視できない。
だから。姫は、そのような連中に、バカにされないだけの振る舞いを要求されているというのに。
コイツときたら…。
「おうじぃ~!?」
トロ~ンとした目で、こちらを見上げるリナ。なにが嬉しいのか、その整った口元は、クニャンと緩んでる。
「イケメン~、イケジョォ、パ~ラダイスッ!!」
…何だそりゃ。
聞き返す間もなく、腕のなかで寝入ってしまったリナ。
王子としての自分ではなく、地のままの自分で接することの出来る貴重な存在ではあるが、ここまで無警戒でいられると、少しハラも立ってくる。
…コノヤロ。
お前、姫に「酔っぱらい姫」の二つ名を与えてしまったんだぞ。わかっているのか!?
気持ちよさそうに寝入った鼻を、キュッとつまんでやる。
能天気そうな寝顔が、ウニュ~と崩れた。
* * * *
…頭、痛い。
翌朝、寝起き一番に思ったことはそれだった。
頭痛いし、なんか気持ち悪い…。
今になって、旅行とかの疲れが出たのかな!?
ほら、私って繊細だから。
王子にそう告げたら、「ドアホウ」と返された。
「ドアホウ」だって。流川くんかよ。
ムカつくけど、それ以上の反論をする余裕はない。
グワングワンする頭を抱えて、ベッドの上でグッタリするだけだ。
今日、王都に帰る日だったのに~。
王子が用意してくれた薬を飲んだおかげで、少しはラクになったけど、それでも乗馬はムリ。今、身体をゆすられたら、その…、姫としてあるまじきことをやっちゃいそう。ケロケロ~っと。キラキラ~っと。
仕方がないので、ベルクフォルム滞在は、私の体調が戻るまで一日延長となった。
ゴメンナサイ。
ちなみに。
このことを市の人たちに告げると、「さもありなん」という反応が返ってきたんだって。
…どうして、「さもありなん」なのかな!? この見た目から、…かも!? か弱い女性にみられた!?




