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他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【28】

 市街に戻ってからも、帰りの道中、アデライードさんはイロイロと案内してくれた。

 「あちらが街の大広場で、正面に建っているのがこの街の大聖堂ですわ」

 ひときわ古そうな教会がデデーンっと、そびえ立っていた。結婚式を挙げた教会とドッコイドッコイの古さを感じる。ヨーロッパとか行けば、こういうの、普通に建っていそう。

 「そして、その向かいが市庁舎なのですが…あら!?」

 説明が止まる。馬が歩みをとめる。

 見ると、市庁舎入り口に人の集まり。皆、街行く人たちよりもイイものを着ている。

 そのなかに、ひときわ背の高く、金の髪が目立つ男性が立っていた。他の人たちは、彼を取り巻くように輪を描いている。

 「王子…!?」

 馬を近づける。間違いない。あの金の派手な髪色は王子だ。

 「姫」

 私の姿に気づいた王子が朗らかに笑った。人の輪のなかから出てきて、馬の横に立つ。

 「遠乗りは楽しかったですか!?」

 「ええ…」

 「それはよかった」

 なにその営業用スマイルはっ!!

 すっごい嘘くさい。本気で笑ってないでしょ。

 「あの、王子…」

 チラリと後ろを振り向く。

 「こちらが、今日案内をしてくれた…」

 「アデライール・クラインハルトと申します。お初お目にかかりますわ、殿下」

 私が言い切る前に、ヒラリと馬から降りたアデライードさんがお辞儀をした。長い乗馬用のドレスの裾をチョンとつまんで。優雅に微笑んで。

 うわー。レディってカンジ。スゴいわ。映画でも見てるみたい。

 この場合、私も降りたほうがいいのかな。

 「これは。姫の相手をしてくれたこと、礼を申す、クラインハルト嬢」

 王子もにこやかに対応する。すっごい爽やか笑顔。

 うーん。私の知らないハイレベルの礼儀の応酬だわ。笑顔の見本市。

 「そうだ、姫。ここで会えたのも何かの縁です。一緒に帰りませんか!?」

 返事も聞かずに、王子までもが私の馬にまたがった。つまり相乗り、二人乗り。私の背後から手綱を持つ。

 「では、皆のもの、クラインハルト嬢。失礼」

 そう言い残すとクルリと馬首を翻した。

 すっごいあっと言う間の出来事。私、OKしてもないのに、王子と帰ることになっちゃった。

 アデライードさんや、さっきまで一緒にいたであろう市の人たちを置き去りにして、馬を歩ませる。

 「ね、ねえ、いいの!? こんな急に帰って…」

 「今日の仕事はもう終わった。これ以上アイツらと話すこともなかったし、正直、面倒だったから、ちょうどいい」

 そうなの!? …でも、面倒って。それでいいの!?

 振り返ってみると、皆、ポカンとした顔をしている。いや、衝撃から立ち直り、隣りにいる人とヒソヒソ話し始めた人もいる。

 あれ、絶対私の悪口言ってるよね。

 どんだけラブラブなんだ、とか、あんなふうに馬に乗るなんてはしたない、とか。そういうの。

 王子のイキナリな行動に、アデライードさんもついてこれなくなってる。ついてきたのは、王子のお側去らずのシルヴァンさんだけ。ちょっと距離をとって、離れて後をついてきてる。

 せっかく彼女と仲良くなれたのに。これじゃあ、また元通りだよ。もしかすると、王子の溺愛ぶり(もちろん、ウソ)にドン引きされているかもしれない。

 あーあ。

 仲良くなれそうだったのにな。

 これ以上仲良くなるのは難しいかもしれないけど…、あとでそれとなく謝っておこう。出来ることなら、だけど。

 カポカポと石畳を馬が蹴る音がする。

 二人で馬上の人になるのは、これで2回目。以前と違って私も馬に対して余裕が出た分、なんかヘンなところに意識がいく。

 つまり。

 王子との密着した身体が落ち着かない。

 前は馬から落ちないか必死だったけど、今はそうじゃない。背中に、私を抱くように後ろから手綱に伸ばされた腕に、妙に緊張してしまう。

 なんていうのか。背後から抱きしめられてるような、そんな錯覚におちいるのよね。

 王子の息も近いし。

 多分、今、私、背中、真っ赤になってるよ。自分じゃ見えないけど。

 意識しないでおこうと思えば思うほど、逆に神経がそこに集中しちゃう。 

 もしかすると、背中の余波で耳とか首筋とかも赤いかもしれない。

 …王子、気づかないでいてくれるとうれしいんだけど。

 気づかれたら、きっと笑われる。それも大笑い。

 「お前なんかに欲情しないから、普通に乗ってろ」とか言われそう。

 市庁舎から宿舎になってる迎賓館まで、さほどの距離ではなかったけど、それでも私には、ものすごい長い道のりを進んだような気がした。


 迎賓館に戻った王子は、私を部屋に放り込むと、自分はさっさとシルヴァンさんとともに、どこかへ行ってしまった。

 なによ。仕事終わってないじゃない。

 結局、その日は、私が寝るまで王子が戻ってくることはなかった。


 翌日。

 その日も、当たり前のように、私はセフィア姫のなかにいた。

 うえ~ん。いつになったら、元に戻れるんだろ。いい加減戻らないと、中間テストがぁ~という、超地に足のついた、超現実問題が待っているのに。

 確か、今日からだったはずだよ、中間テスト。

 セフィア姫、頼むよ!! 赤点、追試にだけはならないで。

 そんな祈るような気持ちで今日一日を過ごす。

 その日は、ベルクフォルムの視察、最終日で、夕方からは、市議会議員の人たち、その奥さま、ご令嬢たちとの晩餐会となった。もちろん、私や王子はもてなされる側。主賓。

 私たちの席の近くにはから順に身分のある人達が並んで座る。王子のすぐ隣には市長、市議会議長というぐあいに。

 そのなかに、なんとアデライードさんもいた。聞けば彼女、市長の娘さんなんだって。

 この日は、真っ赤バラの模様が織り込まれたドレスをステキに着こなしていた。肩まで大きくあいた襟が、むき出しになった肩が鎖骨が、これまた口づけたくなるほどキレイ。

 昨日の中途半端なお別れ以来だったけど、私を顔を会わせても、イヤミの一つも言わなかった。それどころか、「これからも、仲良くしてほしい」だって。

 市長の娘で、美人で、やさしくて、リベラルな考えの持ち主でって。どんだけスゴいのよアデライードさん。

 「私も、また王都に伺いたく存じます。殿下、姫さま。その時は、またお会いしていただけますでしょうか」

 「モッチロン♪」

 つい、地のままに返事をしてしまう。

 でも、これぐらい許されるよね!? それぐらいうれしかったの。

 王子も、「喜んで」とか言って返事してくれたし。

 (まあ、付属の笑顔は営業用なんだろうけど)

 いいなあ。こうして話せる人と、また会う約束ができた。アデライードさんみたいなステキな人に、好意的に接してもらえてる。

 今度、本当に彼女が王都を訪ねてきたら。

 その時は、入れ替わりのこと、話しちゃおうっかな~。

 アデライードさんなら、笑って「大変でしたね」とか慰めてくれそう。理解してくれそう。

 そう考えるだけでうれしくって。

 私は、コルセットのせいであんまり食べられないかわりに、目の前にあったジュースを一気に飲み干した。 

 …コレ、甘くて、すごくおいしい。

 アデライードさんと同じぐらい、ステキな飲み物。

 ねえ、もっと飲んでいい!?

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