他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【27】
「でね、スゴいのよ、アデライールさんって。今度、自分も乗馬用のドレスを仕立ててくるから、一緒に遠乗りしたいって言ってくれたの」
夜、当たり前のように通された寝室 (もちろんダブルベッドつき)で、王子に今日あった出来事を報告した。
ここベルクフォルムに来てからは、晩餐の時と今ぐらいしか王子と顔を会わせていない。私は物見遊山で来たけれど、王子は視察っていうお仕事だもんね。私とずっと一緒にいるのは難しい。
だから、こうして二人っきりになった時に、今日あったことを報告してるんだけど。でないと、うっかり明日の朝にでもセフィア姫と入れ替わってたら、姫、知らないことだらけで困っちゃうでしょ!? パーマンみたいにコピーと額を合わせるだけで情報が伝達出来ればいいけど、それは無理だから、王子にメッセンジャーとしての役をやってほしい。そう思って話してるんだけど。
「ふーん…」
寝室にまで資料を持ち込んだ王子の反応はそっけない。
私に背中をむけたまま、寝転んでずっと読みふけってる。
興味ないの!?
なんかこう、うれしかったこととか、いっぱい話してるのに、無感動な反応されると…。
うわ。ハラ立つわ。
いっしょにゴハン食べに行って、ずっとスマホいじられてるような気分。
そのオシリ、蹴っ飛ばしてやりたくなる。
「とにかく、私、アデライールさんと遠乗りに出かけるかもしれないから。覚えておいてよね、王子っ!!」
それだけ言い残すと、フンッと鼻を鳴らしてベッドに横になった。腹いせに、一枚しかない上掛けをたぐり寄せ、くるまって寝る。王子の分の上掛けはちょこっとしか残らない。
せっかく楽しかったことをいっぱい話したかったのに。
王子のバカ。
翌朝。
起きてみてもやっぱり私はセフィア姫のままだったので、昨日アデライードさんと約束したとおり、遠乗りに出かけることにした。
というかね。
朝起きたら、さっそくアデライードさん自身がお誘いに来てくれたんだもん。それも、昨日私が着ていたような、乗馬用ドレスをまとってさ。
「これで、ご一緒できますわ」
なんて微笑まれたら…。
幸い…というか、王子は今日もベルクフォルムの市議会議員たちと面会だの視察だので、私の側にはいない。私、用意された居室でヒマに一日過ごすだけだったから、アデライードさんのお誘いは、すごくうれしかった。
私もさっそく着替えて乗馬に出ようとすると…。げげっ!!
そこにいたのは、あのオオカミ剣士。シルヴァンさんだった。
「姫さまの護衛を務めるよう、殿下から仰せつかっております」
だってさ。メッチャ無表情に、業務報告を受けた。
てっきり王子についていってると思ってたから、かなり驚いた。
「愛されていらっしゃいますのね」
アデライードさんはそういって微笑むけど、私から見れば、こんなのただの見張りだよ。
私が姫さまとして何かしでかさないか、シルヴァンさんを通じて見張ってるんだ。そうに違いない。
なんとなく気に食わないけど、それでも外出自体を禁じられたわけじゃないから、まあ良しとするか。
私たちは、アデライードさん、私、シルヴァンさんの順でポクポク馬を歩ませる。私とアデライードさんが、やや近く、少し離れてシルヴァンさん。あくまで護衛だから、と距離を取っているらしい。
まあ、この人が会話に混ざってくるなんてのは想像できないから、これでいいかなって。そもそも、ほとんど声を聞いたことないのよね。王子より低くていい声だとは思うけど。ホント、影のようにヒッソリと、でも肝心なときはドビシュ!!っとかSE入れて容赦なく敵を切り倒しそうな人。もちろん無言。「また、つまらぬ物を斬ってしまった」!? 的な。西欧風石川五右衛門。
「あれが、この街の特産品、サクランボの畑ですわ」
遠乗り…といってもそこまで遠くに行くことも出来ないので、見て回ったのは主に街の外れにある畑とかそういうものだった。
少し紅葉した葉の混じる木々。キレイな水辺を作る小川。遠くの紫がかった山の連なり。
王都では見られなかったこの世界の風景に、私は見とれてしまった。
こんなの、現実世界じゃあ、どこか旅行にでも出かけなければ見ることは出来ない。そんな風景。最近、旅行とか行ってなかったからなあ。こうして異世界で旅行、楽しんでいるけど。
「姫さま!?」
「え!? ああ。なんでもありませんわ」
ホホホっと笑っておく。つい、ボンヤリしちゃったよ、私。
「お疲れではありませんか!?」
「え!? 全然!?」
アデライードさん、優しいな。こんなふうに気づかってくれるなんて。美人な上に、優しいだなんて。完ぺきすぎるじゃん。新しいことにも挑戦するだけの頭の柔らかさも持ってるみたいだし。
私と一緒に遠乗りしたいだなんて、最初は社交辞令だと思ってた。よくドラマなんかである、「また、遊びに来てね」なんて言葉にのって、うっかり会いに行ったら、「うわ、ホントに来たよコイツ」的な!? 言葉どおりにとるんじゃねえよ、みたいな。
そういうのだって思ってた。
この街まで騎乗してきた、変わり者の私のために、ドレスだの乗馬だのをネタにして話したのかと。
でも、それは違った。
アデライードさんも、こうして一緒に馬に乗ってくれてるし、案内してくれている。
私のやることに理解を示してくれている。そんな気がした。
…彼女なら、アデライードさんなら、今の私のことを話しても理解してくれるんじゃないかな。
異世界から来て、姫と入れ替わってるっていう荒唐無稽な話も、彼女なら理解してくれるんじゃないかな。
もしかすると、同性な分、王子より親身になって助けてくれるかもしれない。
話そうかな、彼女に。
でもな。
このことは私だけの問題じゃないし。一応、王子にも相談しておいたほうがいいかな。
「姫さま!? やはり街に戻りましょうか」
いきなり黙りこくってしまった私に、アデライードさんが呼びかけた。
私も、これ以上ワガママも言えないので、素直に従う。
いつか、話せる時が来たら、彼女に本当のことを話したい。そして、彼女さえよければ。この世界のお友達になりたい。
それはきっと、知らない異国に嫁いできたという、セフィア姫のためにもなるんじゃないかな。




