他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【26】
王子の視察は、往復も含めて行程七日ほどの、修学旅行よりは長い期間だった。
「お前を連れていなければ、もう一日二日早く終わるんだがな」
…悪かったわね。馬に乗り慣れてなくって。
馬は、前回の入れ替わりでそれなりに練習したから、ある程度乗りこなせるようにはなったけど、それでも、駆け足とかそういうのはまだ出来ない。お馬サマの上になんとか乗せてもらってる。そんなカンジ。この先、もっと練習したら、障害なんかもズバーンッて跳べるようになるのかな。ちょっと挑戦してみたいけど、この身体じゃ無理だ。
怪我したら大変というのもあるけど、根本的に、セフィア姫の身体の運動神経がよろしくない。運動したことない、筋肉が未発達。ダンスなんかのソロソロ踊るだけならいいんだろうけど、乗馬なんていう激しいものになると、身体が悲鳴を上げる。筋肉痛という、私なら絶対ならないような事態を引き起こす。
元の世界に戻ったら、思いっきり私の身体で乗馬に挑戦してみようかな。
多分、それなら上手くいく。
視察の目的地は王都の北西の地方、ベルクフォルムというところだった。
「ここは、古来からサクランボが特産物なんだ」
途中、王子からそんな情報を聞いた。
「サクランボ!? 食べたい」
速攻返事をしたら、大いに笑われた。
「今の季節は、サクランボは無理だ」
「そうなの!?」
「その代わり、リンゴとナシが採れる。ベルクフォルム産のナシは王都でも人気の高級品だ」
うおお、高級品と聞くだけでヨダレ出そう。だって、お高いということは、=おいしいってことでしょ!?
「ははっ。そんな物欲しそうな目をするな。自分が王太子妃役やってるって自覚あるか!?」
あ。いけない。
そうだ。私は姫。おしとやかで控えめな、誰もがうらやむセフィア姫っと。
「それに。ナシが手に入ってもガッツくなよ」
「……!? どうして!?」
「ナシは、少し時をおいて熟成させないと、固くて食えない」
…そうなんだ。
ってか、そんなにガッツきそうに見えるわけ!?
失礼ねっ!! そこまで意地汚くないわよっ!!
ムッとしてみせると、王子がさらに大笑いした。
…からかわれた!? なんか、納得いかない。
道中もそうだったけど、ベルクフォルムについてからも、周囲の反応はすごかった。
まあ、そうだよね。そうなるよね。
王都でも同じ反応されたもん。
つまり。
① 新婚ホヤホヤの王子が妃を伴ってきた。
② 妃は馬車とかでなく、自ら乗馬してきた。
③ それも、普通女性がするような横座り騎乗ではなく、男性と同じ騎乗スタイルで。
④ 侍女すらいないではないか。
⑤ こんなところまで伴うなど殿下はどれだけ熱愛されているのだ!?
⑥ おしとやかだと噂で聞いていたが。とんでもないデマだったのだな。
⑦ お顔立ちは美しいのに。(盛大な、大げさなまでのため息)
⑧ それでも、ご機嫌を損ねたら大変だ。精一杯笑顔で接待につとめよう。
…ってとこかな。
王子はまったく気にしていなかったけど、私は気になる。
特に、⑥と⑦!!
どうせ、私はおしとやかには無縁ですよ。顔だって、元に戻せばモブ1レベルですよ。三歩あるいたら忘れられるレベルの顔ですよ。ちょっとイジケたくなる。
だから、私用の接待をしてくれる市議会議員の奥さま方に対して、つい言葉少なになってしまう。
笑顔だってきっとぎこちない。
「姫さまのような素敵な方とお会いできて光栄ですわ」
ニコニコ。
「殿下といつもご一緒だなんて、とても愛されておいでなのですね」
ニコニコ。
「このベルクフォルムは、果実酒も有名なんですの。ぜひ、姫さまも殿下とご一緒に召し上がってみてくださいませ」
ニコニコ。
なんでもニコニコ。
もう、いっそのこと笑顔のお面でも作っとこうかしらって思うぐらい、ニコニコ。お面、貼り付けといても、この人たち、わかんないんじゃない!?
…ああ、つかれた。
うわべだけの褒め言葉に、いい加減うんざりする。
どうせ、とんでもない姫が来たとでも思ってるくせにって、毒づいてしまう。
「それにしても。とてもステキなドレスをお召しですのね」
そうそう。もう、なんでもテキトーに褒めといてよ。…って、え!? ドレス!?
「そのようなドレスなら、女性でも男性と同じように乗馬をたしなむことも出来ますわね」
社交辞令とは思えない、ドレスを、乗馬をほめる言葉に驚いた。
誰!? そんなこと言ってくれるの!?
見回すと、市議の奥さま方に混じって、一人だけ私と同じぐらいの年格好の女性が立っていた。
艷やかな黒髪、ぬけるように白い肌。瞳の色は王子より深い緑。赤く濡れたような唇が印象的。姫さまとは別のベクトルだけど、この人もかなりの美人さん。
この世界、美人、美形が多いんだなあって、思わずしげしげと見入ってしまう。
「お初、お目にかかります。私、アデライール・クラインハルトと申します」
そう言って彼女が優雅にお辞儀した。
「姫さま、よろしければあちらで、ご乗馬のコツとか、お話しいただけませんか!?」
えー!? いいの!?
この世界で初めて、王子以外の女性乗馬肯定派の人に出会ったよ。
この人も、私みたいに、身体動かすことが好きなんだろうか。
私は、ここにきて初めて友だちができたみたいで、うれしくって彼女とイロイロ話をすることにした。




