他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【25】
「また、お前か…」
盛大なため息とともに、あんまり歓迎されていない王子の言葉。
はい、またお前ですよ。
傷つくなあ、そういうの。
「今度はいつまで、こちらにいるんだ!? またわからないのか!?」
その質問に、コクリと頷く。
「俺は、視察でまたしばらく王都を離れるが…」
王子がニヤリと笑う。
「お前もついてくるか!?」
普通、王子とかの妃は、王都を離れたりしない。というか、姫さまってものは、王都どころか、自分の暮らす王宮から外に出ることはめったにないのだそう。特に、セフィア姫みたいな、政略結婚で迎え入れられた姫は、その立場上、王宮に留め置かれることが多い。政治的人質、という意味合いがあるんだって。
だから、王子からの提案で私が視察についていくことに、アンナさんをはじめ、いろんな人が驚いていた。
特例中の特例。
―――そこまで王子は、セフィア姫に入れ込んでいるのか。
―――あの美しさが、王子の身を滅ぼさねばいいが。
―――ルティアナは、この国を傾かせる気ではないのか。
などなど。熱愛以上に、ヘンな心配までされる始末だ。
私と王子、まったくそんな関係にないのにね。
視察に私がついていくことは、急に決まったことなので、アンナさんをはじめ、ドレスの仕立ての人たちを驚かせてしまったけど、一番おどろいていたのは、なんと馬丁のオジさんだった。
だって、ね。
普通、この世界では女性が馬に乗る場合、横座りで乗るんだって。なのに、私用に王子が用意させたのは、普通の、男性も使うまたがって使う鞍。そんなの、はしたなくって、お姫さまじゃありえないでしょ!?ってことで、馬丁のオジさんは目をまん丸にしてた。
もちろん、ドレスを用意してくれた仕立ての人たちもビックリしてたけど、そこは職人根性というのか。出発までに、私に合うような、馬にまたがっても足の見えることのない(つまり、結構裾の長い)ドレスを仕立ててくれた。モスグリーンの少し生地の厚い素材でできたそのドレスは、馬で風を切るのに、寒くないようにという配慮だった。その上、おそろいのマントもつけてもらえた。
「うわ、これ、すっごくカワイイッ!! その上、動きやすいっ!!」
喜ぶ私に、仕立て係の女性(ジャンヌさんって言うんだって)が複雑そうながら、笑ってくれた。
裾は、馬から降りたとき、じゃまにならないように、おへそのあたりで、ギュッと留めることもできるようになってる。普通、ドレスってゾロゾロしてるから、うっかりすると、裾、ふんじゃうんだよね。片足踏んづけただけなら、もう片方の足で次に蹴り上げればなんとかなるんだけど。次の足でも踏みつけちゃった時には…。両足、つんのめり。
だけど、このドレスは、その心配のない形になってる。だから、素直にこの動きやすさを感謝したんだけど。
「あの…。このようなドレスで、よろしいのでしょうか!?」
色素の薄そうな、そばかす顔のジャンヌさんが戸惑ってた。
「もっちろんっ!! これからも、動きやすい服、たくさん作ってよっ!!」
彼女の針で痛めた手を握る。こんなに手傷つけながら作ってるなんて、申し訳ないけど、それでも、いやそれだからこそ、最大の感謝を彼女に示したかった。
「ワタクシ、動きやすいの大好き。だから、これからもよろしくね」
「はっ、はいっ!!」
私はセフィア姫じゃない。少しぐらいお転婆(死語)にやったっていいはずだ。王子だって、それを認めてるぐらいだし。
「あの、それでしたら、もっといいドレスもご用意出来るかと思いますっ!!」
「えっ!? ホントッ!? じゃあ、今度、それも見せてよ」
「はいっ!! 喜んでっ!!」
ジャンヌさんが笑顔になる。ドレス作り、好きなんだろうなって顔。
「あ、でも。無理しないで。ゆっくりでいいからね」
でないと、また手を傷つけそうだ。
ジャンヌさんなら、もしかしたら、私用にパンツスタイルも用意してくれないかな。短パンは無理でも、せめてスカパンとか、スカンチョぐらいは。
セフィア姫の容姿、身体でそれが似合うかどうかはわからないけれど。それでも、私は思いっきり身体を動かせる服が欲しかったのだ。
身体を動かしたい。
姫との入れ替わりがこうも続いてくると、本来の自分がドンドン顔を出してくる。我慢できなくなってくる。
じっとしていたくない。動きたい。動かしたい。
そういう意味で、王子との視察旅行は、結構な楽しみだった。
王女という立場から、少しだけ解放される。ちょっとぐらいはっちゃけたって、気にする人も少ないだろう。
ちょっとした異世界遠足気分。
…バナナはおやつに入りますか!?
視察は、あくまで視察であり、行幸ではないので、人員は最低限ということにされた。視察と行幸の違いがイマイチわかんないけど、そういうことらしい。ついていけるのは騎乗出来る者のみだから、勢い男性だけになる。アンナさんが私のこと(正確にはセフィア姫のこと)を心配してくれたけど、行く先々で接待にあたってくれる女性がいるからと、王子が納得させてくれていた。もちろん、アンナさんは馬には乗れない。
私自身、誰かに世話してもらわなくったって、自分で身の回りのことぐらいできるんだけどね。
「それじゃあ、行ってきます」
心配そうに見送ってくれたアンナさんに大きく手を振る。
そんなに気にしなくっても、この身体は無事に返すから。
護衛の人たちもついてるし。あの、シルヴァンっていう、イケメン剣士も。
まあ、彼の場合、私よりも王子を率先して護りそうだけどさ。
それに、戦争してるわけでもないんだから、そんな危険も少ないでしょ。王子が私を連れて出かけるぐらいだし。
実際、道中は結構ノンビリしたものだった。
私が馬に乗ることを驚く随員もいたけれど、それを口に出すヤツはいなかった。
夫である王子が何も言わない。王子が連れていくと言い出したのだから、それを反対する部下はいない、というところかな。
王都を出ると、街道は石畳ではなく、踏み固められた土の道になった。
両サイドには、赤く紅葉をはじめた木々が並んでる。
その向こうには畑。牧場なのか、牛が草を食んでるというのもあった。
木々の間を爽やかな風が吹き抜ける。空は突き抜けるように青い。
天高く、牛肥ゆる秋!?
異世界で感じる秋は、とてもすがすがしいものだった。




