他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【24】
二度あることは三度ある。三度あることは四度目もあるかもしれない。五度目も、六度目も…。
あはははは…、は。
私は、またもや、セフィア姫のなかにいた。
たった一日、自分の身体に戻っただけで、またここに来てしまった。
ただ、前回と違うのは、寝起きのベッドのなかに王子がいなかったこと。寝ていた形跡もない。
…あれ!?
二人はラブラブなんじゃないの!?
どうして、姫さま、一人で寝てたんだろう。
その前日、私が入ってた時は、いつも王子と一緒に寝てたのに。
…王子、どこに行ったんだろ!?
ムクリと身体を起こして周囲を見回す。
あ。
なんてことでしょう。王子が、部屋の片隅、ソファーの上で、ちょっと窮屈そうに眠っているではありませんか。(ビフォー・アフター、ナレーション風に)
どうして!?
仲悪くなっちゃったの!?
…もしかして、この入れ替わりが何か悪影響を及ぼしてるとかじゃない…よね!?
そうだったら、責任を感じる。
私のせいで、両国の間が上手くいかなかったり、新婚夫婦のラブラブな関係がギクシャクしちゃってるのなら、イロイロマズいし。
でも戻りかた、わかんないから、時間が経って、その時が来るのを待つしかないんだよね。
脱げやすいネグリジェのまま近づくのはためらわれたので、シーツを肩からマントのようにかけて、そっとベッドから降りた。ズルズルとシーツを引きずりながら、眠ってる王子に近づく。
…こうして見ると、ホントイケメンなんだよな。
セフィア姫とは違う、濃い金の髪。朝日が彫りの深い顔立ちに陰影を作り出す。平たい顔族では出来ないことだ。長いまつげで縁取られた目は、今は見ることが出来ないけど、鮮やかなグリーンだってことを、私は知ってる。
…だけど、口はサイテーなんだよね。
公の場では「私」とか言って、キラキラしい王子言葉なんだけど、いざプライベートになると、「俺」口調の、オブラートどこいった!? 状態。容赦なく、ズバズバ好き放題言ってくる。ムカつくんだけど、その気安さがありがたかったり。なんというのか、クラスメートとかと喋ってるようなかんじで、気楽なのよね。
…また私が戻ってきたって知ったら何て言うかな!?
「…んっ…」
私の気配に気づいたのか、ソファーの上で、王子が身じろぎした。ホント、窮屈そう。
ボヤンとしたグリーンの瞳が私を見上げた。
「…姫!?」
その問いかけに答えない。
王子が、無言のまま自分を見下ろす私を見つめて、目をまん丸にして、そして眉を思いっきり寄せた。
「……リナ!?」
話をしなくても、雰囲気でわかるらしい。
「戻ってきちゃいました」
どう言ったらいいのかわからなくて、少しおどけてみせる。
すると、盛大に「どっはあぁっ…」とため息をつかれた。その上、困ったようにガシガシと髪を掻き上げられた。
やっぱなんか、ヒドくない!?
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
私は、何度も見慣れた狭い寝台の上で目を覚ます。
ここは、リナの部屋。私はリナのなか。
…また、来てしまったのだわ。
もう来ないと、昨日あれほど思っていたのに。この世界のことは、夢なんだと、これからは姫としての現実を歩いていかねばと、あれほど思っていたのに。
…ダメね。私ったら。
リナのなかに入ってしまったこと、戒めなくてはいけないのに、心のどこかで喜んでいる自分がいる。そして、ホッとしている自分も。
それは、現実からの逃避。
殿下の妻になったことへの覚悟が出来てない証拠。
昨夜だって、私のこの心に気づかれたのか、殿下は私を妻として扱わなかった。寝室をご一緒したけれど、殿下はソファーでお眠りになられた。
隣に眠ると、私が変な緊張をしてしまうからかもしれない。いつまでもこの世界に心を残しているからかもしれない。
今だってリナに申し訳ないという気持ちより、ここに来ることが出来た喜びのほうが心を占めているのだもの。
身を起こした私の目に映ったのは、以前と変わらない姿で、机の上にちょこんと置かれた「イルカのぬいぐるみ」。つぶらな瞳で、こちらを見ている。
そして、私の手元にはあのノート。
…リナ、読んでくれたのかしら。
そう思ってパラパラとページをめくる。
すると…。
『また入れ替わっても、お互いがんばろうねっ!!』
と、私とは違う、書き慣れた文字で短く感想が、日記の最後に書き込まれていた。その文字を、指でそっとなぞる。
これが、リナの字なのだわ。ちょっと荒れているけど、温かみのある文字。言葉。
短いけれど、リナという少女の一端を見た気がした。
『P.S. 私が入ってる時は、王子は手を出してないから。安心してね♡』
『P.S.2 冷蔵庫のプリン、食べたのは、誰!?』




