他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【22】
もう、こうなったらヤケだ。
いつ戻れるかもしれない、戻れないかもしれない状態に、私は腹をくくることにした。
もしかすると、このままずっとセフィア姫なのかもしれない。
なら、現状、私をとりまく世界がどうなっているのか、把握する必要があるわよね。
ということで。
この日は雨で、どこにも出かける用事もないというので。
王子に突撃取材を試みた。
「なんだ、なんだ!?」
王子はかなり驚いていたけど、意外とすんなり答えてくれた。
紙とペンをもらって、それを書き留める。
「王子とセフィア姫、政略結婚だって聞いてるけど、本当なの!?」
―――本当だ。このローレンシア王国と、姫のルティアナ王国は、あまり仲のいい関係ではなかった。過去には何度か戦争もしたことがある。
「じゃあ、どうして結婚ということになったの!?」
―――新興のヴァイセンという国が、共通の敵となったからな。この国に共に領土を奪われた身としては、過去の因縁を捨て、結束するしかなかったんだ。
「姫と結婚したことで平和になったけど、次はそのヴァイセンって国と戦争するの!?」
―――いや。それはしない。奪われた領土をそのままにはしておけないが、勢いづいているヴァイセンに、今のまま戦争を挑んでも、ロクな事がないからな。いずれ戦争になるかもしれないが、今は時期を待つ。
「なるほど。で!? 姫と結婚してラブラブになったわけだけど」
―――は!? 「ラブラブ」!?
「王子のBLはおさまったの!? それとも両刀使いなわけ!?」
―――「BL」ってなんだ!?
「えっと。ホモ、ゲイ、ヤオイ、…男色!?」
―――ブッ(王子吹き出す)。なっ、なんだそれはっ!!(かなりの赤面)
「ここに来たとき、アンナさんからそういう噂、聞いたんだけど。違うの!?」
―――違うっ!! まったく違うっ!!(断言)
「でも、いつも、あの剣士の人がピッタリついてくるし…。そういう関係なのかなって」
―――あっ、あいつはっ。シルヴァンは、幼い頃に俺の母上に生命を救われたからって、俺にも忠義を立ててそばにいるだけで。それ以上でもなんでもないっ!!
「なるほど」
――― …お前、信じてないだろ。
「いやいや、信じてるよ!?」
―――というか、そんな勝手な噂があるのか!?
「うん」
―――(王子、盛大なため息)
「まあ、姫とラブラブになれば、そういう噂も消えてくと思うよ!?」
―――そう願うよ。(王子、グッタリ)
「ところで。王子の母上に生命を救われたって言ってたけど」
―――!?
「お母さまって、今どうしていらっしゃるの!? 晩餐にもいらっしゃらなかったし」
―――ああ。母上は、10年前に亡くなった。
「あ。ごめんなさい」
―――構わない。お前も、ここで暮らすかもしれないのだから、情報として覚えておけ。
「うん」
―――俺の母は他国から嫁いできた姫だったが、俺を産んで以来、床につきがちでな。10年前に病気で亡くなった。父王は、国のための結婚ではあったけれど母を愛していたらしく、母の死を大いに嘆いていらした。
「…うん」
―――一時は政務もままならないまでに陥ってた父王を助けたのが、あのロワイユ夫人なんだ。
「あの夫人が!?」
―――父王に献身的に仕え、父に代わって政治も動かした。
「ええっ!? それでいいのっ!?」
―――良くはない。だが、夫人の手腕がなければ、この国はヴァイセンにもっと蹂躙されていたかもしれない。
「そんなにすごい女性だったんだ」
―――姫との婚姻も、夫人の働きかけで成し得たものなんだ。ヴァイセンに好き勝手されないためには、旧敵とも手を取り合う。実際、その戦略は成功している。
「ふおおおおっ」
―――公式愛妾、なんてものが実力を持っているのは、あまり喜ばしいものではない。けれど、彼女にはそれだけの能力がある。俺が王子としてもっと政治的な実力をつけるまでは、彼女に政権をまかせるほかないんだ。
「王子が、実力をつけるのって、いつぐらいになりそうなの!?」
―――さあな。なあ、そろそろ終わってもいいか!? 執務に戻りたいんだが。
「あ、あと一つだけ」
―――なんだ!?
「姫さま役をやる上で一番重要なんだけど…」
―――お前、身代わり役を、ちゃんとこなせてると思ってるのか!?
「…ムッ。出来てないから質問するんでしょうが。セフィア姫って、どんな姫さまだったの!?」
――― …そうだな。オレもそれほど会ったことがないから、くわしくは知らないが。書を読むのが好きで、リュートなどの楽器の演奏を好む…と聞いている。
「リュート!?」
―――目下の者にも配慮できる優しさと、王女としての典雅な雰囲気、控えめで大人しい性格だとも聞いている。まあ、お前とは正反対だよな。
「ムムッ!!」
―――まあ、無理して姫になりきることはない。お前らしい、姫のままでいればいいさ。で!? これでいいか!?
「うん。(納得いかないところもあるけど)、イロイロ教えてくれて、ありがとう」
私の書き留めたものは、王子にも読めないものだった。私の字がキタナイと言うんじゃなくて、文字、日本語そのものが、王子たちの知らないものだった。
こりゃ、秘密文書でも書いてるみたいでおもしろいや。
何を書いたって、誰に見られたって内容わからないもんね。
なので、人物相関図なんて作りながら、情報を書いていく。
「王子はBLじゃない。とりあえずは」っと。
鼻歌交じりに、図を完成させる。
「おい、変なこと書くなよ」
王子の疑り深い声に、ドキリとする。
読めないはずなのに、どうしてバレるんだろう。
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
私は、ナツキから「ノート」という冊子をもらい、日々のことを書き綴った。
今日、「ガッコウ」でなにをしたか。誰がどんな反応をしたか。
未来の私への忘備録として。そして、戻ってきたリナのための報告書として。
私の感想も交えて書き留めておく。
もちろん、言葉は、こちらのもの。
意外ことに、文字は読むだけでなく、書こうと思えば、いくらでも手が動いた。
「身体が覚えているのかもしれない」
そうアキトが判じていた。
この世界の文字を、この身体が知っているから、少し考えるだけで私にも書ける。ただ、私自身は慣れていないから、一文字づつ丁寧に、書き連ねていく。
それは、一度も会ったことのない、リナという少女への伝言。
いつかリナが、この身体に戻ってこれるように、戻ってこれを読む日が来ることを願って書いた、彼女への言伝て。
―――リナ。私ね、アナタにとても感謝してるのよ。




