他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【21】
部屋に戻ってからも、私のお腹はグーグーと情けない音を立てていた。
ドレスを脱ぎ、コルセットを外したことで、自由になったお腹がよけいに音を立てる。
ああ、腹減った。
空腹を抱えたままでも、人は寝られる。
どっかでそんなことを聞いたことがあるなあ。
けど、いざ本気で寝ようとしても…。
グウウウゥ…。
あの豪華な食事、どこに行っちゃったのかなあ。捨てるのならもったいないよなあ。
まぶたに浮かぶ、食べそびれた料理たち。サヨナラお魚。サヨナラお肉。今度は何でもない日に、会いに来て。そしたらお腹いっぱい食べてあげるから。
「まだ、寝てなかったのか!?」
遅れて寝室にやってきた王子が呆れてた。
私たちは、一応結婚した、ということになっているから寝室は同じにしている。けど、王子が私に手を出すことはまったく無い。日中一緒にいたりはするけど、夜寝るのとか、寝室に入るのは別々だったりする。王子自身、私抜きでしなくちゃいけないお仕事もあるだろうし、そういう超プライベートまでラブラブに見せかける必要がないからだろうけど。
普段、私のほうが早くフリーになることが多いので、寝室には先に来て、寝てることが多いのだけど。
そうだよね、とっくに寝たと思ってたよね。
でも寝られないんだもん、しょうがないじゃない。
ググウウウウウゥ……。
マンガみたいな音で、盛大にお腹が鳴った。
「ははっ、やっぱりな」
王子が笑いながら、白い包みを差し出した。見ると中には、コロコロっとパンが入っている。
「えと…」
「それでも食って、さっさと腹の虫を黙らせろ」
うわ。気づかれてたのね。私が、晩餐会で満足に食べられずに、お腹を空かせていたことを。うらめしく、お魚やお肉を見送ったことを。
「……いただきます」
くやしいけど、パンはおいしい。
でも、こうやって私がお腹空かせているのを思いやってくれるなんて、優しいんだな…なんて思ってたら。
「お前の腹の虫の音でこちらが眠れなくなる」
その上、
「とっとと寝て、姫と入れ替われ」
とまで言われた。
…最悪。
で。
結局お腹いっぱいで寝ても、またセフィア姫と入れ替わることは出来なかった。
こっちに来て十日目の朝も、王子と一緒のベッドの上で迎える。
「まだ、お前か」
王子の、朝のあいさつ代わりのため息も毎度のこと。
私だって、元に戻りたいわよ。
あっちの世界、イロイロと気になることも多いし。
冷蔵庫に残してきたプリンとか。そろそろ期限近いし、夏樹に食べられてないか気になる。セフィア姫に食べられたのなら…、私の身体だし!? 許すべきなんだろうか。
それに、あっちの世界じゃ、もうすぐ中間テスト、よね!?
私、全然勉強してないし、セフィア姫がテスト受けることになっても、それはそれで困る。セフィア姫、勉強出来るの!? っていう心配と、出来なくって、もし、私があっちに戻って即、追試とかになっても、もっと困る。
そういう意味で、私もあっちに戻りたいんだけどな。
以前の入れ替わりが十日ほどですんだし、今度も十日ぐらいで戻るんじゃないかなって予想を立ててたんだけど。
結果。
十一日目の朝も、王子とともに迎えた。
ねえ、これってホントにもとに戻れるの!?
ずっとこのまま、なんてことはないよね!?
急に不安になる。
⇔ ⇔ ⇔ ⇔
リナと入れ替わって十一日が過ぎた。
いつになったら戻れるのか。もしかしたら、このまま永遠に戻れないかもしれない。
そんな不安に襲われる。
けれど、そんな不安な顔をしてはいけないわ、と思う。
戻れないかもしれない、戻らないかもしれない。それを不安に思うのは、私だけではないはずよ。ナツキだって実姉のことを心配しているでしょうし、アキトだって気にしていると思うもの。
私たちのような入れ替わり事件は、いつかは元に戻るからさほど心配していないと言うけれど、それでも、心配しないということにはならないと思うの。
もし、永遠にこのままだった場合、彼らは、大切な存在であるリナに、お別れを言うことも出来ずに離れてしまったことになるわ。身体は残っているけれど、それはリナそのものではないし。
それは、…とても悲しいことだわ。
和平のため、両国の友好のためと、祖国ルティアナを離れた身だから、その悲しさを理解出来る。見知らぬ土地に行くのは怖いし、慣れ親しんだ人たちと別れるのはとても辛かった。アンナは付いてきてくれたけど、お父様、お母様、お姉様と離れるのは悲しかった。
ローレンシアまでの道中、こっそりと何度か泣いたもの。
それを、私はこの二人に味あわせているのだと思うと、胸が痛んだ。
二人は優しい。
慣れないこちらでの生活を、ずっと助けてくれている。私を寂しくないように、楽しませてくれようと「スイゾクカン」にも連れて行ってくれた。
私、どうしたらこの二人にこの御恩がお返しできるのかしら。
一番いいのは、元に戻って、リナを二人に返してあげることなのだけれども。
それが出来ない今、とてももどかしかった。
入れ替わり十二日目、私は様々なことが気になって、あまり眠ることが出来ないまま朝を迎えた。
夜明けの、日の出る前の空に薄い白い月が昇るのが見えた。青く染まり始めた空に細く白い筋のような月。
このまま太陽が昇ればその存在がかすれたように消えてしまう月。それはまるでこの世界のリナという少女の存在のように思えて、頭を大きく振った。
ダメよ、そんなこと考えては。
たとえ、今は消えてしまっても、月はまたいつものふくよかな姿を取り戻す。この世界に姿を現すわ。だから、消えてしまう、なんて考えずに、もとの姿に戻る日を待ち続けましょう。




