他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【18】
私たちの入れ替わりはかなり不定期なのだろうか。
何日も入れ替わったと思ったら、たった一日だけ元に戻って。元に戻ったと思ったら、また入れ替わって。
こんなの、聞いたことない。
いや、入れ替わり自体、そんな聞く話でもないけど。
それでも、こんなこと二度もあるなんて思ってもみなかった。
目が覚めた私の前には、はだけた服からのぞく、王子の筋張った首筋。少しくぼんだ鎖骨。なんというのか…色っぽい。
そして、私の方もあのネグリジェ着用。
うわうわうわうわ。
何これ、ナニコレッ!?
姫さま、昨夜は王子と、そういうことをしたわけっ!?
結婚はしてるわけだしっ!? これは姫さまの身体なんだから、姫さまがどうしていようと構わないのだけどっ!?
けど、目が覚めてイキナリこれでは、こっちの身が持たない。
心臓バクバク。ムダな汗が吹き出してくる。
「…んっ…」
軽く呻いて王子が身体を動かす。
「…姫!? お目覚めですか!?」
はいとも、ウンとも言えずにいると、手を伸ばされた。サラリと髪を梳かれる。
なんか、その仕草があまりに自然すぎて、どうにも落ち着かない。
まだまどろんでいるかのような、気だるげな瞳でこちらを見られても…。
その、…困る。いろんな意味で。
「あのっ、王子っ…」
どう告げようか悩んでいたら、急に王子が目をしばたかせた。
そのグリーンの瞳に、いつもの光が戻ってくる。
「…リナ!?」
はい、とばかりに頷いてみせる。
「姫は!?」
「あのっ、また入れ替わっちゃいました」
アナタの愛した姫でなくてゴメンナサイ。
王子から一定の距離をとってから、服を直す。そうしないと、このネグリジェ、肩がずり落ちちゃうのよね。王子のほうもしっかり目が覚めたようで、ため息とともに身体を起こした。
「で!? また入れ替わったってのは、どういうことだ!?」
ぞんざいに髪をかき上げながら王子が言った。その声、ちょっとイラついてる。
「えーっと、あの、ですね。私にも、くわしくはわからないんですが…」
指をゴニョゴニョいじりながら答える。
「セフィア姫が、私の世界に行っちゃって、私がまたこっちに来たってことで…」
「そんなことはわかってる」
あ、そうなんだ。
「次は、いつ入れ替わる予定なんだ!?」
「えっと…、それは…その」
「ハッキリ言えっ!!」
「そんなのわからないんだってばっ!!」
思わず叫んだ。
「わかってたら、入れ替わらないわよっ!! 入れ替わる条件も理由も、まったくわからないんだもんっ!! 次の入れ替わりがいつかなんて、私にもわからないのよっ!!」
そう。まったくわからないのだ。
どうして入れ替わっているのか、理由もわからないのに、次はいつかなんて聞かれても困るだけなのだ。
こんなの、別に続けたくて続けているわけじゃないし、入れ替わりたくて入れ替わってるわけじゃない。
なんとなく、自分の身体となってしまった姫を見下ろす。悔しいぐらい立派な胸のある身体。ネグリジェをこれでもかってぐらい押し上げてる、その存在がうらやましい。
勢い込んで答えた私を見て、なぜか王子がニッと笑った。
「では、今日一日はずっとお前で、今後はいつ姫が戻ってくるのか不明。そういうことだな!?」
「え!? まあ…、そういうことに、なりますか、ね」
「ふむ…」
王子の理解は意外と早かった。
「なら、しばらく、俺につき合え」
「ほえ!?」
「お前に、イイものを見せてやる」
王子が連れて行ってくれたのは、王宮の一角にある、だだっ広い空間だった。王族専用の馬場なんだって。近所の公園ぐらいはある。ちょっとしたキャッチボールやサッカーなら余裕でできそう。これを、王族(特に王子)専用に使うだなんて。なんてゼイタク者なんだ!?
「これが、俺の愛馬だ」
そう言って、王子が馬丁から手綱を貰い受けたのは、白い立派な馬だった。競馬なんかで見るような、足の細い、でもしなやかな体格の馬。
間近で見る馬は大きくて、顔なんて見上げなければ見ることも出来ない。そして馬面。…当たり前か。
慣れた手つきで王子が馬にまたがる。
おおー。まさしく「白馬の王子さま」だわ。
なんてヘンな感動をしていたら、グイッと身体を引っ張り上げられた。
え!? えっ!?
気がつけば、私も馬上の人になっていた。横座りで、王子と一緒に座っている。
「馬に乗った経験は!?」
「あっ、ありませんっ!!」
馬の上って意外と高い。そして、王子との密着度がハンパない。
ちょっと怖いのとアレで、メッチャドキドキする。
「なら、ここで少し慣れていけ」
へっ!?
「この世界で、馬は必須だ」
そう言って、馬をっ!! 馬をっ!!
ドカカッ、ドカカッ、ドカカッ、ドカカッ…!!
馬、走ってるっ!!
それも、かなりのスピード。
「ちょっ、ちょ、お、王子っ!!」
馬の躍動に合わせて、身体が大きく揺れる。右へ左へ上へ下へ。
振り落とされるっ!!
「ははっ。しっかりつかまってないと、振り落とされるぞっ」
笑いながら言うな~。
こっちは必死だってのっ!!
目を開けるのも怖い。ただただ力いっぱい王子にしがみつく。
ユッサユッサと身体を大きく揺さぶられた後で、突然のように馬が止まった。
あれ!? 終わり!?
目を開けると、王子がスルリと馬から降りた。
へっ!?
「ここからは、自分で乗りこなしてみろ」
「ええっ!?」
馬に!? 私が!? どうやって!?
幸い!? 手綱はまだ王子が持っていてくれている。けど、降りることは許されなさそう。
大きく深呼吸して、覚悟を決める。
えーい。こうなったらヤケだ。
持ち前の運動神経でどうにかしてやるっ!!
鞍の上で体勢を変える。
「おっ!?」
王子が軽く驚いていた。
ドレスの裾は、…この際だ。気にしない。足ぐらい見せてやれ。
鐙に足をかけ、前方を見据える。
確か、王子はこうやって乗っていたよなってのを思い描きながら、背筋を伸ばす。
「うわあっ……」
さっき乗せてもらったのと違って、自分から正面をむいて眺めた景色はとても新鮮だった。見晴らしが良い、というか、すごく高いのに気持ちいい。
髪が風をはらむ。下から伝わる馬の揺れ。
王子から手綱も渡された。ホントにここからは自分で乗れ、ということなのだろう。一応、轡の部分を王子が持っていてくれているけど、基本自分で操らなきゃいけないみたい。
よーしっ。やってやろうじゃないの。
妙な高揚感とともに、馬を前へと歩かせ始めた。




