他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【14】
「えーっとですね、つまり…、アナタと結婚できないというのは…」
説明を求められて、必死に正解を考える。
本当のことを話す!? それともウソでかためる!?
信じてもらえるの!? 初夜を迎えられないって許してもらえるの!? 納得してもらえるの!?
「あの、えと…。そう!! ワタクシ、故郷に忘れられないヒトがいるんですっ!!」
「…は!?」
王子が怪訝な顔をした。
「そりゃあもう、大恋愛中の、とてもラブラブなヒトがいてですねっ!! この結婚が終わったら、一緒になろうって、そういう約束をしてるんですっ!!」
ウソを口にした。
だって、本当のこと話しても信じないでしょ。
「この、結婚が終わったらって…」
「あ」
マズい。
「この結婚がってのは、言葉のあやで、そだな、えっと、なんて言えばいいのかな、その…」
考えろ、考えるんだ。
「ワタクシ、そのヒトのことが未だに忘れられなくって。いつか、忘れてることが出来て、アナタに恋するようになったら、その時は大丈夫ですからっ!! お願いですっ!! どうか今だけは、ガマンしていただけませんかっ!?」
お願い。祈るポーズで反応を待つ。
「…白い結婚を望む。そういうことか」
王子の声が強ばった。
「へ!? 白い、…結婚!?」
「和平交渉の条件として、この結婚があるというのに。ルティアナは、この婚姻は一時的なものに過ぎない。そう考えているのか」
え!? え!? えっ!?
「そのうち刺客の一人や二人送り込んで、俺を殺して。そうすりゃ和平も何もなかったことに出来る。故郷にも、好きなヤツのもとへも帰れる、と」
「えっ!? あっ、そういうことでは…」
違う。そういう意味じゃない。王子の反応、飛躍しすぎ。そして言葉遣い、スゴい悪い。
「そういうのじゃないんです」
「そういうことだろ」
「違いますってばっ!!」
つい、声を荒げる。
「そういうんじゃないって言ってるでしょっ!!」
つい、地の言葉に戻ってしまう。
「私は、姫さまの一時的な身代わりでっ!! 姫さまがいないから、代わりに結婚式に出ただけでっ!! この仕事が終わったら故郷に帰って、好きなヒトが、それを待ってるって話なんですっ!! 王子が考えてるような、物騒なことは何もありませんっ!!」
一気にまくし立てた。少しだけホントのことも織り交ぜた。そうでないと、信用してもらえなさそうだし。
王子が目を、これ以上ないぐらい見開いた。
そりゃそうだ。
「では、お前は姫の身代わりだというのか!?」
しばらく黙ったあとに、王子が口を開いた。
私の言ったことを、吟味していたのだろう。
王子の反応に、コクコクと頷いてみせる。
「では、姫はどこに!?」
「えっと、それは…」
「姫がここに来るという保証は!? 姫は、いつここへ来るのだ!?」
「それはぁ…」
「その保証がない限り、お前の話は信用出来ないし、ルティアナの叛意も疑わなくてはならない」
王子の言葉から険はとれない。
えーいっ!! この頭の固いやつめ。
顔はいいけど、中身、最悪ね。
少しはこっちの話を信用しなさいよっ!!
「それに…」
グイッと力任せに腕を引っ張られた。フワフワのベッドの上では簡単にバランスを崩して、また仰向けに転がってしまう。
「お楽しみを止める理由は、どこにもない」
素早く王子が私の口を乱暴にふさいだ。さっきより激しい口づけ。
逃げようにも身体を押さえつけられ、身動き一つ出来ない。
息が苦しい。
もがく私に動じることなく、王子の手が、ネグリジェを脱がしていく。
ヤダヤダヤダヤダ。
他人の身体でも。誰の身体でも。
こんな、勝手にこっちの気持ちを無視してこんなことされるなんてっ!!
「やっ!!」
口が離れたことで、ようやく声を上げることが出来た。
こんなの我慢できない。相手が誰であっても、どういう立場であっても。
イヤなものはイヤだ。
逃れたいのに、逃れられない状況に、身体が勝手に震える。
コワい、コワい、コワい、コワい。
男の人の力に敵わない悔しさよりも、恐怖が心を支配する。
勝手に涙が溢れ、視界がぼやける。
顔じゅうクシャクシャにして、イヤイヤと泣き叫んだ。
こんなのヤダ。自分の身体だろうと、誰の身体だろうと、絶対ヤダ。
必死になって腕や足を動かせるだけ動かす。すると、少しだけ王子が身を離してくれた。私を抑え込む力が緩む。
「…なんなんだよ」
小さく王子が呟いた。
その表情は、涙でよくわからない。
「お願い、ですっ!! ヒック…。姫さまが、戻って、ヒクッ…、来たらっ!! 好きにしてっ…クッ、いいっ、ですから、ヒクッ…」
嗚咽をこらえて、なんとかそれだけを伝える。
「お前…。それ、どういう意味か、わかって言ってるのか!?」
王子が、ガシガシと髪を乱す。私、なにかヘンなこと言っただろうか。
小さくため息をついたあと、王子が乱れたネグリジェを直してくれた。
ほれ、と手を伸ばし、私の身体を助け起こした。
「そんなに泣くな」
手近にあった布で涙を拭かれ、鼻をかまされた。
私も泣きながら、少しづつ落ち着きを取り戻す。
「んで!? お前が姫でないとして。名は!? なんと言うんだ!?」
「…里奈。神代里奈」
ズビッと鼻をすすりながら答える。
「リナ。で、姫は今、どこでどうしてるって言うんだ!?」
「それは…」
もう、こうなったら、半分ヤケだった。
「姫は、今、私の身体で、私の世界で暮らしているはずです」
「……は!?」
「私たち、身体の中身が入れ替わっちゃってるんです」
ほらヤッパリ。その顔、信じていないでしょ。




