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他人(ヒト)の身体で、勝手に結婚するってのはアリですか!? 【12】

 結婚式の朝は慌ただしい。

 いつも以上に髪をくしけずられ、整えられ、目一杯コルセットを引き絞られ(お腹が、内臓がミンチになるかと思った)、先日採寸し直したドレスを着付けられた。

 首には大粒チョコボールよりも大きそうな、真珠の首飾り。耳には同じく真珠のピアス。頭には、まあ、どれだけお金かかってるのかわからない、高そうなキンキラキンのティアラ。

 純白のオール絹製のドレスは、ズッシリと重く、後ろの裾がものすごく長い。

 何メートルあるんだろう。振り返って自分でその裾を踏めるんじゃないかってぐらい長い。5、6メートルはあると思う。その上、ドレスはトコトン刺繍が施されているから、重くて、前へ進みたくても、後ろに摩擦力で引き戻されているような感覚におちいる。頭にかぶったヴェールもタップリ刺繍で、これも長い。

 首が後ろに持っていかれそう。

 ふんぬっ!!っと気合いを入れて歩かなきゃいけないのに、靴は履きなれないかかとの高いハイヒールだし。足元グラグラ。

 お姫さまって、こんなに大変だったんだ。

 幸い、というか、歩くのをフォローするかのように、後ろにはメイドさんが何人かついてくれて、その裾を持ち上げてくれた。

 摩擦力が軽減して、いくぶん歩きやすくなる。メイド・オブ・オナーっていうんだって。こういう役目のメイドさんのこと。

 でも、歩きやすくされたって、今の私は全然うれしくもありがたくもない。

 だって。

 歩いたら、前に進んだら。

 その先に待ってるのは、あの王子なわけで。結婚なわけで。

 他人の身体で、夜を迎えるわけで…。

 やーめーてー。

 かーんーがーえーたーくーなーいー。

 いくらかノロノロした思考をしても、時間は無情に過ぎていく。

 荘厳な古めかしい教会に連れて行かれ、祭壇にむかって伸びる赤い絨毯の上を歩いていく。手には巨大な百合のブーケ。これまたレースがヒーラヒラ。

 うわー。ヴァージンロード歩いちゃってるよ。

 それも、他人の身体で。

 はははははは…。

 笑うしかない。

 行き着く先に待っていたのは、これまで以上にカッコよくなってる王子と、神父さまかな。そういう宗教のエライさん多数。

 周囲には舞踏会のときよりも多くの貴族。そして、一番の特等席らしきポジションに、豪華な王冠と毛皮!? のマントをまとった、多分王さま。夫となる王子のお父さん。ドッシリとした貫禄があるけど、目元とか、髪のいろとか王子によく似ていた。

 いつか、この王子もあんなふうな王さまになるんだろうな。

 なんてことを考えているうちに(思考が逃避してた)、「病めるときも健やかなるときも~」ってアレになってた。

 王子が軽く微笑んで「はい」と答える。

 次は、私。

 「アナタハ、カノモノヲオットトシ、アイスルコトヲチカイマスカ!?」

 「…………はい」

 笑え、笑うんだ私。こうなりゃやけだ。

 考えるな。感じるな。

 自分を突き放して。そうだな。なんかのバーチャルゲームでもしてるようなカンジで、この現実を受け止めるんだ。

 結婚したって、夫婦になったって、子供が出来たって…、いつかは。いつかは元に戻れるだろうし。戻れば全部リセットなんだし。

 そうだ。そうよ。

 リアルに自分の身体で経験する前に、他の身体でお試しをするだけよ。

 それも、お試し相手として、王子、カッコいいし!? 優しそうだし!? 問題なさそうじゃん。

 そうよ。そういうことなのよ。

 …セフィア姫には悪いけど。

 どうにもならない事態にジタバタするより、このままなるようになれっとばかりに腹をくくる。

 えーい、女も度胸じゃっ!!

 「ソレデハ、チカイノクチヅケヲ」

 来たよ、そのセリフ。

 フワリとベールが持ち上げられて、それまでレース越しにしか見えていなかった王子の顔が最接近してきた。

 うわぁ、近い、近い、近いっ!!

 どうしよっ!!

 我慢できなくなって、ギュッと目をつむる。

 すると、軽く、押しつけるように口唇が重なった。

 おお、ファースト・キス…。

 それも、他人の口唇で。

 ゴメン、セフィア姫。

 王子の口唇は、すぐに離れた。

 そのことにちょっとだけ驚いて目を開けると、こちらを見つめるグリーンの瞳。

 うわ、うわ、うわ。

 私、このヒトとキスしちゃったよ。

 キスの味!?

 そんなもの、まったく感じることもなかった。

 それほどアッサリしたキスだった。

 …って、私、味わいたかったの!?

 いやいや、そういうわけではないけど。

 モニャモニャした感情が心のなかに渦巻く。


 荘厳な教会を出ると、そこにはたくさんの民衆が溢れかえっていた。

 王子を、新しい王太子妃を見ようと、これだけたくさんの人が集まっていることに、あらためて驚いた。

 大地を揺るがすような歓声。広場を埋め尽くし、あふれてこぼれそうなほどの人、人、人…。

 その歓喜に包まれながら、用意された馬車に乗り込む。

 長いドレスの裾は、器用に中へと押し込まれた。

 馬車は、天井もなく、オープンカー的仕様のもの。

 つまり、丸見え。

 こういうの、どっかで見たことあるよな~。ヨーロッパとかの王様の結婚式とか、そういうの。沿道にたくさんの集まっててさ。その人達ににこやかに笑って、手を振るの。

 ニコニコ、ニコニコ。

 フリフリ、ヒラヒラ。

 微笑みが顔に張り付く。

 口角のあげすぎで頬が痛い。腕がダルい。

 けど、我慢、我慢。

 笑って笑って、スマイル、スマイル。

 だってスマイルは0円だもん。タダだもん。

 選挙カーの議員さんたちもこんな感じなのかな。

 「セフィア、姫、セフィア、姫を、どうかよろしくお願いいたします。市議会議員候補、セフィア姫が皆さまに、最後のお願いに参りました…」ってか!? 

 ああダメだ。ロクなこと思いつかないや。

 そんなこと思ってたら、不意に空いた手を掴まれた。

 同じように沿道にむけて笑顔を振りまいていた王子がこっちを見てる。

 うわわわ。

 近い、近いよう。

 なるべく、隣にいるってことを忘れようと外を見てたのに。これじゃあ意識しちゃうじゃない。

 ……今日の夜には、名実ともに夫婦になっちゃうってことを。

 握られた手が、じっとりと汗ばみだした。

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