08
リズ・ワイナーが第二皇子であるイーズ様とダンスパーティに行くことになった際、なぜだか私が責められた。私が先に誘われていたのだから、とか王族の誘いを断るとか傲慢すぎる等々。リズ・ワイナー自身も相当陰で言われているようだが、毎日教室に来ている。
それに昼食の際近いから使っている共同食堂でイーズ様、アルフレット、私、ルシィ、そしていつもイーズ様が引っ張って連れてくるリズ・ワイナーのメンバーも気に食わないらしい。そして非難も私に来る。
ダンスパーティ当日の昼も、共同食堂で食事をとっていると慌てた様子の士官学校の副校長と魔法学校の校長が来た。
「イーズ・クレージュ様、ローズモンド・ヴィトン様いらっしゃいますか!?」
叫ぶような声に立ち上がる。イーズ様も立ち上がり、昼食もそこそこに教師のほうへと向かう。ざわつく食堂にイーズ様が笑みを向けて黙らせる。私はイーズ様の後ろを歩き、教師のほうへと行く。
「こちらへ」
「それほど緊急で?」
イーズ様がわずかに顔をしかめる。
「はい」
その返答に頭が痛くなる。この学校の敷地内で最高権力者は一応私だ。イーズ様も王族だが第二皇子、直接的な権力は持っていない。
どこへ行くのかだけを聞き、ヴォルフラムとイーズ様の執事に『士官学校の応接室にいる』と魔法で連絡を飛ばす。呼ばれた内容については誰が聞いているかわからないので聞かないまま士官学校の応接室へと向かう。
応接室には困ったような士官学校の校長がイスに座っている。壁際には士官学校の教師が並んでおり、魔法学校の教師は僅かだ。総勢十五名の教師陣がすでに並んでおり、彼らがいてもあまり狭いとは思わないほどの大きさの部屋。マダム・ティアラもいらっしゃる。
「ああ、よくぞ来てくれました。急にお呼びたてしまって申し訳ない」
促されてソファーに座る。士官学校の校内は清貧さを象徴するような簡素な作りだったが、応接室の物品は違うらしい。
私が魔法陣を使い、かなり強力な傍聴、覗き見防止魔法をかけると感嘆の声が上がる。こんなの使えて当然だろう。王城ならばもっとごろごろいる。
「構いません、ご内容は」
促すイーズ様に士官学校の校長がさっそく公式文書を広げた。
「陛下から?」
イーズ様が顔をしかめながら手紙を読み、読み終わったものを私に渡す。
内容は簡潔にまとめるとこうだ。『麗帝国の友好を深めたいと言ってきたため、王族が留学しに来る。発表は歓迎パーティの際、実際に来るのはその一週間後。ヴィトン卿に一任する。よろしく』。来る王族と言っても皇帝の弟の子らしい。王族ではあるが、継承権はかなり低い。
「その王族の詳細は?」
読み終わった合図としてそう言えば、困った様子で答えられる。
「それが王弟の子以外は一切……」
「そうですか。イーズ様、ご存じかと思いますが、麗帝国皇帝の弟は現在お一人のみ。後は妹君たちのみ。ここでだいぶ絞られます」
周りに説明する意も込めてそう言えば、理解してくれたようでほほ笑まれる。
「構わん、続けろ」
「一番、来て困る人物は帝弟第一子麗凱紀。御年二十七歳、征西大将軍で先の戦争の勝利の立役者であります。言わずもがな魔法技術が持っていかれます」
「なるほど、次は」
「次は第三子麗紀央。御年二十五歳、国で政務、軍事に励んでいるということで図書館に入られたら機密情報が持っていかれます。一番年齢的に来る可能性が高いのは第八子、麗來紀。御年十五歳ですね。これは今のところ問題ありません。校長先生、図書室・図書館からの機密文書の運び出し、国内領地に関する本をすべて管理課においてください」
管理課に本を入れてしまえば、申請が無ければ閲覧はできなくなる。申請されても一日は待たせるものだから、その間に私が出張ることができる。
「は、はい」
「軍関連、気象関連、武具関連に関してはどういった形にいたしましょう?」
「軍関連も管理課へ。気象関連、武具関連は間諜が見ていればわかるでしょうからそのままで、けれどグロリア領、サディ領、帝領は管理課へ」
「ヴィトン領とエンワイズ領は開示して構わんのですか?」
「戦地となるのならば我が領か僅かな可能性でここエンワイズ領でしょう。既にある程度の偵察は済んでいるでしょうから、おおざっぱな気候ならば開示は認めます」
第一魔法学校はここエンワイズ領にある。
「武具はなぜ?」
「先の友軍派遣で武具に関しては麗帝国抜きんでて発展していたと報告です。報告書を見た限り、同意せざるをえませんでしたから開示いたします」
ふぅ、とため息をついて、校長を見る。
「もし、麗の方との交渉をする場面があるのならば、交渉に関してはすべて私が行います。そして、私がすべての責任をおいます。勝手な交渉、密約は認めません。そのような事実がわかり次第、帝下四族の名において教員は解雇、内容によっては処刑いたします。すべての教職員、用務員に通達を。必要ならば私も印を押します」
「ヴィトン卿、私は何をすればいい?」
困ったように笑っているイーズ様に笑いかける。
「あなたはあなたの思うように、いつも通り行動してくだされば結構です」
「わかった」
うまく伝わっただろうか? まあ、いいか。
「……グロリア卿、ルシアン・ヴィトンを呼んでください。私と彼らで図書館、図書室の検本を行い、公開非公開を決定します。授業欠席については何卒ご理解をお願いしますね」
そう言えば走って呼びに行く教師と不満そうにこちらを向いたイーズ様。
「ルシアンにできるとは思わない。ならば私が」
「私の従弟でございます。あの子はできます」
「……血統魔法すら継げなかったのに?」
笑ったイーズ様に私は書類を見続ける。
血族魔法、家を象徴する一族の得意魔法。ヴィトン家ならば火炎系統魔法と魅了、イーズ様の家ならば記憶操作魔法。グロリア家ならば、時空魔法と防壁魔法。
銀髪などの容姿以外にも血統魔法があいつは継げなかっただろう? と笑っている。血統魔法は力のある濃い血の方の魔法が遺伝していく。
「それとこれとは別です。イーズ様は普段どおりにお過ごしください。」
「……ヴィトン卿がそう言うならば信じよう。あとは任せたよ」
「最良の結果をお見せしましょう」