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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
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麗帝国②

 ヴィトン家のローズモンドの叔父アルマティアは、ルシアンが似ていないこと血統魔法を継いでいないこと、かなり格下の家と結婚から周りは察しているだろうが男性不妊。ほかの分家は直系のアルマティアやローズモンドには及ばない。すべてはローズモンドにかかっているが、あれは婚約者に逃げられそれ以降沈黙。当主となり言われっぱなしで何もしなく淡々とこなしていたことから、アルマティアの妻の家系に乗っ取られると噂が有力だった。


 一方で、グロリア家は何の問題もない、一時期ブラウエルが女遊びが激しかったこと以外欠点がなかったが、関わってみるとあそこが一番崩れかけだろう。自分がローズモンドが欲しいと言ったとき、ブラウエルはあきらかな侮蔑と敵意を向けてきた。そして血統魔法であろう転送魔法をつかい直々に部屋に乗り込んできておきれいな顔で「ぶっ殺す」と忠告をしてきた。あれほど笑ったことはないが、息子のほうの敵意も父親に負けないぐらいの殺意だった。地雷を突いてしまえば精神的に問題があるのは一目瞭然だった。 


「女で身持ちを崩す家系だな」

「ですが、クレージュ卿が上手くコントロールしていたのでしょう」

「記憶魔法がここまで強力だとは思わなかったな」


 自分が優秀だと、思ったことはなかった。魔法に関して劣等感を抱いたこともなかった。自分が割と特殊なほうの魔法を使うが普通だと思っていた。だが、クレージュ帝国はそんな自負さえも吹き飛ばすほどの経験の積み重ねがあった。


 その時最強の生物兵器を作るために、最高傑作を作り続けるために国が総出となっていた現実がここまでの差をつけた。


「……だがなぜ、そもそもヴィトン家は婚約者を指名しなかった?」


 ルシアン・ヴィトンが天才なのは早々にわかったはずだ。あのクレージュ学園にいた普通の学生と比べても格が違うのはわかった。それほどだったら近親婚も適当な理由づけで押し通せたはずだ。


「アルマティア様が大反対されているからです」


 急に発せられた声に一気に部屋の空気に緊張が走り、声のしたほうへと警戒を向ける。

 立っていたのはローズモンドの従者ヴォルフラムというやつで感情の消えた表情でこちらを見ている。


「ローズモンド様はルシアン様に帝下四族の当主という地位を差し上げたいと溢しておりましたが、あの売女……失礼、ジェシカ様の血が入った子など誰も認めない。ローズモンド様のわがままから空白のままでした」

「お前はあの国か俺かどちら側につく?」

「私は死んでもローズモンド様のお側にいるまで」


 この男も執念深い。ローズモンドはこの執着をどう受け流していたかと問いただしたいほどに、恐ろしい覚悟。それで言えば、最強の騎士ジャン・ジャック・ユルフェのあの信仰にも似た態度。


「あれは、よくお前たちを悪用しようと考えないな。あれを妄信している男や女をつかえば国家を乗っ取れるだろう」


 そう言えばヴォルフラムはとても驚いたように目を見開いてから、少しだけ笑って見せた。


「私も常々、ローズモンド様はそうしたほうが生きやすいと思っていました」

「ところで、お前は何しに来た?」

「一つ、お聞きしたいことがございまして勝手に参りました」

「かまわん。お前の大切な当主を攫ったんだ。できる限り答えよう」

「あなたはローズモンド様を殺すことができますか?」


 は? と声に出さずに詰まってしまった。


「どういうことだ? 実力で殺すことは不可能だろう」

「いいえ、ご存じだとは思いますが近接戦闘にもつれ込ませればあの方は意外と簡単に殺せます。……わかりやすくいいますと、麗帝国が負けたとき、一緒にあの方を連れて逝ってくれますか?」


 確かにアルバート・ブライトマンに簡単に組み敷かれていたのは見たが戯れているだけだと思っていた。さすがにあの程度は振り払えると思っていたが。


「私がローズモンド様の婚約者に求めるのはお嬢様にとって苦痛のない日々。あなたが排すれば、陛下の下で死することも許されない地獄の日々を送るでしょう。お嬢様はそれを覚悟の上であなたにつきました」


 この従者は賢い、とは思っていたがここまで考えが及んでいたか。


「あなたは、お嬢様を殺せますか」

「……前提として、俺はまず国のためにも負け戦は挑まん。故にあいつは殺さん」


 まあ、予想の反中と言うような様子で反応がない。


「あれが俺の手から離れるとしたら、俺はあれを殺してでも俺の手の中に留めよう」


 そう言えば奴は黙ってほほ笑んだ。


「お前は、ヴィトン家がどうなろうといいのか?」

「……俺のお嬢様をよろしくお願いします」


 そのまま陰に溶けるように姿を消したヴィトン家の従者。ほんのわずかな魔法の揺れ、王浩然は確かめるように奴がいた場所に走り出したが塵ぐらいしかなかったようだ。本当に消えたことに驚いたのは当たり前だが、それよりもあの従者は仕えている家よりも私情を優先させていることに驚いた。

 あれほど若い当主なのだから、あの過保護な皇帝が直々に洗脳した者を派遣していてもおかしくない。


「佳那さん今の魔法わかりますか!? 初めて見た! 暗殺魔法じゃん!」


 興奮したように王浩然が叫び、李佳那は首を振る。


「いいえ」

「……あれはローズモンドが指示しない限り勝手に大局を動かすほどには動かんだろう」


 あれはローズモンドを守ることを最上としている。ローズモンドの安然のためならば動くだろうが、それ以外は静観するだろう。

 あれはローズモンド・ヴィトンを愛している。


「そういう男だろう」

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