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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
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麗帝国①

 ああ、これが魔法ゆえの恋だと言うのならばヴィトン家は確かに最強の魔法師としての家系だろう。


 クレージュの学園にいた頃から確かに、彼女はずっと自然に誰も彼もの視線を奪っていた。例にもれず俺だって視線が向いた。リズが言っていた魅了の魔法ならば仕方がないと受け流していたところもあった。だが、ローズモンド・ヴィトンの容姿がいくら整っていようが絶世の美女というわけでもないただの美少女に過ぎない。王族、貴族には容姿の整った者が比較的多い中でいるのが不思議じゃない程度の美少女なだけ。あの「自分は精いっぱいすべてのことをやっています」と言わんばかりの薄幸さの垂れ流しは色気なんて感じるわけでもない。むしろ好感度は零からマイナスに振り切っていた。


 時々敵意を向けられるときぐらいしか、ヴィトン家当主として納得できる部分はなかった。ただのあやつり人形を懐柔すればいいのだと、侮っていた。


 しかし戦場で盗み見ていたローズモンド・ヴィトンの顔を見た瞬間、価値観は百八十度変わってしまった。自分の部下さえもぽかんと口を開けるほどの破壊力と目を引く優雅な動作。


 自国では見たことがないほどの圧倒的火力。魔法具を使っても彼女が召喚した物の破壊力にはかなわないだろう。不自然なほどに彼女に目が行ってしまう。これが魅了かと悟ってしまうほどに視線が奪われる。戦場では命とりだ。


 アルバート・ブライトマン、雪月の騎士と戦っている時の彼女は人が変わったように楽しそうに無邪気な殺意を振りまいていた。きっと彼女の素はあれなのだろうと察してしまうほど、楽し気にそれでいて表情豊かに戦場で生きていた。


 平時の彼女はきっと死んだように生きていたのだろう。圧倒的な力ゆえに、背負わざる負えなかった権力を正しく使うために自制に自制を続けていたのだろうと勝手に判断してしまう。

 本当にこれが魔法ならば恐ろしい。恐ろしいほどに、自然に彼女が欲しいと思ってしまった。そして、手を出してしまった。静観するはずなのに、彼女の覚悟を決めた目を自分に向けてほしいと願ってしまった。


 自分の手の中に飛び込んできたときの高揚感は、今まで生きてきた中で比べるものがそうそうないくらいの衝撃で、クレージュ帝国の王のあの嫉妬に駆られた瞳を見たときすべてに勝ったと思ってしまうほどだ。他の帝下四族は驚いたように彼女の決断を見ていたし、あのアルフレット・グロリアの父と思われる人物の驚いたあとの憤怒と嫉妬に溢れた殺意は親子ともども変わらないと思ってしまった。


 よくもまああんなヘドロよりも重苦しい感情渦巻く空気の中でしれっと「国で待っている」と発言できるな思ったが、彼女にとってはあれが日常で受け流し続けたものだとしたらさして気にすることでもなかったのだろう。


 好意がなかった時には気にならなかったが、恋をしてしまったら何もかもがプラスに振り切ってしまう。


「恐ろしいな、ヴィトン家は……」

「ルシアン・ヴィトンが化け物レベルだと昨日のことで思っていましたが、ローズモンド・ヴィトンは軽くその上を行きましたね」


 ローズモンドの前では気丈にふるまっていたが、転送魔法を使用した李佳那は宝杖と呼んでいる魔法具に顔色悪く寄りかかっている。


「佳那さん下がらしてもらったらどうっすか? こーんな長距離はさすがに響くっしょ」


 一番年下の王浩然が楽し気に李佳那の周りを蠅のようにぶんぶん「心配しているよ」と言うように歩き回っている。


「魅了、という事前情報が無ければ疑いもなく好意しか抱かないあたりがもう……」


 不覚だ、と言うように頭を抱えている斐亮に笑ってしまう。


「我らは精神魔法に関しての態勢があったのですよね?」


 続けざまに斐亮が李佳那に聞いている。


「ええ、我が国の平均以上にありました。クレージュの魔法の発達具合が異常です」


 はあ、とため息を吐きながら王浩然が案内するソファーに座り込む。


「主、ローズモンド・ヴィトンにかけられた魔法を解かずに良かったのですか?」

「ああ、あれは魔法に絡みついた強烈なものだ。片手間に解いたら不具合が起こるだろう」


 記憶魔法は強烈であった。体に関するものは直ぐに解く予定だと簡単に推察できるほどに容易なものだったが、魔法に関するものは前々から【呪い】と称していた魔法と絡み合い強力なものに様変わりしていた。

 記憶魔法に関する魔法の感知からすべての記憶に関して隠ぺいしていることは少し触れただけでわかった。だから、あの場にいた誰も彼もがきょとんと倒れ込んだローズモンド・ヴィトンの異変を見ているだけだった。


「……主様、あの子かわいそうですね。あの子守ってあげるって主様が言ったときたぶんとっても驚いてた。あの年でしかも令嬢が驚くって普通おかしくない? 何歳だっけ? 十五?」


 一番年が近いと言っても二十二の王浩然がしゃがみこみながら溢すように言い始めた。


「たしかに、たしかに俺だって魅了の魔法にかかっているかもっていう自覚があるけど、それでもそこが衝撃だった」

「……たしか、お前の末妹が同い年か?」

「そうです。あの子は花ときれいな衣があれば幸せ~みたいなお花畑なんですけど、それでいいかって思っちゃうほど守られ慣れてるんです」


 それなのにどうしてこうも違う? と言うようにうなだれている。


「それがあの国の歪みの象徴だ。我らが正す理由だ」


 王浩然はすぐに黙って複雑そうに眼を伏せる。


「……」

「小国なのに世界最強をほしいままにした代償は、そういった歪みだ。あの国は近いうちに内部から崩壊する。ヴィトンかグロリアから崩れ始めるだろうな」


 目に見えて崩れかかっているのはヴィトン家で、グロリア家は何の問題もないように見えるがあの家の精神状況は穏やかではないだろう。

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