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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
40/44

E・Cの内情


 男はほほ笑む。


 それは仮面のように男の顔に張り付くもの。

 呪いと名付けた我が魔法、あの男は看破していただろう。だから俺を睨みつけていた。我が一族が帝下四族を縛るための呪いがどういうものか。


 俺が縛る我が帝下四族。我が宝。我が人生のすべて。我が王家の抑止力。

 この国は終わりに近いと直感する。停滞したこの国、変化を欲した我が狂戦士。


「かえろう、お前たち。戦準備だ」


 パンパン、と手を叩き長く残る静寂に終焉を叩きつける。

 ついでに記憶魔法を発動させる。帝下四族より弱いものに効く、記憶改ざん魔法。ヴィトン卿が麗帝国を選んだのではなく、ただ負傷していたところを誘拐されたと。


「そうやって、縛るのか……」


 恩讐轟く声の先。美貌の騎士、アルバート・ブライトマンがこちらを睨んでいる。

 未だ騒ぎを聞いていたもの、見ていたものは魔法の影響下でぼーっとしている。しかし、アルバート・ブライトマンのみが帝下四族とユルフェ以外にしっかりしている。ユルフェは別の意味で動揺しているが、放置で構わぬだろう。


「おや、我ら並みとは……。あれに負けたのは環境か……。確かに、この麗かな春には俺なら采配しない人選だ」


 雪月の騎士が得意とする冬ならば、配置しただろう場所だが、なんとも愚かなコリスカ。


「小手先だけのその魔法、私には効かぬ!」


 泣き出しそうな苦渋の表情。縄に縛られたあの男は地面に頭をつける。


「もっと強烈なものがあるのだろう……! 私にかけるがいい。裏切りの名、背負って見せよう」

「……?」

「クレージュと麗帝国を繋げる地は豪雪地帯ウェルス公国。我が力、無力とは言わせぬ」


 地面に己が不出来を呪うように叫びながら、こちらを睨みつけた。


「なぜ、お前がそんなことを言うのだろうか? 私はわからない」


 ぐっと俺の肩を抱いてくるのはニコラスで楽しそうに笑っている。


「勝ち組の色男は負けっぱなしは癪に障るんだとよ、エル」

「……ぁあ! そう言うことか」


 そうなれば、と手を伸ばす。アルバート・ブライトマンは私の手を受け入れ、その類いまれな容姿で色々な感情が入り混じりながらも泣き出しそうな顔で俺を見ている。


「必ずや、麗帝国を討ち滅ぼして見せよう」

「私がお前を勝たせる采配をして見せよう。今は眠れ雪月の騎士、その憎悪、その後悔、優しき思い出私がすべて覚えておこう」


 魔法を使う。帝下四族を縛る王家究極の記憶改ざん魔法。魔法の波形から何から何まで新しく組み替える。


 流れ来るは雪月の騎士の誉れの記憶。白黒の他愛ない記憶の中で一番色鮮やかなのは、男も知る記憶だった。

 男が戯れで命令した時の記憶。確かに、ローズにもこの記憶は鮮麗に残っていた。それはあの子が初めて年近いものに負けたからだと思っていたが、そうでもないらしい。


 どさりと倒れ込むアルバート・ブライトマンを見ながら一筋伝った涙を拭う。


「珍しいな、お前が心を動かすなんて」

「……俺が経験もしないことだった。あの子も同じ気持ちだったのならば、悪いことをした」

「人間なんてそんなもんだ。絶対に叶わないからこそ願うのさ」

「だがきっと、あれと番っていたのならば幸せだったはずだ」

「たらればを語っても意味はない。過去を顧みても変えることはできない。ならば我らは進むしかない。切り開くしかない。それの向かう先が破滅だとしても」


 パンパンと背中を叩かれる。


「我らはお前の剣であり盾である。ローズがいなくなったのはちょっと厄介だが別の剣が手に入った」


 ニコラスは雪月の騎士を抱えながら歩き、グロリア卿が王都とこことを繋げ戻る。それを抜ければ戦場とは異なる生ぬるい、緩んだ空気。その中を歩き執務室につく。

 ソファーに雪月の騎士を寝かせそれぞれ好きな場所に立っている。俺は執務イス、ニコラスは壁に寄りかかり、ブラウエルは雪月の騎士が横になるソファーの背もたれに軽く座っており、ルカスはドアの傍に立っている。


「流転、とあの子は言った。あの子ほどの者がそうまで言った何かを我々は期待しましょう、陛下」


 ブラウエルが楽しそうに言う。ルカスが興奮したように頬を染めている。


「戦争、戦争ですね! 全面戦争! 世界と我らの義を問う戦い! 最高です! この戦、私も戦いたかった」

「エンワイズ卿、落ち着け。せっかく取り繕っていたのに馬鹿が露見しているぞ」

「なーに言ってんですか、誰が一番楽しそうなんだか!! グロリア卿さっきからにやけてるくせに!」

「……ああ、楽しいとも。麗帝国に我が領とあの国をも結ばせる有力な魔法師がいるとは知らなかった。あの女、私が殺そう」


 楽しそうに頬を染めている帝下四族を見ながら、きっとローズも楽しそうにしているのだと予想する。あれは身内の中の期待に押しつぶされる。好意、期待、羨望があれにとってはプレッシャー。

 悪意、蹴落とされそうとしている中のほうがあれは生き生きする。


「……たのしめそうか?」

「ローズが最低限叩き上げるだろう? それに――」


 ニコラスは冷めた目でじっと雪月の騎士を見ている。


「きっと俺たちの知らないもんを知っていたはずだ」


 最年長、俺の二つ上の、人をよく理解した男は何かを考え込んでいた。


「思い出せ、エルネスト。こいつが知っていた何かを」

「……私のローズは帰ってくるだろうか? ニコラス、帰って来なければ本当にこの国の終わりだ」

「さあな。ヴィトン家が崩れかかっていたのは事実だ。あれとアルマティアが必死につなぎとめていたがな」

「一番最初に原初の炎は身の内を焼いた。広げた時空は身の内側を何かに侵した。史の記憶は己が誰かをわからなくさせた。次は、誰が狂う?」

「エンワイズですね、陛下。洗脳するとどうも終わった後意識が変ですし、ようやく二子目ができましたけど、アルマティアのように種の元気が……どうでもいいか。はっはっは! サディ卿手綱をしっかり握っててくださいね」

「血が濃いのか、魔法が悪影響なのか……どうなのだろうな?」

「両方だと思うな」

「この国は、終わると思うか?」


 当主陣は代数を重ねるごとに魔法は強力になっている。けれどその代償は大きい。

 記憶を覗きすぎた代償は、己が人格を薄くさせた。声高らかに「私はクレージュ帝国皇帝エルネスト・クレージュだ」と叫べない。笑顔でごまかし、怠惰に自分を知っているものをめでる。


 ヴィトン家は子が生まれずらくなり、短命になりつつある。そして驚くほどに物事に淡泊である。上手くその心まで「こうあるべきだ」と思った方に取り繕うが、ストレスがたまりにたまり一回箍が外れたら相当な被害が出ると予想していたが、戦争になるとは思っていなかった。


 グロリア家は精神障害を患いやすくなった。すました顔のブラウエルは一時期不眠の上で病気といっていいほど女に溺れていた。魅了魔法に嵌まったか、頼りないローズが当主に収まったことで自覚したか、それの少し後の時期から治まったが。その第一子アルフレットは上手く取り繕っているが疑心暗鬼の上にローズのストーカーだ。被害者のローズがあそこまで適度に普通の反応で権力を盾に淡泊に対応しているからこそ大事になっていないが、あれはあれで問題児だ。


 エンワイズ家はまだ軽度なようだが、崩壊も近いだろう。


「……愚問だった。答えんでいい。悲しいな、とても悲しい」


 気まずそうに顔をそむけた彼らに笑いかける。


「だが、それが摂理だ。我慢し続けた。最後くらい好き勝手生きて、戦場で死ぬのもいいだろう」

「ああああああああ! エル、それにルカスにブロウエル! 運命(FATE)を捻じ曲げ新たな運命(destiny)にする我が魔法! 嵐の究極魔法を使う我がサディ一族!」


 叫んだニコラスに視線が向く。


「世界すべてかき混ぜ、新しいものを産もう。だから、そう悲観すんな」

「……楽しみにしておこう」


 絞りだしたその言葉だけが、むなしく部屋に響いた。

 誰もかれもが終わりを予見している。けれど、一番終わりに近いあの子が一番終わらせまいとあがいているのか。


「みんな、優しいな」


 ただその言葉だけが響き渡った。


「俺も終わらせたくはないよ」


 初代たちの夢の結末は今の平和な状態にした無敵国家。保持というか、停滞というか、発展を続けたクレージュ帝国の死というか、歴史学者によって変化するだろう。

 だが、今はこう叫ぶのが正解だろう。


「だからこそ、いつの時代も我々が正義だと世界に武をもってたたきつけてやろうではないか」


 悲しそうな顔が一気に楽しそうに笑うようになり笑みが零れた。


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