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お待たせしました。これから頑張っていきます。
ついた場所は見知らぬ場所の、見知らぬ森の中だった。そう判断するのは生えている植物からだ。
「……ここは?」
「麗帝国の最西地の森だ」
「……異国をも跳ばす転移魔法……素晴らしい」
純粋なる称賛の気持ちが湧き上がる。
「お褒めに預かり光栄です。ヴィトン卿」
しなりとずっと無口であった女がほほ笑みながら礼をした。その手には彼女の背丈を超えるほどの杖を持っていて、その最上部には拳ほどの大きな水晶のような石が嵌めてある。
あれが魔法具の核となる魔力増幅石か?
「それにしても必死だったな」
麗玄王は私を降ろしながら不思議そうにしている。彼の部下も少し様子が変だったと言いたげな様子だ。
「あの男はお前の直属の部下ではないのだろう?」
「そうですね。あの人は魔力の発現すぐから命すら脅かす巨大すぎて制御できない力を持っていて、ヴィトン家が保護し我が父が力づくで押さえ込んでいたようです。我が家にいたようですが、私が生まれた少し後に出ていったようですが……、そういった上下の強力な繋がりはあります」
私との直接のつながりはないが、ヴィトン家の先代とはあった。力の強いものを囲い込むのは稀にあることだが、ユルフェほど骨が折れて本家に置いた子はいないといわれている。
「ヴィトン家が押さえ込む?」
「魔力のごり押しです。私もできます」
「魔力の使い方見てたけど、繊細な見た目なわりに脳筋」
はっはっはと楽しそうに笑うのは麗玄王の若い部下だ。ユルフェに一撃を入れた男。その男をツーマンセルを組んでいた壮年の部下がスパーンと殴る。
「あれの血統魔法はなんだ?」
「ユルフェに血統魔法はありません。突然変異です。これ以上は教えません。私は中立です」
しぃ、と口元に人差し指を当てる。麗玄王はふっと笑った後に、木に寄りかかる。
「楽しそうだな。自領が戦火に見舞われる確率が高いのに」
「そうですね。陛下に初めて言い返しました。やはり、私は憎悪と力の中で生を実感する」
口元から首元に手をずらし、手で首を掴む。激しく鼓動打つ動脈に笑みが浮かぶ。
「戦場こそ我らが生きる場所。平和をと叫びながら心の底では戦を望んでいる狂戦士が五族。この混乱こそ世界一に君臨している五族が待ちに待った我らを飲み込む乱世!」
ごくりと息を飲む音が僅かにして、麗玄王が目を見開いている。私は麗玄王のほうに歩き、胸倉を掴む。
「さあ、魔法を使えるようにしなさい。参戦しない代わりにあなたの兵士鍛えてあげましょう。その神の御物のようなものをつかっている人間があんなお粗末な魔力の回し方! まるで幼児の水遊び! 水路というものを叩きこんで導いてあげましょう。もっとましな威力も出るはずです」
覗き込んだ麗玄王の瞳に私が写っている。ここ数年の中で一番、楽しそうな顔だ。
麗玄王は私の手を掴み悪人めいた笑みを浮かべる。
「ああ! その顔だ! その目に惚れた! 必ずお前を手に入れる!」
のぞき込んでいたはずなのにいつの間にか抱き寄せられて仰け反る形になっている。
「お前は俺のものだ!」
瞳孔の開ききった目が私を見つめている。
一、二秒のわずかな時間見つめあっただけで昂っていた気がなぜか一気に治まり、自分も瞳孔の開いた目で詰め寄っていたのかと直感で察してしまった。




