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「流転! それすらも燃やし尽くすお前が言うか? ヴィトン卿」
バカを言うなと言うように吐き捨てる陛下。
「ヴィトン卿、戦果に浮かれ反抗期もいい加減にしろ」
私をたしなめる様にいうのはグロリア卿。エンワイズ卿は宥めるように陛下の腕を引いている。
「浮かれている!? 反抗期! 現実を見ております!」
なぜそんなに拒絶するのかわからない。
「ヴィトン卿……あの男に惚れたのですか?」
「はっ!? 惚れた!? ありえない! 正統なる取引です!」
思わぬ言葉に怒鳴るように言ってしまったが、その言葉を発したユルフェが目を点にして驚いている。
周りも驚いたように私を見ている。なんでそんなに驚いているのかわからないが、ユルフェが私を抱え直し指示を仰ぐように陛下を見た。そして、冷たい目をした陛下がユルフェに命令を下した。
「ユルフェ、それを孕ませろ。手段は問わない。そのうち目も覚めるだろう」
「……」
実力行使で話しを聞こうとしない陛下にわずかな失望が芽生える。
でも、まあ、そんなことはどうでもいい。
「約束は、反故という気か?」
怒気を孕んだ麗玄王の声が響いた。パニックになっているだろうユルフェはびくりと肩を揺らしてから麗玄王を見た後に陛下を見る。
「それは、ヴィトン卿を押さえつけろという命令ですか?」
「ああ、そうだ。ユルフェ。戯れ、戯れだすべて。どの国ににつく? 我が国が世界一だ。お前が一人で証明しただろう、ローズ。メリットはどこにもない」
「はい……? もしかして……麗玄王、何も説明していないのですか?」
「ヴィトン卿何を御知りなのですか?」
「それは我が国への侮辱と取ろう!」
高らかに笑いながら麗玄王は魔法陣を展開させる。
見たこともない魔法陣に私も含め、帝下四族やユルフェまでもが身構える。麗玄王の部下は転送魔法を展開させ、グロリア卿が「まさか!」と叫ぶ。どこまで繋いだかを探ったら思った以上の長距離だったのだろう。魔法具とは、帝下四族を超えるものを作る、戦況を覆すそういうものになるのだろう。
麗玄王の魔法が発動したが、周囲に変化はなく「不発?」というざわつきが起こる。
「ヴィトン卿、お前が判断する勝ち戦のほうに来い!」
伸ばされた手に力の入る足。
僅かな変化だが身体、足が動いたことにユルフェが気が付いた。強いては陛下の魔法が解けたことで麗玄王が陛下と対等かそれ以上の対抗魔法もしくは、陛下と同じ記憶魔法を使えると言うことを意味している。そして、私がどちらに行こうとしているのか直感で察したのだろう。支えている手に力が入り押さえ込まれる。
「三つ、問います」
「ああ」
私がそう答えたことに狼狽えるのは他の帝下四族だ。三つの答え次第ではクレージュ帝国を超えると私が暗に答えたからだ。
「あなた程度の魔法師はどれほどいるのですか?」
「クレージュ士官学校の三倍ほど」
無意識だろうがぐっと押さえつける力が強くなる。
だいたい百八十名程度。領土広さのわりに少ないが、可もなく不可もなくだ。
「あなた以上の魔法師はどの程度いますか?」
「俺以上となると幅が広いが、大隊は二、三組める程度にはいる」
だいたい百二十名程度。低く見積って、百。
ユルフェの甲冑に押さえつけられていて胸が圧迫されて苦しいがこれだけは聞かなければならない。
「最後です! 供給量はどれほど!?」
供給量という言葉に陛下たちは顔をしかめる。私だけが公開された情報があると、感づいたのは静観していたエンワイズ卿だろう。
「今あげた程度にはすでに配給できている」
意識してみても魔法はまだ使えない。
「ユルフェ! 放しなさい!」
「はっ、はい!」
「あッ、バカ!」
反射的に放したユルフェに雑言を投げたのはサディだ。一瞬よろけながら麗玄王の方にみっともなく走れば、笑いながら麗玄王は私を抱き留める。
「ただ走るのは遅いなぁ」
短い距離だったのにそう言われてむっとする。
「年相応で愛らしいな」
「うるさい。……もし、麗帝国と戦をするのならば、ヴィトン家は戦には静観を、ヴィトン家の所有する者には降伏するように命令を出します」
陛下を見ながらそう言えば、怒り心頭と言うような表情でこちらを見ている。
グロリア卿は驚いたように、サディ卿は楽しそうに、エンワイズ卿は興味深そうに観察をしている。
「何を知った? ヴィトン卿」
「新しい世界の一片を」
「引かせてもらおう。じっくりと話し合うがいい」
ぐっと抱き上げられて地面から足が浮く。
「は? ちょっと降ろしてください。私は残ります!」
「お前は俺と婚約したいんだろう? ならば孕ませるなぞいわれている場所に置いていくメリットがない」
すたすたと歩きだす麗玄王に、後ろから血がのぼっているだろうユルフェが切りかかる。その剣には強化魔法がいくつも乗せられているのが見て取れる。普通ならば、我が国の人間は破壊に徹した剣を受け止めることはできない。彼の魔法を止めることができるのは、彼を殺すことができるとされる帝下四族と陛下だけ。
故にユルフェは帝国一の騎士となった。
「世界の鱗片を見ただろう」
ユルフェの剣を受け止めたのは、麗玄王の部下二人だ。
「なっ!」
ビシッと麗玄王の部下二人の剣に亀裂が入るがその程度。
すぐにユルフェが立て直し、右の男にもう一撃を入れようとするが戦慣れしている様子のその武将はすぐに後方へと距離をとる。左の若めの男は魔法を乗せた剣の面でユルフェの脇腹に向けて叩き込もうとする。
「新世界の覇権は我らが握る」
ユルフェは反射的に脇腹と剣の間に、防御魔法をまとわせた左腕を入れる。
「っ……!」
「ほぉ! 間に合わるとは帝国一はやっぱ伊達じゃねえな」
バキッと大きな音がし、腕の甲冑がガラスのように砕けてユルフェの刺さっている。
「ユルフェ!」
「折れてない!」
荒く、吠えるように答えたユルフェ。
ほかの帝下四族は観察、そしてユルフェを囮に不自然の原因を探している。
「返せ! その方は私のすべてだ!」
「ヴィトン卿、魔法が解けたのなら自らこちらへ来い」
「いや、ブラウエル。魔法に関しての私の魔法は途切れていない」
なんだ? と言うように首を傾げながら「どう思う?」とエンワイズ卿を見た。エンワイズ卿は「さあ? 軽率には判断しかねますねぇ」と笑って私を見た。
「ローズ」
「なんです」
「世界は甘くない。我々は使えるものを歪曲してでも使うよ」
「知っています」
「戦争はごめんだ。我々の人としての評価を下げるからね。だけど、戦争こそ我らが生を実感する唯一の場所。お前が必死にやっていた事を知っている。我らの愛しい末っ子。愛しい紅一点、忠告しよう。ヴィトン領を焚きつけて戦場に変えることは容易い。……意味は分かるね?」
言い聞かせるように言うエンワイズ卿にカチンとくる。
「やかましい! 麗帝国に私は勝機を見た! 帝国に反旗を翻す気もない。これが事実! 以上!」
っはっはっは! と楽しそうな麗玄王の笑い声。誘拐されるように抱えられた私は麗玄王と転送魔法陣の中に入る。麗玄王の部下それに「どうします? 来ます?」と挑発のように促されるようにヴォルフラムも入りユルフェを相手していた若い男も飛ぶように後退し転送魔法陣の中に入った。
「――では、戦場で相まみえよう」
ユルフェがなりふり構わず甲冑の破片が突き刺さった、血まみれの腕を伸ばして走ってくる。
「ヴィトン卿!!」
さらば、と言い終えた後転送魔法陣は別場所をつなぐ門を閉じ、捨てられた様な顔をしたユルフェは間に合わなかった。
国試受けてました。高確率で合格しました。
来週もまた、別の国試を受けるのでちょっと更新まばらになります。




