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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
37/44

31

 ぶわりと魔力の発生を予期した。


 そのまま進み続けようとする麗玄王を止めるように手を伸ばす。そして、黒点が現れ一瞬にして大きくなる。その中から次々に人が現れる。


「……え?」


 出てきたのは、現当主グロリア卿とサディ卿、エンワイズ卿にユルフェ。そして、笑みを浮かべたまま一番最後に出てきたのは陛下。

 反射的に跪く。私の様子を見たクレージュの人間は跪いて、「誰だ?」とざわついている。


「私のローズ、立ちなさい。戦況はどうだろうか?」


 立ちながらざわつく彼らに向けて「陛下」と呼びかけほほ笑む。


「はい、雪月の騎士を捕縛した後、今は掃討戦に移行しています」


 陛下はほほ笑みを浮かべながら私の傍により頬を撫でようと手を伸ばす。いつも通り記憶の確認も含めた行為に拒否なく受け入れようとしたら、遮ったのは麗玄王だった。


「……君は」


 訝しむように一瞬麗玄王を見た後に笑みを浮かべた。そして少し離れて楽しそうに口を開く。


「ローズが欲しいようだが口説き落としたかな? それならばいいと言ったがもう時間切れだ。ローズに命令をしよう。ジャン・ジャック・ユルフェと結婚しろ」


 出来なかっただろう? と言うように楽しそうに笑っていて、ユルフェが私の前に同じく跪く。しかし、パニックしたようにざわつくのは私の後ろだった。


「きっと、ご不満も嫌悪もございましょうが今はどうか私の手を御取りください。後で何もかもを受け止めます」


 顔を青くしながら手を差し出してくる。その手は震えていて青くなっていたのはわかるが彼の表情は見えない。


 ざわついている声と一向に手を取らない私に一層怯えているようなユルフェだが、混乱しているのは私だ。私が許可しない限りは、ユルフェと番わせる気だったという話は、その両方を聞いていない。

 陛下の顔を見ればどうかしたか? と言うようにほほ笑んでいて、一層に困惑する。

 長時間の静寂にも似た、混乱が渦巻いた空間を切り裂いたのは麗玄王だった。私を抱き寄せて笑った。


「我らは貴様なんぞの手の上で踊る人間じゃない」


 麗玄王の発言で絶望したような顔をして顔を上げたユルフェ。


「ちょ、ちょっと待ってください麗玄王。なんですか今の交渉……! 私は聞いていません!!」

「そこの時代錯誤は血の絆、呪いなぞを妄信しているようだが呪いなぞ薄れるものだ」


 麗玄王と陛下がにらみ合い、私のことを麗玄王が抱きしめるように押さえ込んでいる。


「ん……? ちょっと待て、ローズお前承諾したってことか!?」


 サディが驚いたように叫んで、私の黙った様子や周りの様子を見て察したようだった。


「……その話を聞いていれば、もう少しよく考えてから答えを出しましたよ」


 相も変わらず絶望したような顔をしているユルフェに、麗玄王が抵抗を一切しなかった私のことを離す。

 私が断り続けていれば、お家同士の問題で国としてもヴィトン家とつなげることを断ることができたのかといまさらながらわかった。陛下としても私が靡くわけがないと高を括っていたと考えることができる。


「話しをよく詰めてからまた伺います。ヴィトン家として、麗帝国との同盟はとてつもないメリットです」

「あぁ……私のローズモンド」


 かくり、と足から力が抜けてユルフェのほうに倒れ込むように転んだ。

 ニコリと笑っている陛下に、驚いたようなユルフェが私を抱き留めている。


「歩き方を忘れたのか? 魔法で補強して歩けばいいだろう? それも忘れたのかな?」


 怒っている。笑みの下にはあきらかな怒気がある。ほかの帝下四族は「お前初めてやったな?」と言うように同情半分面白半分で見ている。

 クレージュ王家の血統魔法は記憶魔法。ありとあらゆる記憶に対しての干渉する魔法を初動もなく使って見せる。


「ヴィトン卿? どうされたんですか」

「すみませんが、そのまま支えてもらっていてもいいですか」


 どう動かすのかも、どう魔法を使うのかも無意識下の中での記憶。当分思い出せそうにない。


「認めるわけがないだろう? 私の帝下四族。手放すわけがない。お前は若いから、ただ間違えてしまっただけだな?」

「いいえ、認めてもらわなければ困ります。世界一のクレージュが危うくなるほどに時代は流転するのです」


 ユルフェが驚いたような様子で、私を支えている。私も私で這いつくばらないように片腕は地面についている。


 なんだか無様な気がしてならないが、ここは頑張りどころだろう。どう転んでも国が最悪の状況にならないように。

明日はお休みします。

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