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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
36/44

30


 ――ガキンッ


 衝撃音に私もアルバート・ブライトマン卿も驚いたように目を見開く。邪魔してきた、硬化魔法を付与されている剣の主を見る。


「……なぜあなたごときが、私の魔法を止められるのです……」


 ぶわりと圧倒してくるような眼力。


「あなたごときの魔法能力では! 私の魔法は止められないのになぜ!?」


 私の魔法を止めたのは、魔力確認して格下すぎると知っている麗凱紀だった。


「あなたは初陣だから知らないようだが、敵将は捕らえ情報を聞き出したのち身代金を支払ってもらうものだ」

「なぜ! 止められると聞いているのです!!」


 なりふり構わず叫んでしまう。麗凱紀は気にした様子がなく私の剣を弾き飛ばす。


「……魔法具、ですか」


 私の下のアルバート・ブライトマンがそういう。何か知っている様子だ。


「魔法具?」

「麗帝国の一部でとれる魔力増幅石を核に使った道具を使用している。私ごときの基礎値ではあなたの剣を止めることは簡単でも魔法を止めることは不可能だっただろう」


 私の手を掴みアルバート・ブライトマンの上から立ち上がらせる。

 そして、見つめあう形になる。


「あなたの戦う姿に惚れてしまった。俺と結婚してくれ。我が国でも一部にしか流通していない、魔法具の輸出をしよう。」

「……は?」

「あなたに恋をした。あなたが欲しくなってしまった」


 どうしたらいいの? と助けを求めるようにアルバート・ブライトマンを見ても彼もびっくりして目を見開いている。


「ただあなたに一つだけ否定しなかったことがある。結果的にあなたを騙す形になってしまっている」

「……なんです」

「私の名前は麗玄王という」


 玄王は、麗帝国皇帝の第一王子の名だったはずだ。


「……は?」

「勘違いを正さずに済まなかった。私の正妃になってはくれないか?」

「……」


 まって、まって処理が追い付かない。

 パニックになっている間に腰を抱き寄せられて、麗凱紀……いや麗玄王は私に魔法具というものを握らせる。小さな石のようなものだった。


「我が国の魔法具は世界の情勢を変えた! 貴殿も実感しただろう? 手を組まない手はないだろう?」


 興奮したような瞳に圧倒されていると、急にグルんと麗玄王と場所が入れ替わったかと思えば、麗玄王とアルバート・ブライトマンが打ち合っている。麗片手の玄王と両手のアルバート・ブライトマン。互いに魔法を使っているようだが、麗玄王のほうが勝っている。


「理解していただけただろう?」


 得意げに誇っている麗玄王に、憎々しそうなアルバート・ブライトマン。


「今は時代の転換期だ」

「黙れ侵略者!」


 私を抱えながら軽々と打ち合って見せる麗玄王。一方で、消耗しきったアルバート・ブライトマンは必至だ。


「貴様らが台頭しなければ! 我ら一、二を争った二国が手を組まず静観したからこその平穏を!」


 バキン、と音を鳴らし吹っ飛ぶ麗玄王の剣。そこからはスローモーションのようだった。突きの構えをするアルバート・ブライトマンに、初めて僅かな焦りの表情を見せた麗玄王。

 一瞬考えたようで私を庇うように全身で抱き込み、アルバート・ブライトマンに背を向けた。


「貴様らが! 我らが黙殺したこの思いも何もかもを! 台無しにしてくれたのだ!」


 麗玄王の脇から手を伸ばし、伸びて来た剣に向けて魔法を放つ。


「火炎魔法 熔解」


 ドロリと熱で溶ける剣先に、アルバートの驚いたような目と見つめあう。


「私は今、あなたと戦争中です」

「……ッ」

「魔法具というものが時代の先駆けと言うのなら、生き残るために手を取りましょう。……まあ、それなりに便利ではあるが今のようなとっさの反応に対しては使用者の基礎能力がものを言うのでしょうけど」


 そう、見上げながら言えばにやりと男は笑う。


「ならばヴィトン卿は我が国との婚約に了承してくれるか?」

「様々詰めるべき点はあるでしょう。持参金もこちらで用意いたします。唯一、確定で求めるのは」

「子どものことだろう? 貴殿が思う一番優秀な子供を持って行ってもらって構わない。それが第一王子であろうとヴィトン家の当主になるのなら俺が認めよう。その代わり、複数人産んでもらうが」


 遮るように先に言われた言葉。そしてパキパキと麗玄王は失意に沈んだアルバート・ブライトマンを拘束していく。


「……良くお分かりのようで」

「貴殿より長く生きているからな」

「けれどそれもすべて陛下が許せばの話です」


 掃討戦に移行との狼煙があがり、ようやく歩兵と魔法師が前線に出る。私と麗玄王、アルバート・ブライトマンの横を通っていく兵士たちを見てから麗玄王を見た。


「それでもよろしければ、陛下に話を通します」

「構わない。貴殿は俺を選んでくれるんだな」

「はい、そうです」


 そうすれば、見たこともないほどに緩んだ顔をした。いつも訝し気に周りを見ていた目の前の男がぽかんと驚いたように眉間の皴などが消えた。

 おかしくなって笑うと、男は困ったように私を見ていた。


「ヴィトン卿!」

「お嬢様!!」

「主様!」


 三種三様の声が聞こえて振り向けば、走ってくる私のヴォルフラム。その後ろを案したようなプリチェット卿とフロイト、焦ったような麗玄王の部下が追いかけている。


「ご無事で何よりです、お嬢様」

「はい、早い到着でした。ご苦労様です、私のヴォルフラム」


 跪いているヴォルフラムの頭を撫でていると、化け物を見るような目でプリチェット卿と麗玄王や彼の部下がヴォルフラムを見ている。

 そりゃ、魔法を使って走ってた彼らを身体能力だけで抜き去って私のもとに駆け寄ったのだから驚くだろう。


「私のヴォルフラムも捨てた者じゃないでしょう?」

「お側を離れて申し訳ございません」

「いいえ、気にしてませんよ。あなたも無事そうで何より」


 そう言えば、私の後ろに立ち従者としての仕事を始めた。やっとホッとする安心感。


「プリチェット卿、あとは任せてよろしいですね」

「はい、賜りました」


 そして、行きましょうと言うように麗玄王を見上げると麗玄王も私の横に立つ。


「……お嬢様?」


 なぜ? と言うように首を傾げるヴォルフラムにああ、と振り返る。


「ヴォルフラム、私、この方と婚約をします。話しを詰めて、陛下に許可をもらうだけです」


 はぁ!? と悲鳴のような声が上がって気にすることなく進んだ。

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