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令嬢当主は今日も頭を抱えている  作者: 夢崎飽和
学園編
33/44

27

 開戦まで一時間に迫った。

 外に出ると心地のいい殺気と緊張感。


「ヴィトン卿だ……」


 ざわつく兵士たちに手を振る。隣のダウン辺境伯は緊張感のない兵士に頭を押さえている。

 風に乗って流れてくる雪月の騎士の魔力。彼の騎士も興奮しているようだ。


「雪月の騎士が興奮しているようです」


 魔力が抑えきれないほどに興奮している。私は細心の注意を払い魔力を抑え込んでいる。誤報を放った理由がない。


「……雪月の騎士が」

「はい、地形の相性が悪いのにいらっしゃるようで、どうにもクレージュ帝国の礎となりたいようです」


 ふふふ、と笑う。軍服に身を包んだフロイトは少し緊張気味に私の後ろに立っている。振り返りながら彼の手を取る。


「ヴィ、ヴィトン卿? どうされました?」

「フロイト、あなたは私の後ろに立っているだけで充分ですよ。そんなに緊張しなくて平気です」

「は、はい!」


 私はダウン辺境伯の案内に合わせて、魔法大隊の隊長のほうへと向かう。顔を合わせた瞬間に子どものように抱き上げられた。


「奇跡はここに!」

「……下してくださる? プリチェット卿」


 相手の恍惚そうな顔にげんなりとしてしまう。女児が人形を抱いているように私を抱いている。フロイトが走り出して止めようとしたが、彼が胸につけている階級章と勲章で一瞬止まってしまった。そのために私はプリチェット卿に誘拐されてしまった。


「ああ、ヴィトン卿! 相変わらず人形のように美しい! その髪型も素敵だ」

「私の言葉は聞こえています?」

「こんな何もない面白味のないところであなたがいるなんて奇跡はここに!」

「話しを聞け、ばか」


 手刀を頭に落とせば、やっと落ち着いてくれたが降ろしてはくれない。


「ところで、ヴィトン卿。何の御用で?」

「部隊の内容は?」

「攻守半分、ってかんじですかね。私が指導している部隊のなので若干守りが強いかと」

「対界防御壁は張れます?」

「ぼちぼち、といったところで」

「開戦直後、全部隊を囲む対界防御壁を張って静観してください」

「お任せを」


 対界防御壁は空気に至るまですべてから拒絶する防御壁の中で最高ランクの魔法。部隊長をしているプリチェットも本来は旅団長であり、円卓の騎士である。

 黙って私のことを抱き上げているプリチェット卿を見下げると、彼はニコリと笑う。


「どうされました?」

「サディから、連絡は来ている?」

「いいえ。サディ卿がいらっしゃるんですか?」

「もう来ても良い頃合いなのだけれど、まあいいわ」


 ぴょんとプリチェット卿の腕からおり、笑う。


「さあ、もう少しで開戦ね」

「ええ、久方ぶりの戦争です」


 ぎらついたプリチェット卿。興奮気味に魔力を垂れ流してしまっているが、気にするほどではないだろう。


「我らが生きる場所です」


 ■□■


 徐々に緊張高まる戦場で、ヴィトン卿はひたすらに楽しそうに笑みを浮かべておりプリチェット卿に寄りかかっている。

 プリチェット卿もプリチェット卿で嬉しそうにヴィトン卿を抱き留めておられる。

 戦場の花ヴィトン家。戦場の砦プリチェット家。なぜ、こうもタイミングよく双璧がこの短時間で揃っている?


「さあ、定刻ね」


 時計を確認しながらヴィトン卿が口を開いた。


『――宣誓 再三の勧告を無視したクレージュ帝国に告ぐ。我らコリスカ公国は大陸の平和を守らんとするため、世界の怨敵麗帝国に尾を振り、二国で大陸を戦火に包もうとしているクレージュ帝国に正義の鉄槌を下す。これは自国のためではなく、世界平和を祈ってのもの。戦争法にのっとり、攻撃を開始する』


 魔力の拡声。その声と同時にプリチェット卿は艶やかなまでの対界防御壁をクレージュの全部隊覆えるほど巨大な構築を行い、プリチェット卿の部隊は対界防御壁を強化するかのように魔法を展開していく。

 部隊内でも初動は同じように学生のフロイト自身思えた。しかし、初動からの展開の速さが並外れている。


「気合を入れて耐えなさい、プリチェット卿。フロイト、そこで部隊の動きを見ていなさい」


 別の人物のように見えた。アルフレットに抱きしめられていた彼女はとてもか弱く、噂に聞いていたのと違わず、可憐で頼りないヴィトン家当主だった。自分が守って、アルフレットとどうにか番い、妹に読み聞かせていたようなハッピーエンドを迎えてもらえればきっと、これまで通り平和な世の中が続いていくのだと思っていた。


 ふわりと浮き上がるヴィトン卿。


「浮遊魔法? まさか!?」


 ギャップに驚いていると、プリチェット卿の部隊から驚愕の声が上がる。空を飛ぶことは現行魔法では不可能だ。


「落ち着け、あれは違う」


 うっとりとしながら、プリチェット卿はずっとヴィトン卿を眺めている。


「さあ、()し合いましょう。アルバート」

「炎の熱気で浮かんでいるだけ」


 部隊の間を、悠然と進んでいく姿は、ここにいたどの兵士よりも恐ろしくたくましく見えてしまった。


「すべてを燃やし尽したこの国の原初ヴィトンの炎。気張れお前たち、最初から大技を決めてくる気だ」


 プリチェット卿はすでに、アルバート・ブライトマンからの氷結魔法を食い止めていることが何でもないかのように笑っていた。

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