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ローズはすぐにベッドに座り込み、通信魔法を使う。するとすぐにサディに繋がる。
『よお、軍事基地の居心地はどうだ?』
「最高ですね、と答えておきましょう。今どこに?」
『クレージュ士官学校だな。今日はここで、色々してから泊って早朝に出てそっちに向かう』
「わかりました。学校のほうは無事ですか?」
『いいや? あの後、街に盗賊が現れて令嬢たちで街の住人を守る拠点防御につかわれたな』
離れたのは失策だったか? と首を傾げるが制止するようにサディが手を出す。
『お前は拠点防御に向いてないよ。離れて正解だ』
「……ならいいのですが」
それで、とサディが口を開く。にこりと笑みを浮かべる。
『ユルフェはお前との婚約を了承した。お前からきちんと打診しろよ』
「それは良かった」
ふぅ、と安心する。気が安らいで頬が緩む。その私の様子を見てかサディもほほ笑む。
「どうして? あなたがうれしそうなの?」
『さあ、どうしてだろうな? ユルフェと話すなら、学生たちと離すが』
「……いいえ。もしできるのならば、ゆっくりと休ませてあげてくださいな。明日は戦争です」
にっこりとほほ笑む。
「あなた、戦争になることを知っていたのでしょう? 一発殴るから覚悟しておきなさい」
『へいへい、了解』
「あと、気が付いたらでいいから、私のヴォルフラムに心配しなくていいとお伝えを」
『了解』
「では、また明日」
『ああ、また明日。戦場で会おう』
■□■
翌朝身だしなみを整えて、一つに髪を結い上げ、軍服に袖を通す。帝下四族用の軍服がどの軍事基地にも置いてある。困ったことにここの軍服は手入れされていなかったようで、見た目は普通だが若干かび臭い。香水でも持ってれば良かった。
困ったことにこの部屋には小さな鏡しかなくて、全身が見えない。
「……どうしましょう」
ヴォルフラムがいれば全部彼に任せればよかった。でも、彼がここにいても私の世話以外にできることはあまりないし、最悪死んでしまうでしょう。
そういえば外に護衛の方がおられると、ダウン辺境伯がおっしゃっていた。申し訳ないが手伝っていただこう。
ドアを開けて顔を覗かせると、何を考えているかわからない一点を見つめていた騎士の方が立っていた。私がドアを開くとその方と目が合い、こてんと首を傾げられた。
「おはようございます。ヴィトン卿、どうかなさいましたか?」
「おはようございます。あの……大きな鏡がないので、全身の確認お願いしてもいいですか?」
「……かしこまりました」
一瞬驚いたような顔をした後、微笑ましいものを見るように目元が緩んだ。
もう一人の護衛と目配せした後に部屋を入ってくる。
「一応、一人で頑張ってみたのですがおかしなところはございませんか?」
くるり、と彼の騎士の前で一回転してみせると、「大丈夫です」と声かけられる。
「少し、御髪を弄ってもよろしいでしょうか?」
軍帽と私の髪を見ながら彼は何か考えているようだ。
「……構いませんよ」
「はい、では失礼します」
私は椅子をもって小さな鏡の前に座り、彼は私の後ろに立ちてきぱきと結んでいく。私が結んだ髪をそのままに、高さを変えてからくるくるとまとめて丸くまとめてしまった。
そして軍帽を持ってきて「失礼します」と言ってから彼は私に軍帽をかぶせる。
「こちらの方が軍帽がぴったりかぶれて、戦時中ストレスになりずらいと思うのですが……」
いかがでしょうか? と不安そうに鏡越しにのぞき込む騎士に笑みを浮かべる。
「素敵です。ありがとうございます」
「お気に召されて何よりです。また何かございましたら、お呼びください」
「はい、ありがとうございます」
きゅっと軍帽を被りなおし、窓越しに空を見る。晴天の空に、笑みが零れる。
「やっと私の戦場ですよ、アルバート・ブライトマン卿」
周囲に民家のない戦場。そこが誰かの生計を立てる職場でもない。いや、誰かの生計を立てる場所かもしれないが、そこは何もない野原。
延焼を恐れる必要はない。
「あなたのすべて、燃やし尽くしてしまいましょう」
当主になったときから抱いているこの恋心にも似た、殺意に決着をつけましょう。




